日本アニメ支えるトップアニメーター大平晋也氏、スター・ウォーズ作品で描いた戦争 圧巻の作画も「一生勉強」

巨匠ジョージ・ルーカス監督が生み出した「スター・ウォーズ」(SW)シリーズ。今も映画、ドラマ、アニメーションと新たな作品が誕生する中、スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』(2001年)など数々の名作の原画を担当した日本のトップアニメーター・大平晋也氏が、異色作を手掛けた。これまで“やられ役”だった帝国軍の兵士・ストームトルーパーの物語『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3の一編『BLACK』だ。動画サービス「Disney+」で独占配信中の本作について、監督を務めた大平氏に制作の舞台裏を聞き、アニメーター人生にも迫った。

大平晋也氏が監督を務めた『BLACK』場面カット【写真:(C)2025 Lucasfilm Ltd.】
大平晋也氏が監督を務めた『BLACK』場面カット【写真:(C)2025 Lucasfilm Ltd.】

『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3の『BLACK』で監督

 巨匠ジョージ・ルーカス監督が生み出した「スター・ウォーズ」(SW)シリーズ。今も映画、ドラマ、アニメーションと新たな作品が誕生する中、スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』(2001年)など数々の名作の原画を担当した日本のトップアニメーター・大平晋也氏が、異色作を手掛けた。これまで“やられ役”だった帝国軍の兵士・ストームトルーパーの物語『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3の一編『BLACK』だ。動画サービス「Disney+」で独占配信中の本作について、監督を務めた大平氏に制作の舞台裏を聞き、アニメーター人生にも迫った。(取材・文=猪俣創平)

『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は、世界的評価を得るアニメスタジオが、クリエイター独自の視点と発想でSWを描く一大プロジェクト。第3弾となるVolume3では、日本が世界に誇る9つのアニメスタジオが参加した。

『BLACK』は、日本アニメ特有の“かわいさ”や“キャラクター性”を盛り込んだ多種多様な9作品の中で、ひときわ異彩を放つ。“やられ役”として描かれてきたストームトルーパーを主人公に据え、戦争の闇と兵士の心の揺らぎに焦点を当てた。

 大平監督は制作の出発点について、「SWの世界観そのものを描くというよりも、そのディテールを借りて“戦争とは何か”を描きたかったんです。戦場の正義や闇、兵士たちが何を感じながら戦っているのかを見つめたかった」と柔らかな口調で語り、「基本的には戦争ノイローゼになったトルーパーを描いています」と本作の視点を明かした。

『BLACK』の後半では、シンガー・ソングライターの藤原さくらが歌うスイングジャズ調の楽曲に合わせて展開する、セリフのない音楽的アニメーションとなっている。藤原のやさしい歌声と、激しくうねる映像がぶつかり合い、独特のリズムと高揚を生む。

「最初から“音楽ありき”で作りたかったんです。画をとにかく動かし続けて、音と完全にシンクロさせる。藤原さんには制作中の映像を見ていただいて、そこに合わせて歌をアレンジしてもらいました」

 その音楽を引き立て、魅力的な映像に仕上げているのが、圧倒的な作画力だ。大平監督の指揮のもと、国内外のアニメーターが集結し、制作された。1分近い長尺のワンカットもあり、大平監督の代名詞ともいえるデフォルメされた線と激しいアニメーションが躍動。見応えがある。

 作画に集中していた期間は約半年だったが、「1年では終わらないくらいの作画規模でした」と心血を注いだ。そのように自身の“やりたいこと”を詰め込んだ本作は、10月29日に配信が開始されると、国内外のアニメファン、SWファンから称賛の声が相次いだ。

「背景も全部動かして、キャラクターも最初から最後まで止まらない。とにかく“動かしっぱなし”です。ものすごい大変な作業でした」と苦笑しながらも、「ストレスフルで、肉体的にはきついけど、自分の好きなものを描くので、精神的にはすごく高揚していくんですよ(笑)」と、監督作品ならではのやりがいを語った。

 劇中、印象的だったのは、どこかスタジオジブリ作品を思わせる柔らかな空気感や迫力ある爆発シーンだ。「僕自身、ジブリで長く仕事をしてきたので、その空気感が自然に混ざっているのかもしれません」と影響を明かした。

