「スター・ウォーズ」アニメ制作で学んだ「世界基準」 日本の演出との違い…挑戦続けた集大成
テレビアニメシリーズ『空挺ドラゴンズ』(2020年)、映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(21年)などを手掛けてきた吉平“Tady”直弘氏が、憧れだった「スター・ウォーズ」(SW)シリーズを独自の視点で描いたアニメ『極楽鳥の花』で監督を務めた。10月29日にディズニー公式動画配信サービス・Disney+にて日米同時独占配信がスタートした『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3の一編となった本作。大きな挑戦だったという制作の舞台裏や、監督としての成長につながった日本作品との違いについて語った。

吉平“Tady”直弘監督インタビュー 『ビジョンズ』Volume3の『極楽鳥の花』の舞台裏
テレビアニメシリーズ『空挺ドラゴンズ』(2020年)、映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(21年)などを手掛けてきた吉平“Tady”直弘氏が、憧れだった「スター・ウォーズ」(SW)シリーズを独自の視点で描いたアニメ『極楽鳥の花』で監督を務めた。10月29日にディズニー公式動画配信サービス・Disney+にて日米同時独占配信がスタートした『スター・ウォーズ:ビジョンズ』Volume3の一編となった本作。大きな挑戦だったという制作の舞台裏や、監督としての成長につながった日本作品との違いについて語った。(取材・文=猪俣創平)
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』はアニメーション業界をけん引し、世界的評価を得るアニメーションスタジオがクリエイター独自の視点と発想で新たなSWを描く、ルーカスフィルム熱望の一大プロジェクトだ。
『ビジョンズ』第3弾となったVolume3では、日本が世界に誇る9つのアニメスタジオが参加。SWの“ルーツ”である日本で、シリーズのレガシーを受け継ぎながら日本のアニメ特有の“かわいさ”や“キャラクター性”などを新たに盛り込んだ9作品が誕生した。
吉平監督は、自身も所属するポリゴン・ピクチュアズ制作の『極楽鳥の花』でメガホンを取った。本作のオファーが届いた際の心境について「本当に夢のような気持ちでした」と明かし、SWファンの一人として率直な思いを語った。
「子どもの頃、劇場で初めて見た映画がエピソード6(『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還(エピソード6)』)で、まさか自分がその世界に関われるとは思ってもいませんでした。“夢に立ち向かう”ような強いプレッシャーも感じましたけど、自分の人生にとって非常に大きなターニングポイントが来たと思っていて、そのワクワクの方が勝っていました」
長年憧れてきた「遠い昔、はるか彼方の銀河系」の物語を描く。強い意気込みとともに挑んだ本作では、あえて「日本らしさ」は意識しなかったという。
「“日本ならでは”といったことは一切考えていませんでした。“日本らしさ”と言葉にして掲げてしまうと、たとえば富士山や歌舞伎といった記号的で表層的なイメージに寄ってしまい、逆に借り物のコンセプトになってしまうと考えたからです。日本のオリジナリティーは、私たち自身の生活や歴史の中に自然と息づいているものです。だからこそ、外側から作るのではなく、自分たちの中に芽生えている日本的な価値観を掘り下げ、その上で海外の人にも共感してもらえる共通項を探ることを重視しました」
こうした視点から誕生した『極楽鳥の花』は、ジェダイの修行に励むパダワンの少女・ナキメが主人公。ある日、戦闘により盲目となって遭難してしまい、恐怖と猜疑心にさいなまれながらも「なんとしても生きのびたい」と願う中、邪悪な存在にダークサイドへと誘惑される……というストーリーだ。
劇中ではこれまでの映画、アニメ、ドラマといったSW作品を彷彿(ほうふつ)とさせるシーンもあるが、「オマージュを並べるのではなく、自分の中から生まれるアイデアをどう作品に重ねるかを考えました」と語り、ルーカス監督がSWを生み出した“手法”をオマージュした。
「ジョージ・ルーカスがジョーゼフ・キャンベルの『ヒーローズ・ジャーニー(神話の法則)』を基に『スター・ウォーズ』を構想したように、僕もその手法を引用しながら日本の古い物語を取り入れられると思いました。文化を超えて共通する神話の構造を探り、日本では『耳なし芳一』のような“見えないもの”を描く物語が面白いんじゃなかろうかと」
「見えないものを描く」という本作のテーマ。SWシリーズならではの概念ともいえる“目に見えない力”フォースをどのように表現するか、試行錯誤を続けた。
「盲目となったナキメが、姿の見えない存在に導かれるという構造を描くことで、フォースの持つ神秘性を自然に映像化できると感じました。日本的な視点では八百万の神に導いてもらったといった解釈をしていますが、目に見えない世界だからこそ想像力によって見えてくる真実がある……そんな感覚を大切にしました」

