RIZIN王者が「現役中にジムをやる意味」 週3日指導する伊澤星花&CORO夫妻「出し惜しみせず全部教える」

DEEP JEWELS二階級王者でRIZINスーパーアトム級王者の伊澤星花と元DEEPバンタム級暫定王者のCOROが9月、「Roys GYM」の2号店を千葉・北松戸にオープンした。前編では現役中にジムを始めた理由や同ジムの会員や練習生に伝えていることを2人に聞いた。

インタビューに応じた伊澤星花(左)とCORO【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた伊澤星花(左)とCORO【写真:ENCOUNT編集部】

「Roys GYM」の2号店を千葉・北松戸にオープン

 DEEP JEWELS二階級王者でRIZINスーパーアトム級王者の伊澤星花と元DEEPバンタム級暫定王者のCOROが9月、「Roys GYM」の2号店を千葉・北松戸にオープンした。前編では現役中にジムを始めた理由や同ジムの会員や練習生に伝えていることを2人に聞いた。(取材・文=島田将斗)

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 ◇ ◇ ◇

――現役生活中にジムを始めた理由は。

(CORO)「もともと自分はジムをやりたいと思っていて、ずっと“やる”と決めていたんです。現役のうちに、ある程度名前があるうちじゃないと、お客さんも来づらいと思っていて、引退して名前が消えてしまう前に始めたかった。それに、自分が自由に練習できる場所が欲しかったんです。近くにそういう場所がなかったので、“じゃあ作ろう”って」

(伊澤)「自分も同じで、“いつかはジムをやろうかな”と思っていたんですけど、2人ともチャンピオンになった流れもあって、“今がタイミングとしてベストだよね”と。お客さんにも伝わりやすい時期だったので、始めることにしました」

――ジム運営と格闘技選手の両立は大変ではありませんか。

(伊澤)「大変は大変です(笑)。でも結局、働きながら格闘技やってる人もいるし、格闘技一本でやっていても、一日に使える練習時間って実はそこまで大きく変わらないんですよ。限られた練習時間の中で、他の人が働いている時間をジム運営や指導に費やすことで、逆に格闘技のことを一日中考えられる。

 教えることで“あ、自分はここ甘いな”って再確認することも多くて、自分の選手としての成長にもつながっています。休みたいときもありますけどけど(笑)。うまく調整して“この日は休もう”みたいな感じですね」

(CORO)「何かしらは絶対ありますからね、毎日」

――具体的なスケジュールはどんな感じなのでしょうか。

(伊澤)「今は本当にヤバいです(笑)。チャレンジ生が来ていることもあって、朝7時半くらいに起きて、9時から練習開始。お昼も一緒に食べたりして、月・水・金は『HALEO』でトレーニング、他の日は『JAPAN TOP TEAM』に行ってます。

 夜は自分たちのジムに戻って、一般会員向けのクラスを教えて、その後にチャレンジ生の練習を見て、帰宅は午後11時くらい。ブラック企業みたいな生活(笑)」

(CORO)「自分はそれに加えて電気屋さんもやっています。10代の頃から修行というか働いていて、プロ格闘家生活と並行して続けています。2018年の朝倉未来戦のあとに首のヘルニアになって、そこから独立しました」

(伊澤)「COROさんは社長なんです。金町のジム(1号店)の電気設備も全部担当していて、他のお店とかでも“ここは何ボルトだから”とか計算もしていますね。理数系です。ちなみに金町のジムもフルスケルトンの状態から作り上げました」

――2店舗目の立ち上げはスムーズでしたか。

(伊澤)「今回はけっこうスムーズでした。1店舗目のときは、どこの業者にお願いしたらいいかも分からない状態で手探りでしたけど、今回は2社に絞って見積もりを取って、物件を契約してから1か月くらいでオープンできました」

(CORO)「むしろインストラクターのスケジュールの調整が大変でしたよね。金町と2拠点になるから」

――このジムで伝えたいことは何ですか。

(伊澤)「気軽に人が集まれる空間を作りたいんです。格闘技ジムってプロの世界だとちょっと怖い、殺伐としたイメージを持たれることもあると思うんですけど、うちは“アットホーム”を大事にしていて、“おかえり”って言いたくなるような場所ですね」

