ハーバード大&名門音楽院卒のバイオリニスト・廣津留すみれ、超エリート経歴も重圧なし「両親の影響が大きかった」

バイオリニストの廣津留すみれが、9月24日にソロアルバム『11 Stories』をリリースした。演奏家として自身の原点ともなった、20世紀を代表するバイオニリストで作曲家フリッツ・クライスラーの作品を中心に11曲を収録。自らの音楽的な“本質”に焦点を当てた作品に仕上がった。高校在学中に米ニューヨークのカーネギーホールでソロデビューし、大学時代に世界的チェロ奏者のヨーヨー・マと共演。2022年には廣津留も参加した、バイオリン奏者のギル・シャハムのアルバムがグラミー賞にノミネートされるなど、今回、数々の実績を積む彼女の音楽ルーツに迫った。

ソロアルバム『11 Stories』をリリースした廣津留すみれ【写真:くさかべまき】
ソロアルバム『11 Stories』をリリースした廣津留すみれ【写真:くさかべまき】

ソロアルバム『11 Stories』で幼少期からの思い出の曲を演奏

 バイオリニストの廣津留すみれが、9月24日にソロアルバム『11 Stories』をリリースした。演奏家として自身の原点ともなった、20世紀を代表するバイオニリストで作曲家フリッツ・クライスラーの作品を中心に11曲を収録。自らの音楽的な“本質”に焦点を当てた作品に仕上がった。高校在学中に米ニューヨークのカーネギーホールでソロデビューし、大学時代に世界的チェロ奏者のヨーヨー・マと共演。2022年には廣津留も参加した、バイオリン奏者のギル・シャハムのアルバムがグラミー賞にノミネートされるなど、今回、数々の実績を積む彼女の音楽ルーツに迫った。(取材・文=福嶋剛)

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――今年9月にリリースしたソロアルバム『11 Stories』は、廣津留さんがバイオリンと出会ってから今日まで大切に演奏してきた曲を1枚にまとめたアルバムだそうですね。

「そうなんです。以前から自分のルーツをCDにしたいと思っていて、だったら自分でレーベルを作ってしまえば自由にできると思い、アメリカにいる仲間たちにやり方を聞きながら『Hatch Music』という私のレーベルを立ち上げました」

――バイオリンとの出合いについてお聞きします。

「両親から聞いた話で私は赤ちゃんの頃、ハイハイを始めるのが早くてリズム感が良かったそうです。それで楽器を持たせてみようとなり、2歳の終わりくらいにバイオリンを始めました。ピアノも5歳から始めたのですが、最後まで続いたのがバイオリンでした」

――ご両親の音楽好きも大きかったそうですね。

「そうですね。でも音楽をやっていたわけではなく、普通の音楽好きなんです。父は昔からクラシックや洋楽をよく家で聴いていて、家にはクラシックのレコードやCDがたくさん置いてあります。私は子どもの頃から自分の好きな音楽を探して、お気に入りを見つけたらCDにシールを貼っていました」

――『11 Stories』にはクライスラーの作品が多く収録されています。

「まさにCDにお気に入りシールをたくさん貼っていた私のルーツになります」

――クライスラーの魅力とは。

「演奏テクニックや親しみやすいメロディーは言うまでもなく、お客さんをいかに楽しませるかというエンターテイナーとしての一面があったことが作品や録音から伝わってきます。私も音楽でお客さんを楽しませたいという思いが原点にあるので勝手にクライスラーさんに共感しています」

――2曲目に収録されたクライスラーの『前奏曲とアレグロ』はそんな子どもの頃の思い出の曲だそうですね。

「今回のアルバムに収録している曲は幼少期にたくさん練習してきた曲やコンサートの節目で弾いてきた印象的な曲を集めました。『前奏曲とアレグロ』は、私が大分の公立小学校に通っていた時に文化祭で披露した曲です。クラシックに触れる機会があまりない生徒たちの前であえて自分の好きなクライスラーにこだわって演奏しました。すると演奏後に1人の女の子がやってきて『知らない曲だけど泣きそうになるくらいすごく良かった』ってほめてくれたんです。それが今でも忘れられなくて『これからも頑張ってやっていこう』と自信をもらった思い出の曲です」

――今作のもう1つの注目はピアノとバイオリンというシンプルな構成の演奏です。

「小学生でインタビューを受けた時に自然体という言葉で私を紹介してくださった方がいらしたんです。確かに余計なものを削ぎ落として『私の音はこれです』って言えるようなシンプルさにこだわっているなって思います。今作も2019年から長い間ご一緒しているピアニストの河野紘子さんと2人の演奏だからこそ表現できる世界観を表現したいと思いました」

