東大大学院修了、キャリア25年超の女優・三坂知絵子が監督デビュー 子ども映画に込めた思い「成長を新しい視点で描きたい」

北村龍平監督の映画『VERSUS』のヒロイン役や月蝕歌劇団での個性的な役柄で知られる俳優の三坂知絵子が初めて監督を務めた短編映画『ちくわっちゃ!』が、第32回キネコ国際映画祭(10月31日から11月4日まで東京・二子玉川の各所にて)で上映される。三坂は東京大大学院修士課程修了で、俳優生活25年以上。そんな俳優がメガホンを取った理由とは――。

インタビューに応じた三坂知絵子監督【写真:増田美咲】
インタビューに応じた三坂知絵子監督【写真:増田美咲】

監督を務めた作品がキネコ国際映画祭で上映決定

 北村龍平監督の映画『VERSUS』のヒロイン役や月蝕歌劇団での個性的な役柄で知られる俳優の三坂知絵子が初めて監督を務めた短編映画『ちくわっちゃ!』が、第32回キネコ国際映画祭(10月31日から11月4日まで東京・二子玉川の各所にて)で上映される。三坂は東京大大学院修士課程修了で、俳優生活25年以上。そんな俳優がメガホンを取った理由とは――。

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 キネコ国際映画祭は1992年にスタートし、子どもたちと世界をつなぐアジア最大級の国際映画祭として知られる。声優によるライブ吹き替え上映や、子ども審査員によるコンペティションなど、独自の取り組みを続けてきた。今回の上映会場は109シネマズ二子玉川で、『ちくわっちゃ!』は11月2日13時40分からのプログラムで上映される。

「キネコ国際映画祭は、憧れの映画祭でした。子どもたちが中心となる作品が多く、温かい空気に包まれている場所です。自分たちの映画をここで観てもらえるなんて、夢のようです」と三坂監督は微笑む。

 三坂監督は早稲田大で演劇映像学、東京大大学院でメディア環境学を学び、在学中の2000年、北村龍平監督『VERSUS』のヒロイン役で映画デビュー。映画、ドラマ、舞台で活躍し、俳優としてのキャリアは25年以上に及ぶ。私生活では中学生の娘の母であり、母親役を演じることも多い。現場で多くの子役や保護者と接する中で「日本には楽しく演技を学べる場があまりない」という話を聞き、2018年12月に、子どもたちの文化活動を支援する団体「リトルプロフェッショナル・ジャパン(LPJ)」を設立し、その後、会社法人化した。

『ちくわっちゃ!』はLPJの第1回製作作品。東京で暮らす小学生の兄弟カイ(井伊巧)とヒロ(松本悠希)が夏休みを山口県の下関で過ごすことになり、豊かな自然に囲まれ様々な経験を通じて自分の夢を見つめる中で、下関名産のちくわの美味しさに感動したカイが、地元の人たちと一緒にちくわの魅力を世界に伝える配信番組作りに挑戦する、というストーリーだ。

「子どもたちにはいろんな面から映画作りに参加してもらっています。映画作りの過程すべてが演技レッスンでもあり、子どもたちのいろんなチャレンジを映画という形にしていくのがLPJならではの作り方です」

 下関は三坂監督自身の故郷でもある。

「『カーテンコール』(2005年)では下関出身の佐々部清監督と一緒に方言練習用の音声テープを吹き込みました。奥田瑛二監督の『風の外側』(07年)はほぼ全編下関ロケで、撮影現場での方言指導も任せていただき、裏方として“映画づくり”の仕組みを肌で感じました。その経験が『ちくわっちゃ!』を撮る上で大きな支えになりました」と語る。

「本当に感謝しています」と撮影を振り返った【写真:増田美咲】
「本当に感謝しています」と撮影を振り返った【写真:増田美咲】

すでに第2弾は編集作業中

 撮影は昨年の夏休み中の7日間。外ロケが多く、子どもたちの体調を第一に考えながら海や森など自然の中で撮影を重ねた。

「水分と塩分の補給は必須。暑さの中、スタッフキャストが撮影に集中できる環境を整えることの重要性を強く実感しました。子どもたちにとって初めて経験することも多かったと思いますが、みんな楽しそうに前向きに取り組んでくれて本当に感謝しています」

『ちくわっちゃ!』は今年5月、第78回カンヌ国際映画祭 ショートフィルムコーナーに正式出品され、9月には栃木国際映画祭、10月にはボーンマス国際映画祭(イギリス)で上映された。三坂監督はすべての映画祭に参加し、海外の観客とも触れ合った。

「さまざまなバックグラウンドを持つ観客やクリエイターと映画について深く語り合えるのはまさに映画祭の醍醐味。『ちくわっちゃ!』を観て、生まれ育った故郷での撮影、ローカルフードカルチャー、いまの子どもたちをとりまく社会問題など、国を超えて共感と関心を持ってもらえることがとてもうれしい。世界の映画祭では、どれだけ私自身のコアの部分と映画のテーマが密接につながっているかということを掘り下げ、それを相手に伝えようとする熱意が重要と感じています」

 本作は下関を舞台にした三部作構想の第1弾として作られ、すでに第2弾は今夏に撮影を終え、現在編集作業中だ。「下関の歴史や文化を背景に、子どもたちの成長を新しい視点で描きたい」と話す。将来的には、3本をまとめて劇場公開することも視野に入れている。子どもたちが自己理解を深め、社会とつながることを目指して活動しているLPJもライフワーク。俳優としての表現、教育者としての支援、そして監督としての創造。三坂監督の挑戦はこれからも続いていく。

■三坂知絵子(みさか・ちえこ)1977年8月7日生まれ。山口県下関市出身。早稲田大第一文学部で演劇映像学を、東京大大学院でメディア環境学を修める。1999年、月蝕歌劇団公演『少女革命ウテナ』で舞台デビュー。以降、遊園地再生事業団、流山児★事務所、ニブロールなどで幅広く活躍。2000年、北村龍平監督『VERSUS』のヒロイン役で映画デビュー。以降の出演作は『脱脱脱脱17』(松本花奈監督)、『サクリファイス』(壷井濯監督)、『ミセス・ノイズィ』(天野千尋監督)など。2018年、子役活動を支援する団体「リトルプロフェッショナル・ジャパン(LPJ)」を設立し、代表を務める。

《第32回 キネコ国際映画祭について》
開催期間:2025年10月31日(金)~11月4日(火)
会場:東京都・世田谷区(二子玉川ライズ スタジオ & ホール、109シネマズ二子玉川シアター1、玉川高島屋 S.C.南館 6F ホワイトモール、世田谷区民会館 せたがやイーグレットホールほか)

 世界67作品の上映に加え、声優による「ライブシネマ(生吹替)」など、子どもから大人まで楽しめるプログラムが多数実施。戸田恵子がジェネラル・ディレクター、中山秀征、高橋克典がエグゼクティブ・ディレクター、 横山だいすけがチーフ・プログラミング・ディレクターを務めるも。また、井ノ原快彦、桂宮治、迫田孝也、木村佳乃、満島ひかりがスペシャル・サポーターとして協力している。

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