「料理を作りながら、セリフを…」 『晩酌の流儀』出演俳優がスタッフとの“二刀流”に挑戦した理由とは
シリーズ初の2クール連続放送で話題のテレビ東京系ドラマ25『晩酌の流儀4 ~秋冬編~』(金曜深夜0時42分)。グルメドラマシリーズの最新作で、昨年放送のシーズン3からフードアシスタントを務めるのが俳優・森田甘路だ。俳優として多くの作品に参加する中、今シーズンではコンビニ店員・森野役でも出演する。“二刀流”で挑戦する真意に迫った。

「妥協のなさでは次元の違う現場」
シリーズ初の2クール連続放送で話題のテレビ東京系ドラマ25『晩酌の流儀4 ~秋冬編~』(金曜深夜0時42分)。グルメドラマシリーズの最新作で、昨年放送のシーズン3からフードアシスタントを務めるのが俳優・森田甘路だ。俳優として多くの作品に参加する中、今シーズンではコンビニ店員・森野役でも出演する。“二刀流”で挑戦する真意に迫った。(取材・文=鍬田美穂)
本作は、俳優・栗山千明が不動産会社で働く主人公・伊澤美幸を演じ、「1日の最後に飲むお酒をいかにおいしく飲むことができるか」を追求するグルメドラマ。家庭で手軽に作れる晩酌レシピも人気で、SNSでは「作ってみた」という声も多い。森田は、シーズン3からフードアシスタントとして参加する中、シーズン4では念願かなって俳優としても参戦している。
「これまでも俳優としてフードコーディネーターの仕事を目にする機会はありましたが、料理への妥協のなさでは次元の違う現場という印象です。そのなかで俳優としても全力投球しているので、料理を作りながら、セリフを覚えたりもしています」と熱い思いを明かす。さらに、フードアシスタントとしても言葉を続けた。
「『夏編』の第5話に出てきた『エビパン』は自信作です。長崎の郷土料理に、エビのすり身をパンに塗って揚げた料理があるんですが、とてもおいしいけれど手間がかかるんです。ドラマの一品は、冷凍のエビシウマイを使いました。つぶせば手軽にできるし、食パンを使ったおつまみって意外とないのも採用された理由かと思います」

“二刀流”を目指し資格を取得
その腕は日々の暮らしも支えているようだ。2019年に結婚し、現在は一児の父。飲食店でのバイト経験を生かし、自宅にいるときはほぼ毎日、家族の食事を作る料理好きでもある。俳優としては、NHK大河ドラマ『光る君へ』(24年)、やTBS日曜劇場『ブラックペアン』シリーズ(18年と24年に放送)など、バイプレイヤーとして出演作も多いが、コロナ禍を機に、単なる“料理好き”の域を越えてフードコーディネーター2級の資格を取得した。そこにはある理由があった。
「当時、役者としての仕事がゼロになりました。ある日、妻が会社員としてリモートワークをしている中、自宅にいる僕に『役者以外の仕事はしないの?』と言ってきて……。ドラマ『ゲキカラドウ』の現場で、同じ俳優の藤代太一さんがフードコーディネーターとしてプロフェッショナルぶりを発揮する姿に憧れを感じたことを、妻にも話していたんです」
藤代は、『晩酌の流儀』シーズン1から統括としてフードコーディネーターを担当。ドラマに登場する数々の晩酌料理を作るほか、メニューの監修やレシピ開発、調理シーンのアドバイスなどを行っている。2021年にWEST.の桐山照史主演ドラマ『ゲキカラドウ』の現場で会った、松本拓プロデューサー(以下、松本P)に抜擢されたことがきっかけだったが、森田は、桐山が演じた主人公・猿川健太の同僚・山崎裕也役で『ゲキカラドウ』にレギュラー出演していた。
「松本Pと太一さん、ほぼ同時に『フードコーディネーターの資格を取りました。何かお手伝いできることがあれば、させてください』と連絡しました。でも最初は半信半疑というか、『本気?』『遊びじゃないだろうな?』みたいな“圧”は感じました(笑)。お手伝いからさせてほしいとお願いして、シーズン3でフードアシスタントに加えていただいた形です。太一さんというパイオニアがいたからこそ、チャレンジできたと思っています。太一さんはすごく丁寧に教えてくれて、感情的に怒ることが全然ない。他の現場でもフード担当として恥ずかしくないように……という思いや、人としても育ててくれると感じますね」

俳優とフードアシスタント両立の大変さも
参加したばかりのシーズン3では駆け出しだったが、みんなでアイデアを出し合い、一緒に作り上げる雰囲気の強い現場で、アシスタントとして成長。今年7月クールの夏編の撮影では、急な不幸があった藤代に「休んでください」と伝え、一人で乗り切った。
「フードコーディネーターとしてだけでなく、料理人としての経験の差もあるので、太一さんと比べたら、まだまだです。単に料理が得意なだけでできるほど、甘い仕事ではないと分かっていましたし、実際にやってみると本当に大変な仕事だと思います。でもポジションが人を成長させるというか、任せてもらえて学べたこともあり、少し自信がつきました」
また、藤代と同様に俳優との“二刀流”が、フード担当として強みにもなっている。
「例えば“箸上げ”をフード担当が演者さんの代わりにやるケースはよくあるんです。細かいことですけど作品によっては、『ここ別の人が“箸上げ”しているな。演技がつながってないな』と思うことがあります。単に料理を見せるだけじゃなくて、栗山さん演じる美幸さんが『よし食べるぞ!』という気持ちになって上げる――役者の演じるリズムを考えながらやると違ってくるんですよね」
その逆もまたしかり。スタッフとしての経験が、確実に俳優業に好影響をもたらしているという。
「視点が増えました。フードの学びだけでなく照明や脚本のことなど、スタッフとして流れや効率を考えられるようになって、俳優としてスタッフさんへの感謝の質も、大きく変わりました。作品への関わり方という点で視野が広がっています」
シーズン1の7話のみゲスト出演だった藤代と違い、森田は、夏編の第5話と最終話に登場したほか、最新の秋冬編でも準レギュラーで複数回に出演を予定。まさに、俳優とフードアシスタントの“二刀流”を実現させている。
「一度、フードの作業後に出演というスケジュールで、予定が押してメイクがギリギリになったことがあります(笑)。みなさんのご理解がないとできないし、めちゃくちゃ大変ですけど、体力と精神力が続く限りはどちらも全力でやりたいです!」
今後は、相乗効果でますます活動に磨きがかかりそうだ。
□森田甘路(もりた・かんろ) 1986年6月12日生まれ。東京都出身。ナイロン100℃新人オーディションに合格後、研究生を経て2010年に劇団員に昇格し、23年に退団。16年Huluオリジナルドラマ『でぶせん』で連続ドラマ初主演を果たす。主な出演作品に、映画では、『イニシエーションラブ』(15年)、『正体』(24年)など。ドラマでは、NHK大河ドラマ『光る君へ』(24年)、日本テレビ系『大病院占拠』(23年)、TBS系『私、結婚できないんじゃなくてしないんです』(16年)、テレビ東京系『ゲキカラドウ』『晩酌の流儀』、フジテレビ系『知ってるワイフ』(18年)ほか。舞台では、『HAMLET―ハムレット―』(19年)、『Romeo and Juliet -ロミオとジュリエット-』(21年)など多くの作品に出演。また、2024年にフードコーディネーター2級を取得し、フードアシスタントとしても活動中。2019年11月に結婚し、一児の父。
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