「ほぼ全局から」声をかけられ驚き…人気グルメドラマ『晩酌の流儀』を支える“二刀流”俳優の誕生は偶然から

テレビ東京系ドラマ25『晩酌の流儀4 ~秋冬編~』(金曜深夜0時42分)が10月3日にスタートした。2022年にシーズン1が始まったグルメドラマの最新作で、夏編と合わせシリーズ初の2クール連続放送となる中、俳優・藤代太一がフードコーディネーターとして参加している。藤代は作品当初から料理を監修する一方、シーズン1の第7話ではゲスト出演も。不惑を迎えた現在は、俳優との“二刀流”で活動している。

フードコーディネーターとしても活躍する俳優・藤代太一【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】
フードコーディネーターとしても活躍する俳優・藤代太一【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】

銀座のフランス料理店シェフから転身

 テレビ東京系ドラマ25『晩酌の流儀4 ~秋冬編~』(金曜深夜0時42分)が10月3日にスタートした。2022年にシーズン1が始まったグルメドラマの最新作で、夏編と合わせシリーズ初の2クール連続放送となる中、俳優・藤代太一がフードコーディネーターとして参加している。藤代は作品当初から料理を監修する一方、シーズン1の第7話ではゲスト出演も。不惑を迎えた現在は、俳優との“二刀流”で活動している。(取材・文=鍬田美穂)

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 本作は、俳優・栗山千明が不動産会社で働く主人公・伊澤美幸を演じ、「1日の最後に飲むお酒をいかにおいしく飲むことができるか」を追求するグルメドラマ。自宅で手軽にできる、おいしそうな晩酌レシピも人気を集めている。藤代は、シーズン1から統括としてフードコーディネーターを担当。ドラマに登場する数々の晩酌料理を作るほか、メニューの監修やレシピ開発、調理シーンのアドバイスなどを行っている。たくさんある晩酌レシピの中で7月クール「夏編」から、とっておきの一品を教えてくれた。

「『夏編』での一押しは、第9話の『ホタテと海苔の佃煮のアボカドタルタル』。試作で即決になったレシピで、栗山さんもすごく喜んでくれました。アボカドと海苔の佃煮はめちゃくちゃ相性が良くて、簡単にできる一品です」

 そう明かすと笑顔を見せた。藤代は高校卒業後、料理の専門学校を経て調理師免許を取得し、銀座のフランス料理店に就職。シェフとして働く一方で、昔からの憧れだった夢を追うため、社員からアルバイトに契約を変え俳優を目指す。養成所に入所し、舞台やドラマなどに出演するが、芝居だけでは経済的に厳しい状況もあり、多くの店でアルバイトとして経験を積んだ。その料理人としての実績が、このシリーズにも反映されている。

「シェフをしていた頃のレシピノートや、レストランで食べておいしいと思ったものをメニューに生かすことも多いです。家庭で手間をかけず、簡単に作れるようアレンジするのは難しいけれど、醍醐味でもあります」

撮影のため繊細な作業をするのもフードコーディネーターの仕事【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】
撮影のため繊細な作業をするのもフードコーディネーターの仕事【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】

軽い気持ちで訪れた先で拓けた“二刀流”への道

 俳優とフードコーディネーターの“二刀流”が生まれたのは、偶然だった。俳優業で交流のある家々で振る舞う料理の腕前が人づてに広がり、仲の良い柴田啓佑監督から「現場を見においでよ。良かったら料理のアイデアも出して」と誘われた。軽い気持ちで訪れたのが、WEST.の桐山照史が主演した同局系深夜ドラマ『ゲキカラドウ』(2021年)の料理の試作現場だった。同作は、その後『晩酌の流儀』も手がける松本拓プロデューサー(以下、松本P)が担当しており、この縁が藤代に転機をもたらす。

「料理をしながらアイデアをあれこれ話していたら、現場にいた松本Pに『俳優じゃないの?』と聞かれたんです。そこで、料理人の経験を話したら『じゃあ手伝ってよ』と、急遽フードコーディネーターとしてスタッフに加わることになったんです」