 大平監督が初めてジブリ作品に参加したのは映画『紅の豚』(1992年)。憧れの宮崎駿監督から直筆の手紙でオファーを受けたこともあった。「まだ20歳を少し過ぎた頃だったかな。本当に舞い上がりました」と笑みを見せた。ジブリに籍を置いて、日々ペンを走らせる中で「宮崎さんからは厳しく丁寧に活を入れてもらって、ありがたくも怖くもありましたね(笑)」と修練を積んだ若き日を回想した。

 以後、『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』(04年)『君たちはどう生きるか』(23年)といった大作で、激しくリアルな作画で存在感を放った。「僕自身、我が強い方ですから、『大平君のやりたいように』という傾向が高まり、最近では『大平君ならここ』とシーンを割り振っていただいています」。

ストームトルーパーの視点からダイナミックに描いた【写真:(C)2025 Lucasfilm Ltd.】
ストームトルーパーの視点からダイナミックに描いた【写真:(C)2025 Lucasfilm Ltd.】

一時は地元に戻るも…「自分にできるのは原画を描くこと」

 もっとも、アニメーターを志した当初は現在のスタイルとは異なっていた。若い頃は高名な2人のアニメーター、金田伊功さんや山下将仁さんに憧れていたそうで、「いわゆる“金田調”の動きを追っていました」と金田さんが確立したアクロバティックな表現を目指していたという。

 だがその後、映画『AKIRA』(1988年)やジブリ作品の原画に携わるうちに「どんどんリアル志向になっていきました。でも最終的には、アニメーションならではの“誇張”や“らしさ”が面白いと再確認しました。それを上手く表現できることは、アニメーター人生にとって叶わない願いかもしれませんが、一生勉強していく部分だと思っています」とたゆまぬ向上心をのぞかせた。

 そんな大平監督は1980年代に活動をスタート。長年アニメ界に携わってきたが、実はアニメーター業から離れていた時期がある。「僕は長男だったので、『何年かやって芽が出なかったら帰ってこい』と言われていたんです」と家業を継ぐため、地元の愛知・名古屋市に戻った。

「でも、家業も思うようにいかなくなりまして……。やっぱり自分にできるのは原画を描くことだと思ったんです。名古屋でも描けるから、これならやっていけるかなと」と当時の思いを打ち明け、アニメーターとして再始動して以降、現在も自宅を拠点に制作を続けている。

「アニメーターはスタジオで作業するのが一番だと思います。でも自分は会社員タイプではないので(笑)。クリエイターには昔からこういうスタイルもありますし、いい距離感で仕事ができています」

 近年は、フジテレビ系で放送中のアニメ『ONE PIECE』でルフィの覚醒した姿“ギア5”、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(公開中)など国内外で話題を呼ぶ作品にも参加し、第一線を走り続けている。

 原画を描く喜びを問うと、「やっぱり動きを考える工程が一番楽しいです」と即答。「きれいに仕上げることより、どう動くかを小さなコマで考える時間が好きなんです。つなぎ合わさったときにアニメーションを描く面白さを一番感じますね。動きを設計する瞬間が、アニメーターとして一番幸せなんですよ」と笑顔を見せた。

 最後に、自らの描きたい表現を詰め込んだ本作について改めて聞くと、「画が最初から最後までずっと動いているダイナミックさを“音と映像で体感してもらう”。『アニメーションとはこういうものだ』と感じてもらえたらうれしいですね」と目を細めた。

 穏やかな語り口の奥に、アニメーターとしての情熱と信念がにじむ。日本アニメ界の“作画の神”が描いた唯一無二の「スター・ウォーズ」新作は、きっと見る者の心を揺さぶるに違いない。

□大平晋也(おおひら・しんや)1966年12月12日、愛知県出身。高校卒業後、スタジオぴえろに入社。その後、フリーとなってからはアニメーション映画『AKIRA』(88年)などで原画を担当。『紅の豚』(92年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ハウルの動く城』(04年)、『君たちはどう生きるか』(23年)など宮崎駿監督作品をはじめ、『ピンポン THE ANIMATION』(2014年)のオープニングなど数多くの作品で原画を手掛ける。

※宮崎駿の「崎」の正式表記はたつさき

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