83歳で運転免許を返納 名バイプレーヤー・小野武彦、車を降りても変わらない“人生を楽しむ”姿勢

グラビアアイドルで俳優の中村静香が主演する映画『じっちゃ!』(10月31日全国順次公開、千村利光監督)で、じょっぱり(頑固)なメロン農家の祖父を演じている名バイプレーヤー、小野武彦。2023年には、俳優生活57年目にして映画『シェアの法則』に初主演するなど衰えしらずだが、その秘訣とは――。

インタビューに応じた小野武彦【写真:増田美咲】
インタビューに応じた小野武彦【写真:増田美咲】

メインから脇までこなす大ベテランの魅力

 グラビアアイドルで俳優の中村静香が主演する映画『じっちゃ!』(10月31日全国順次公開、千村利光監督)で、じょっぱり(頑固)なメロン農家の祖父を演じている名バイプレーヤー、小野武彦。2023年には、俳優生活57年目にして映画『シェアの法則』に初主演するなど衰えしらずだが、その秘訣とは――。(取材・文=平辻哲也)

トップアイドル時代にバイクでアメリカ横断、ベンツ、ロードスター…多彩な愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

 小野はメインから脇までこなす大ベテラン。最近ではテレビ東京のバラエティー『世界!ニッポン行きたい人応援団』(10月13日放送)に登場したことも印象深い。

 この回は「ルクセンブルグで購入したアルバムの持ち主を探して届けてあげたい」というアメリカ人夫婦の願いをかなえるという趣向を変えた特別回。持ち主が玉川学園出身と分かり、玉川学園小学部から玉川大学に進学した小野が、捜索の大きなヒントを与える。その刑事さながらの大活躍で、お茶の間に驚きと感動を届けた。

 最新映画『じっちゃ!』では、メロン農家を営む祖父を好演。じょっぱり(東北弁で頑固の意味)であるが、信念を持った男で、主人公の生き方に大きな影響を与えていく。

「昔は『頑張れ頑張れ』でやってましたけど、今そんなことやったらとんでもない。なるべくじょっぱらないようにしてます」と“じょっぱり”という言葉には共感しつつ、少し距離も置く。

「じょっぱりって言うと“ボキッと折れそう”な感じがするんだよね。昔は撮影でも、徹夜というのは当たり前ではあったけど、今はそういう時代ではないでしょ。頑張るのは必要だけど、頑張りすぎると無理が来て良くないことが起こる。だから、心身ともにじょっぱりすぎるのは良くない。ほどほどに“しょっぱり”っていう感じかな」

 83歳の小野が目標としているのは生涯現役。そのためには健康を心がけている。

「一番大事なのは睡眠ですね。だいたい夜はてっぺん(深夜0時)近くに寝て、朝は6時半とか7時ぐらいに起きる。散歩は今“ゴミ出し”くらい(笑)。その代わり、車をやめて電車にしたんです」

 運転免許は2年前、81歳の時に返納した。

「80でやめようと思ってたけど、まだ運転に自信があって、運転することも好きだったんで(笑)。でも、ちょうど車検が来たタイミングで、『もういいかな』と思ったんです。ちょっと寂しくもありましたけど、気持ちはすっきり。JAFの会員証は今も持ってますよ」

すごいと思う俳優について明かした【写真:増田美咲】
すごいと思う俳優について明かした【写真:増田美咲】

大滝秀治、生田斗真、窪田正孝、瑛太に感銘

 小野は1964年に俳優座養成所を経て、文学座に入った。60年代は脇役として活躍し、70年代は倉本聰作品、『大都会』シリーズ、90年代は三谷幸喜作品や『踊る大捜査線』の主人公の直属の上司・袴田健吾役が当たり役にもなり、北村総一朗、斉藤暁との『スリーアミーゴス』が有名になった。

 芝居には今も新鮮な面白さを感じている。スタッフ、キャストとともに作り上げるのが刺激的なのだ。『じっちゃ!』でも、台本にない動作を提案し、それが一段作品の質を上げている。芝居について語る時、その表情は今も若々しい。

「現場ではよく監督に相談します。『こういうの、どうですか?』と話して、監督が乗ってくれたらやります。勝手にはやらない(笑)。『踊る大捜査線』のときは、カットがかかるまでずっと芝居を続けるように言われていて、その中でアドリブが生まれた感じですね。あれは台本に書いてない部分も多いんですよ。でも、ベースがちゃんとできていないとアドリブなんてできない。『何もないところから生まれる芝居』はないんです」

 そんな小野が、ズバリ、すごいと思う俳優は誰か。

「すてきな俳優はたくさんいましたが、先輩で言えば、大滝秀治さん(1925?2012年)。芝居をしていると、自然と気持ちが通じ合って、『ああ、芝居ってこういうものなんだな』と思いました。若い人では生田斗真さん、窪田正孝さん、瑛太さん。もっといますけれども、すてきな方というのは、自分が芝居しなくても済むんです。その場で交流も生まれて、その場で答えれば、それが芝居になってしまう。役だけでなく、普段の雰囲気がそうさせているんでしょうね」

 呼吸を合わせ、人と心を通わせる。その芝居のように、俳優生活60年超の小野の人生もまた静かに続いていく。

□小野武彦(おの・たけひこ)1942年8月1日、東京都出身。俳優座養成所、文学座を経て、70年代から映画、テレビドラマで活動。特に『踊る大捜査線』シリーズでは、北村総一朗、斉藤暁とともに「スリーアミーゴス」として人気を博す。近年の主な出演映画に、『一度も撃ってません』(20年/阪本順治監督)、『仮面病棟』(20年/木村ひさし監督)、『科捜研の女-劇場版-』(21年/兼崎涼介監督)、俳優生活57年目にして初主演作『シェアの法則』(23年/久万真路監督)、舞台『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』(19年)、『にんげん日記』(21年)、『海の木馬』(23年)など。

ヘアメイク:藤原玲子
スタイリスト:中川原寛(CaNN)

次のページへ (2/2) 【写真】小野武彦インタビューのアザーカット
1 2
あなたの“気になる”を教えてください