元仮面ライダーの41歳俳優、挫折して芸能界を離れた“あの時”を回顧…加藤和樹「腐っていた自分にありがとう」

ブロードウェイで2015年に初演、トニー賞で9部門ノミネート、1部門受賞を果たしたコメディー・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』が、12月から1月にかけて東京、大阪で再演される。同作は、ミュージカルやシェイクスピア作品をコラージュして舞台ファンの心をつかみ大ヒット。2018年初演からの主演、中川晃教らに加え、新キャストでシェイクスピア役を演じる加藤和樹に、作品のみどころや挫折をへてたどり着いたミュージカルへの向き合い方を聞いた。

コメディー・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』でシェイクスピア役を演じる加藤和樹【写真:藤岡雅樹】
コメディー・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』でシェイクスピア役を演じる加藤和樹【写真:藤岡雅樹】

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』に出演

 ブロードウェイで2015年に初演、トニー賞で9部門ノミネート、1部門受賞を果たしたコメディー・ミュージカル『サムシング・ロッテン!』が、12月から1月にかけて東京、大阪で再演される。同作は、ミュージカルやシェイクスピア作品をコラージュして舞台ファンの心をつかみ大ヒット。2018年初演からの主演、中川晃教らに加え、新キャストでシェイクスピア役を演じる加藤和樹に、作品のみどころや挫折をへてたどり着いたミュージカルへの向き合い方を聞いた。(Miki D’Angelo Yamashita)

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 重いテーマの作品に出演の機会が多い加藤にとって、「新しい自分に出会えるのではないか」と期待する出演オファーだった。演出家の福田雄一氏から直接受けたという。実はコメディー好きの加藤は、福田氏が演出した『モンティ・パイソンのSPAMALOT』の大ファンでもあった。

「一人で見ながら腹をかかえて笑いました。テンポが良く、間の使い方が絶妙。独特な笑いがツボにはまるんです。笑いのポイントを押さえつつ、伝えることはきちんと伝える。今回、福田さんの作品に出演できる夢がかなってうれしい限りです」

 コメディーは、芝居として観客にどのように提示するか難しい。加藤は「役者が小賢しく笑いをしかけるのではなく、話の流れの中で純粋な笑いを取らなくてはならない」と分析する。

「笑わせにいったらダメなんですよね。今回は力技も必要だとは思いますが、その流れの中でいかにお客さまの心をほぐせるかにかかっています」

 今回、加藤が演じるシェイクスピアはヒール的な役回り。独特の笑いをいかに引き出すかのチャレンジとなる。福田氏のもとで自分をどのように変化できるのか、「新境地を開拓したい」と意気込んでいる。

「シェイクスピアと自分との共通点を探すのもおこがましいのですが、自分も歌詞を書くことがあり、作品を生み出せない苦悩は理解できます。時代のちょう児で『天才』ともてはやされてはいても、次回作へのプレッシャーがのしかかる。うまく気持ちがリンクするところを見つけたいですね。自分は不器用な役者なので、ゼロから1を作るのが大変なんです。言われたことはすぐできないし、時間をかけないと役とも向き合えない。逆に中川さんは、急に突拍子もないことを振ってきたりもする、笑いに対してなんの疑いもなく突き進んでいく姿を学びたいですね」

 加藤は現在、「ミュージカルになくてはならない役者」の一人だが、かつて大きな挫折を経験している。高校在学中、「テレビに出たい」と『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に応募。ファイナリストになったのがきっかけで、芸能界に入ったものの、所属事務所が半年後に倒産し、何の目標も持てずに漠然と日々過ごしていた。結果、すぐに壁に当たってしまい、芸能活動から離脱。1年半ほど、アルバイト生活を送っていた。当時を振り返り、加藤は言った。

「今となっては、『そういう時間があってくれて、むしろありがとう』という感謝の気持ちの方が強いですね。腐っていた自分、何もしていなかった時間がなければ、中途半端な役者になってすぐに辞めていたでしょう。いろいろな出会いが重なって、今の自分を築き上げてくれた。だからこそ、人との出会いを大切にしたいという思いが強くあります」

インタビューでキャリアを振り返った加藤和樹【写真:藤岡雅樹】
インタビューでキャリアを振り返った加藤和樹【写真:藤岡雅樹】

山崎育三郎の歌と芝居で気持ちが変化

「ミュージシャンとして活動したい」という気持ちが強く、再び芸能界へ。歌を聴いて立ち直れた経験があり、「自分も誰かを勇気づけたいと考えたからだった。マイナスからのスタート。まずはギターを練習し、ボイストレーニングを受けるところからやり直した。その時点では、俳優業には興味がなく、演技には苦手意識もあった。だが、一つの作品がその意識を変えた。

「ミュージカル『コーヒープリンス1号店』で共演した山崎育三郎さんの歌と芝居に感銘を受けて、『自分も本気でミュージカルに挑戦したい』と、一瞬にして気持ちが変わりました」

 その後、演出家・小池修一郎氏との出会い、本格的にミュージカル俳優の道を歩み始めた。小池氏演出のフランスミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で初めてグランドミュージカルを経験。それまで歌ってきた歌唱法が全く通用せず衝撃を受けた。

「小池先生には、散々しぼられました。その後、帝国劇場で上演された先生の演出作品『レディ・ベス』のオーディションを受けさせていただくことになったのですが、緊張で声が出なかったんです。人生で一番悲惨なオーディションの思い出です。かなうならもう1度演じてリベンジしたい役でしたね」

 今では、ミュージカルがライフワークの一つになった。歌に関しても、ミュージカルを経験したからこそできる表現を見つけることができたという。今年は『フランケンシュタイン』をはじめ、韓国発のヒットミュージカルに出演する機会が多かった。昨年は、1か月夏休みを取り、韓国でミュージカル三昧になったという。速いスピードで進化する韓国の作品から刺激を受けている。

「日本も今、オリジナル作品を意欲的に作っているカンパニーがあり、『お互いを刺激し合って高めていける』と感じています」

 そして、来年には芸能生活20周年を迎え、全都道府県でライブコンサートを行う予定だ。

「20年続けられたということは、感慨深いものがあります。一歩ずつ進み、やりたい夢をかなえてこられたのは、いろいろな人に支えていただいたから。恩返しの年にしたいですね」

 節目の年を控え、加藤はコメディーで弾ける「新たな自分」を披露していく。

□加藤和樹(かとう・かずき) 1984年10月7日、名古屋市生まれ。2005年ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、06年、07年には『仮面ライダーシリーズ』の映画、ドラマに出演。その後、数多くの作品に出演し、舞台『ローマの休日』のジョー・ブラッドレー役、『BARNUM/バーナム』のフェニアス・テイラー・バーナム役では、第46回菊田一夫演劇賞の演劇賞を受賞。26年2月には、韓国ミュージカル『最後の事件』に出演予定。歌手としては、06年4月にミニアルバム『Rough Diamond』でCDデビュー。以降、精力的にライブ活動をしている。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
演出: 福田雄一
出演:中川晃教、加藤和樹、石川禅、大東立樹(CLASS SEVEN)、矢吹奈子、瀬奈じゅん他

【東京公演】 12月19日~2026年1月2日 東京国際フォーラムホールC

【大阪公演】 1月8日~12日 大阪・オリックス劇場

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