――レコーディングはいかがでしたか。

「河野さんとは、演奏するたびにお互いの呼吸まで伝わってくるような息の合った演奏ができるので今回はコンサートのような空気感でレコーディングしました。大変だったのは9曲目、ウジェーヌ・イザイの『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番』のバラードです。伴奏がなくて私のバイオリンだけの演奏なので他の曲とは向き合い方が違いましたね。クラシックを詳しく知らない方にも複雑に聴こえないよう、メロディーや輪郭を意識して演奏しました」

――廣津留さんは予備校に通わずにハーバード大に現役合格するなど、勉強と音楽の両立は大変だったと想像します。バイオリンの練習がつらいと思ったことはありましたか。

「それがないんです。物心つく前からバイオリンをやってきたので私の生活の一部でした。特に小学生の頃は勉強もバイオリンも友達と遊ぶことも全部が大切だったので、そのためにバイオリンの練習時間をどれくらい確保するには勉強の時間をこれぐらい取って、じゃあ放課後のドッジボールは1時間だけにしようとか、自然と時間管理ができるようになっていました」

「いろんなジャンルの音楽を録音してみたい」と語った【写真:くさかべまき】
「いろんなジャンルの音楽を録音してみたい」と語った【写真:くさかべまき】

私のコンサートの理想形はaikoさんのライブ

――友達と遊ぶ時間もなく黙々と勉強や音楽をやっていたという勝手な印象を持っていました。

「その逆ですね(笑)。たぶん素朴で自然がいっぱいの大分で育ったことも大きいのかもしれませんし、何より寛大で褒めて育てるタイプの両親だったことも私にとっては影響が大きかったと思います。学校から帰ると母が5分に1回のペースでギャグを言ったりするような明るい人なので、変なプレッシャーを受けることなく勉強できたのも良かったのかもしれません。進学校の高校に通っていましたけど友達とたくさん話ができるお弁当の時間が楽しみでしたね」

――廣津留さんの“自然体の表現”はそんな生活環境で生まれたものも大きかったのでしょうね。

「そうかもしれないですね。ハーバード大学に通っていた時も、超多忙な生活ながら気持ちに余裕があって今を楽しんでいる学生ばかりの環境でした。みなさん勉強が楽しいからやっていて好きな分野はその世界のオタクになるくらい学んでいるから、それぞれが思い切り楽しんで学生生活をおう歌している印象でした。私も伸び伸びと楽しみながら生活していました」

――そうなんですね。さて、次回はどのような作品を考えていますか。

「まだ構想段階ですけど、クラシックだけじゃなくて、いろんなジャンルの音楽を録音してみたいです。アルゼンチンタンゴは大学院時代から弾いていますし、ここ数年は音楽番組で日本の歌手のみなさんとポップスを弾かせていただく機会も多くなり、さまざまな分野において刺激をいただいています。私はaikoさんの大ファンで、ライブに行くと大きな会場なのにファンのみなさんとの距離感がすごく近いんです。MCでも一人ひとりに話しかけているような親近感もあって、私のコンサートの理想形で今も憧れています」

――では、今まで共演して印象に残っている方は。

「皆さん素晴らしくて一人に絞るのは難しいのですが、バイオリンを弾きながら鳥肌が立ってしまった方は音楽番組でご一緒させていただいた坂本冬美さんです。本番前はめちゃくちゃ気さくにお話をさせていただいたのですが、いざ本番が始まりスイッチが入った瞬間、バイオリンを弾きながら冬美さんの歌声を聴いて圧倒されてしまいました」

――最後に今後の予定を教えてください。

「11月まで全国ツアーが続きますので、お客さんとご当地ならではの話で盛り上がりたいと思います。来年はアルゼンチンでタンゴの演奏旅行が決まっていますし、これからはもっといろんなジャンルで、いろんな演奏に挑戦したいですね」

□廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)大分市出身のバイオリニスト。12歳で九州交響楽団と共演、高校在学中にニューヨーク・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大(学士課程)卒業、ジュリアード音楽院(修士課程)修了後、ニューヨークで音楽コンサルティング会社を起業。現在は日本を拠点に世界各地で演奏活動を行う。国際教養大特任准教授・成蹊大客員准教授。大分市教育委員。21年1月から25年9月までテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』(月~金午前8時)の金曜レギュラーを務めた。著書は『超・独学術』(KADOKAWA)など多数。今年9月24日にソロアルバム『11 Stories』をリリースし、11月末までCD発売記念のリサイタルを全国で開催する。

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