(CORO)「練習しなくても、座って話すだけでもOKな雰囲気。そういう空気感を作ってます」

――24時間営業なんですよね。

(伊澤)「はい。クラスには来られない人でも、“夜一緒に練習しよう”って来てくれることもありますし、自分たちがいない時間帯でも自由に練習してる人もいます。好きな時に好きなように動ける場所になったらうれしいです」

研究クラスを置くワケ「“理解して再現できる技術”にしてほしい」

――研究クラスも特徴的ですよね。柔道界的な要素もあると感じました。

(伊澤)「そうですね。研究クラスって他のジムにはあまりないと思います。けっこうしゃべるのが好きなので、それを生かした“対話型の指導”になっています」

――その研究クラスはお2人が教えているのですか。

(伊澤)「はい。月・木・土の3日間は、自分たちが最初から最後までジムにいます。チャンピオンが立ち上げたジムって世の中にたくさんあると思うんですけど、現場にいないことも多い。でも、うちはちゃんと自分たちがいる。直接技を教えられるし、出し惜しみせずに全部教えます。“教えたがり”なので(笑)」

――研究クラスの良さとは何ですか。

(伊澤)「“なぜその動きをするのか”を理解してもらうことを大切にしています。形だけ覚えるのではなく、“必然性”を持って技を理解することで、試合や実戦でも生きてくる。社会の暗記じゃなくて、“理解して再現できる技術”にしてほしいなと思っています」

――教えるときに意識していることは何でしょうか。

(伊澤)「自分でもしっかり理解できていない技術だと、やっぱり表面的なことしか教えられない。“ここをこうして”だけで終わってしまう。だからこそ、教える前に自分でも深く考えるようになって、それが自分のスキルアップにもつながっていると感じています」

(CORO)「午前中にできなかった課題を、そのままクラスで持ってきてもらって、その日に解決できる。そういうサイクルで“成長スピード”が速くなるんです」

――人に教えることで気づいた技術はありますか。

(伊澤)「めちゃくちゃあります。スパーリングでは“なんとなく”で動いてしまう部分があるんですが、あとで“なんで失敗したんだろう”と考えたときに、ゆっくり見直して、“あ、自分ここ全然できてなかったな”って気づくんです。

 自分は“極め力”が強いほうだと思っています。これってすごくぼんやりとしたものに思えるかもしれないのですが、意外とそれもただの感覚じゃなくて、しっかりとした根拠があってこその“極め力”なんです。そういう深い研究ができる場所、それがこのジムですね。知りたい人はぜひ(笑)」

――それにしても週3回もジムに顔を出しているのは驚きです。

(伊澤)「チャレンジ生の練習も見ているので、午前8時くらいから毎日ジムにいます」

(CORO)「クラスを持ってるのは週3回ですけど、自分たちはほぼ毎日来てますよ」

――お二人とも、教えることが好きなんですね。

(CORO)「好きですね」

(伊澤)「好きじゃなきゃやれないです。大変ですから(笑)。でも教えるのが楽しいし、自分を見つめ直すきっかけにもなるので、続けていけてるんだと思います」

――プロ選手育成について、どんな意識で取り組んでいますか。

(伊澤)「選手は一人ひとり違うので、“全員に共通する教え方”はないんですが、その中でも“考えさせること”は共通して意識しています。

 教えるのは簡単だけど、試合で動くのは本人。だからこそ、“なぜその動きをするのか”を理解してもらわないと、試合でアジャストできないんです。普段から“どうすればいいか”を自分で考える練習をしておけば、いざという時に対応できる。だから質問は多いと思います」

――すぐに答えを教えるわけではないのですね。

(伊澤)「“それやってみた? どうだった?”っていう問いかけはすごく多いです」

――その問いかけに、すぐに答えられるのでしょうか。

(伊澤)「さすがにチャレンジ生の3人もまだまだですね(笑)。でも、聞いて答える、を繰り返すうちにだんだん分かってきて、“自分でこうすればいいんだ”ってつながってくる。最初から答えられる人はいないけど、繰り返していけば慣れてきますし、それを実行できるようになるんです」

――ジムに在籍する他のプロ選手はいますか。

(伊澤)「プロになる子はチャレンジ生くらいです。今はアマチュアで試合に出ている子が多いですが、ロイズジムも3年目に入って、いい選手が育ってきています。たとえば、最近では須山ゆな選手が勝ちましたし、ちょっとずつ芽が出てきています」

(CORO)「外から“強い選手”が来るのではなく、うちで一から育てて強くなった選手が活躍しているのがうれしいですね」

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