“二刀流”誕生の背景には、松本Pの英断があったという。

「グルメドラマですから、普通は専業のフードコーディネーターに頼むでしょう(笑)。僕に任せてくれたのがすごいし、現場のみなさんの理解があって、このスタイルが確立されたと思います」

料理だけでなく栗山の調理演技へのアドバイスも【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】
料理だけでなく栗山の調理演技へのアドバイスも【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】

 監督や脚本家、プロデューサーもこなす俳優は珍しくないが、フードコーディネーターとの“二刀流”は藤代がパイオニアだ。また、芸能界では料理上手な俳優も多いが、フードコーディネーターに必要なのは単に料理の腕前だけではない。ドラマの現場では、本番で食べる料理だけでなく、リハーサルや調理シーン、インサート撮影、大量の仕込みなど、さまざまな対応が求められる。

「レストランで働いていたので大量の仕込みは慣れていますし、カメラ映りのため食材の切り方やサイズをそろえるのは当たり前のこと。撮影現場で求められる臨機応変さは、レストランでお客様のリクエストへの対応力に通じるものを感じます」と心境を語る。

もちろん俳優だからこそ、料理ドラマの演技についての助言も適切で、「演技として、食べたり調理したりする心理を理解しています。料理シーンについても、単に“やり方”を説明するのではなく、演技の視点から“見せ方”を踏まえたアドバイスができます」と強みを発揮している。

 こうして藤代は、『ゲキカラドウ』に続き、『晩酌の流儀』のフードコーディネーターを担当した。今回でシリーズ4となるが、作品人気のすごさに、驚いたことがあるという。

「俳優とフードコーディネーターの兼業なんて言ったら、普通は“なめられる”と思うんですけど、『晩酌の流儀』は業界視聴率や評価が高くて……。実はシーズン1の後『あれをやっているんですか?』と、ほぼ全局から声をかけていただきました」

シーズン1で美幸の友人・大津役として出演【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】
シーズン1で美幸の友人・大津役として出演【写真:(C)「晩酌の流儀4」製作委員会】

俳優としても深まった作品への関わり方

 その後、スタッフとしてさまざまな作品に関わるようになって仕事の幅が広がったほか、俳優業にも変化が生まれ、プラスになっていると実感する。俳優として現在は、ドラマや舞台などで活動しており、10月30日に東京・浅草九劇で開幕する舞台『光るまで』(11月3日まで)に出演予定だ。

「(作品にスタッフとして参加することで)以前よりも積極的に、現場でアイデアを言うようになりましたし、照明など制作側の理解も深まっています。以前と比べたら200%くらい仕事の幅が広がりました。実際に俳優としても、感謝されることが増えていると感じますね」

ただ、『晩酌の流儀』に俳優としてはシーズン1の7話にゲスト出演したものの、それ以降、登場はない。シリーズ作品では1人の俳優が複数の役で出演するケースもあるが、再登場はないのだろうか?

「実は毎シーズン恒例で脚本打合せのときに、松本Pに『そろそろ、(演者として)どうですか?』とチャレンジはしています(笑)。でも1つの作品で俳優とフードを両立するのは、かなりハード。本当に妥協のない現場で任せていただいているから、この作品に関しては“フード全振りで”という気持ちもあって……。俳優としては、ちょっと複雑ですけど、この作品はフードコーディネーターとして全力投球したいですね」

 異色の“二刀流”は、今後も個性を大事にしながら、歩みを進めていく。

□藤代太一(ふじしろ・たいち) 1985年9月21日生まれ。神奈川県出身。俳優としてドラマや舞台などで活動。主な出演作品にドラマでは、NHK『セカンドバージン』(2010年)、同局大河ドラマ『平清盛』(12年)、日本テレビ系『結婚に一番近くて遠い女』(15年)、テレビ東京系『雪女と蟹を喰う』(22年)、同局系『週末旅の極意~夫婦ってそんな簡単じゃないもの~』(23年)、BSテレ東『好感度上昇サプリ』(23年)など。舞台では、『シラノ・ド・ベルジュラック』『PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』ほか、10月30日に東京・浅草九劇で開幕する舞台『光るまで』(11月3日まで)に出演。一方、調理師免許やオイスターマイスターのほか、表千家不白流師範の資格を持ち、俳優だけでなくフードコーディネーターとしても活躍している。

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