ライトセーバー戦を研究…導き出したアクション演出
本作ではフォースのビジュアル化とともに、迫力と外連味(けれんみ)あふれるライトセーバー・バトルも圧巻だ。これまでに数多のSW作品で描かれてきたライトセーバー戦について、吉平監督は演出面での不安を抱えていたという。
そこで、まずはスタッフからアクションプランのアイデアを大量に集めると、既存作品のライトセーバー戦を徹底的に研究した。既存キャラクターのライトセーバーさばきを分析する中で、「ライトセーバーの戦い方は各キャラの性格や性質に合ったストーリーテリング上の重要な要素ということに気づきました。個性やキャラクター性の投影、人物表現でのひとつあるということにたどり着いて、今作でもそれをベースにアクションを演出していきました」
本作では、ナキメの「規律を守らない新たなパダワン」というキャラクターを剣劇の中に取り込んだ。「実は体操競技の動きをよりアクロバティックに解釈して、ライトセーバーを振るアクションの動きの中に取り入れています。ナキメが今までにないことを勝手にやってしまうパダワンとして、空中で派手に踊るような戦い方を選べば、当然防御やリスクを顧みないまだ血気盛んで未熟なキャラクターだとより明確に伝えられる。そんなナキメらしさをキャラクター描写として表現できるアクションになったと考えてます」。
そんな本作は、吉平監督も所属するアニメスタジオのポリゴン・ピクチュアズが制作。3DCGアニメーションに定評のある同社では、品質を維持しながら生産性を向上させる「パイプライン」という体制によって多くの作品を制作してきた実績がある。しかし、今回はあえて「パイプライン」に依存しない手法を取り入れたと吉平監督は語る。
「これまでのパイプラインの機能性や生産性に縛られるのではなく、アーティスティックな表現を実現するためにスタッフみんなで積極的にチャレンジしていこうと。『ビジョンズ』の一作品を担うものとして恥ずかしくない、全く新しいルックの開発をしよう」と、スタジオにとっても新たな挑戦をすることを決めた。
さらに吉平監督は、同社の創業理念「誰もやっていないことを、圧倒的なクオリティで、世界に向けて発信していく」を引用し、「そのポリシーをもう一度見つめ直して、みんなでチャレンジしていこうと一丸になって作ってきました。ポリゴン・ピクチュアズには、監督である僕自身だけでなく、プリプロダクションのアートデザイン部門も、プロダクションで映像を作るCG部門も社内にありますからね。ビジュアル開発の初期段階から、CGチームとアートチームが工程の垣根を超えて一緒に議論を重ね、それぞれが持つ表現力について切磋琢磨しながらビジュアルが開発できたことは、今回ポリゴン・ピクチュアズが制作したことの最大の強みになりました」と、本作を通じてチームにとっても大きな財産になったと語った。
また、吉平監督自身は日本と世界のアニメ演出の“違い”を肌で感じる経験があった。
「この作品を作る前は、僕自身が日本独自のアニメ文化に染まりすぎていて、それを自覚できずにいました。今回、ルーカスフィルムのチームと協議を重ねる中で、日本のアニメとは違うスタイルで、より多くの人にドラマを伝えられる演出メソッドがあるんだと非常に強く実感しました。特に日本では感情をセリフで語りすぎる傾向がありますが、現実で人は感情をそこまで明確に言葉にしません。だから言葉に頼らず、環境や音楽を使った感情表現や、心情演技としてのアニメーションの動き、陰影の明暗や情景描写などさまざまな要素を通じ、ドラマの感情を伝えるスタイルを改めてロジカルに勉強させてもらって、『あ、これが世界基準の演出なんだ』と実感しました」
自身もチームも挑戦を重ねた本作。脚本開発からおよそ2年をかけて完成までこぎつけた。
「制作中は誰もが“本当にうまくいくのか”と不安を抱えていましたが、それでも全員が情熱を絶やさずに取り組んでくれました。キャラクター描写やフォースのエフェクト、アートスタイルなど、すべてが新しい挑戦だったからこそ、完成したときは感無量でしたね。音響が加わり一つの作品としてまとまった瞬間、本当に胸が熱くなりました。2年という長い時間をかけて、スタジオ全体の熱量でこの作品を作り上げられたことが何よりも誇らしいです。自分個人の作品というより、ポリゴン・ピクチュアズとしての集大成になったと思います」
晴れやかな表情で語る姿に本作への自信もうかがえた。世界的なファンの多いSW作品での経験を通して、クリエイターとしてさらなる高みを目指していく。
□吉平“Tady”直弘(よしひら・ただひろ)1974年11月14日生まれ。99年、ポリゴン・ピクチュアズ入社。2015年、テレビアニメシリーズ『シドニアの騎士 第九惑星戦役』で副監督・演出を担当。劇場アニメ『GODZILLA』3部作(17~18年)で副監督を務め、20年には『空挺ドラゴンズ』で監督デビュー。21年に劇場アニメ『シドニアの騎士 あいつむぐほし』で監督を務めた。
猪俣創平
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