日本で暮らすフランス人が悲鳴…15年住んでも我慢できないこととは 「時間の無駄」「一番つらい」
世界的にグローバル化が進む中で、日本でも多くの外国人が働いている。南フランス出身で44歳のファビアン・ルディエさんもその1人だ。ベトナムの最大手IT企業「FPTソフトウェア」の日本法人(東京)で、DX(デジタルトランスフォーメーション)グローバル部門のチームリーダーを務めている。ITに精通するプロは、イノベーション(技術革新)が立ち遅れている日本企業の課題について日々思案を重ねているという。約15年間に及ぶ日本生活の中で、「どうしようもない」と嘆く、サラリーマンのつらさも。“本音”をぶっちゃけてくれた。

「日本で生まれたカイゼン文化は素晴らしい」
世界的にグローバル化が進む中で、日本でも多くの外国人が働いている。南フランス出身で44歳のファビアン・ルディエさんもその1人だ。ベトナムの最大手IT企業「FPTソフトウェア」の日本法人(東京)で、DX(デジタルトランスフォーメーション)グローバル部門のチームリーダーを務めている。ITに精通するプロは、イノベーション(技術革新)が立ち遅れている日本企業の課題について日々思案を重ねているという。約15年間に及ぶ日本生活の中で、「どうしようもない」と嘆く、サラリーマンのつらさも。“本音”をぶっちゃけてくれた。(取材・文=吉原知也)
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フランスの大学院を修了後に、フランス外務省職員としてキャリアをスタートさせ、東南アジアや中東を渡り歩き、2010年に来日。その後に日本のテクノロジー系のスタートアップ企業に転職し、21年からFPTで活躍を見せている。
ファビアンさんが率いるDXグローバル部門は、ベトナムやインド、台湾など多様な人材が集まり、AI、オンライン上に大量のデータを保存する「クラウドデータ」、オートメーション(自動化)をキーワードに、顧客企業のデジタル変革を支援している。今注目のAIも積極活用しており、「FPTでは組織レベルで、できるだけどこでもAIを使うように推進しています。ビジネスのスピード感を上げるのが組織の戦略です」。営業部門やプログラミング作業などで幅広く使用。知識管理にも重用しており、「データはどこにでもあります。でも、その中から、適切な情報を探すのが一番の課題と言えます」。AIを駆使して、ビジネスの効率化を推し進めている。
一方で、日本のAI導入の進捗に疑問を感じているという。「AIソリューション(問題解決)はどんどん前進していますが、日本のAI活用は遅れています。その理由の一つが、リスクを取りたくないという文化にあると思います」。流ちょうな日本語で続ける。
日本のものづくりを支えてきた「改善(カイゼン)文化」。ファビアンさんは高く評価しつつも、課題について指摘。「日本で生まれたカイゼン文化は素晴らしいです。あるシステムのプロセスをどんどんきれいにして、効率を上げていく。これが日本の製造業が元気な理由の一つだと思います。カイゼンはすでにあるものをどんどんよくしていくものです。しかしながら、最新技術を活用するDXは、新しいやり方を一から考えないといけません。日本ではそこにリスクを感じるのではないでしょうか。アメリカやヨーロッパでは、『じゃあやってみよう。投資しましょう』とスピード感を持って物事を進めます。一方の日本では、最初のステップを踏むまでに時間がかかります。リスクファクター(リスク要因)をなくさないと前に進まない。これが大きな違いです。あるタイミングで、今までカイゼンしてきたプロセスをいったん忘れて、新しく考えないといけない。そういったことが日本にも必要だと思います。もちろん、カイゼンと新規導入の両方を組み合わる方法でも、いい結果が生まれるかもしれません」との見解を示す。
旅もグルメも大好きなファビアンさん。日本の食文化に深い愛着を持つ。「料理の文化を大事にするという点で、フランス、日本、ベトナムは共通項があると思います」。その土地ならではの食材や料理を楽しむのが旅の醍醐味(だいごみ)でもあり、「北海道や青森に行けばマグロ、ホタテ、イクラ。必ず現地の人に『何がおいしいですか』と聞いて、実際に食べに行きます。神戸牛も好物ですが、むっちゃ高い。仕事関係の知り合いに『神戸牛を食べたい時、どこに行くか』と聞いて、コスパのいい場所を教えてもらいました。現地の人が通う店は、安くていい味が楽しめますから」と笑顔を見せる。
「日本では、昔からのノウハウ、地方の魅力がなくなっているような気がしています」
15年間の日本生活で、どうしても我慢できないことがあるという。それは通勤だ。「毎日1時間、満員電車です。日本の通勤は本当に大変です。まず動けない。汗をかく。空気も……」。圧迫感が苦手だという。さらに、読書家のファビアンさんにとって追い打ちも。「電車に乗る時は本を読むのが好きなのですが、満員電車では本を開くこともできません。時間が無駄になってしまう。日本の満員電車は一番つらいですね」と本音がポロリ。フランスでも地下鉄は混雑するが、「日本ほど毎日、どの路線でも混んでいるわけではないです」という。
来日した翌年に東日本大震災を経験した。「満員電車の中であの規模の地震が起きたら、どうなるのか。今でも不安なポイントではあります」と率直な心境を明かす。
安全性、誠実さ、食文化、豊かな地方。日本の素晴らしさにほれ込んでいる。夏はハイキング、冬はスキー・スノボと日本の自然を楽しむファビアンさん。最近ちょっぴり元気のない日本への熱いメッセージを寄せる。
「ビジネスの面では、やはりイノベーションです。遅れている中で波に乗らないと、後で追いかけるのは大変です。今こそイニシアチブ(主導権)を取ることが大事だと考えています。フランスの私の出身地はローヌバレーという、ワインが有名で農業が盛んな田舎です。自分のルーツにつながる文化を大切にしたいと日頃から考えています。日本では、昔からのノウハウ、地方の魅力がなくなっているような気がしています。最近、お米の生産に関する問題が起きていますよね。こういったことは残念に思います。地域の文化や魅力をもっと発見して、アピールしていくことも必要だと思います。日本の田舎や地方は、もっとダイナミックになれると信じています」
ファビアンさんの言葉には、15年間の日本生活で培われた、深い理解と愛情が込められていた。
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