83歳・小野武彦、見つけた“あずましい”生き方「好きな友達と2合飲める役者でいたい」

俳優の小野武彦が、中村静香主演の映画『じっちゃ!』(10月31日全国順次公開、千村利光監督)で、じょっぱり(頑固)なメロン農家の祖父を好演している。撮影を振り返りながら、“あずましい”(心地よいという意味の東北弁)生き方についても語ってくれた。

インタビューに応じた小野武彦【写真:増田美咲】
インタビューに応じた小野武彦【写真:増田美咲】

映画『じっちゃ!』でメロン農家の祖父を好演

 俳優の小野武彦が、中村静香主演の映画『じっちゃ!』(10月31日全国順次公開、千村利光監督)で、じょっぱり(頑固)なメロン農家の祖父を好演している。撮影を振り返りながら、“あずましい”(心地よいという意味の東北弁)生き方についても語ってくれた。(取材・文=平辻哲也)

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 本作は青森県つがる市を舞台に、東京で挫折した孫娘・ゆき(中村)が、津軽で農業を営む祖父・泰助(小野)と暮らす中で、少しずつ自分を取り戻していく物語。

「脚本を読んだ時、『ハートフルな話だな』と思いました。青森は以前から何度か訪れていて、冬の八甲田にも行ったことがある。東北は嫌いじゃないんです。だから、力になれればと思って引き受けました」

 劇中で小野が演じる泰助は、メロン農家の“じっちゃ”。じょっぱり(頑固)だが、孫を温かく見守る存在だ。小野が出演するシーンの撮影は2024年7月、真夏のつがる市で行われた。厳しい暑さの中でも、現場の空気は穏やかだったという。

「撮影中に食べたメロンもスイカも本当においしかったです。隣の名人のスイカが、1玉200万円で落札されたこともあるそうで驚きました。青森と言えばリンゴのイメージだけど、メロンの生産量も全国上位なんですよ」とすっかり、つがるびいきに。

 津軽弁での芝居もあったが、「助かりました」と笑って見せる。

「方言って、ちょっとした指導では身につかないんです。でも、僕が演じたじっちゃは“津軽の人じゃない”という設定だったので、多少違っても許されました。方言指導の方が本当に上手で、現地で聞いているうちに少しずつ耳が慣れてきました」

 劇中では、台本にはない観客も驚くようなアドリブも。なんと、小野が自前の入れ歯を外して、孫役の中村を驚かす。

「あれは僕のアイデアなんです。中村さんを驚かせようとして、監督と相談しました。中村さんには本番直前まで知らせなかった(笑)。AパターンとBパターンを撮って、監督が選んだ。結果的にすごく微笑ましいシーンになりましたね」

 千村監督との現場では、こうした脚本を超えたやり取りも多かったという。「監督はすごく柔らかい人で、俳優の芝居をよく見てくれる。僕が少し動きを変えたときも、ちゃんと反応して『今のいいですね』って言ってくれるんです。そういう信頼がある現場は、やっぱり楽しいですよ」

「交流があって楽しかった」と撮影を振り返った【写真:増田美咲】
「交流があって楽しかった」と撮影を振り返った【写真:増田美咲】

地元の人々との交流も大きな支えに

 撮影中は、地元の人々との交流も大きな支えになった。

「つがるフィルムコミッションの会長さんと副会長さんがすごく協力的でね。お2人ともお酒が好きで(笑)。合間にも交流があって楽しかった。青森の人はみんなお酒が強いです」

 完成した映画を観た小野は、静かに頷いた。「台本どおりなんだけど、編集で工夫されていて新鮮でした。『あずましくしてね』というセリフも印象的でしたね」。「あずましい」というのは津軽弁で、「心地いい」「落ち着く」「居心地がいい」という意味だ。「これは厳しい冬を越える土地だからこそ、あの優しい言葉が生まれる。あれだけ雪が降って、雪かきだけでも気が遠くなるような大変さですから」と小野。

 作品全体にも、その“あずましさ”が漂っている。小野流の“あずましく”生きる方法とは。

「居心地の悪い場所に行かないことですね(笑)。気の合う人とお酒を飲んだり、ご飯を食べたり、そういう時間を大事にしています。気分のいい時間を増やすことが一番。20代のころに友人から『どんな役者になりたい?』と聞かれて、僕は『好きな友達と1日2合くらいお酒を飲める役者になりたい』と言ったそうですが、覚えていない(笑)。でも、今でもそれが一番いいと思っています」と穏やかに笑みを浮かべた。

 それは、“じっちゃ”=小野が今を生きる人たちにそっと贈る言葉のようだった。

□小野武彦(おの・たけひこ)1942年8月1日、東京都出身。俳優座養成所、文学座を経て、70年代から映画、テレビドラマで活動。特に『踊る大捜査線』シリーズでは、北村総一朗、斉藤暁とともに「スリーアミーゴス」として人気を博す。近年の主な出演映画に、『一度も撃ってません』(20年/阪本順治監督)、『仮面病棟』(20年/木村ひさし監督)、『科捜研の女-劇場版-』(21年/兼崎涼介監督)、俳優生活57年目にして初主演作『シェアの法則』(23年/久万真路監督)、舞台『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』(19年)、『にんげん日記』(21年)、『海の木馬』(23年)など。

ヘアメイク:藤原玲子
スタイリスト:中川原寛(CaNN)

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