クマ甚大被害の秋田、若者流出の深刻事態…佐竹前知事が毒ガス「日本は世界最大の社会主義国家」
全国でクマによる被害が相次ぐ中、特に被害が深刻な秋田県。クマの生息域拡大の根本原因ともなっているのが、急速に進む人口減少の問題だ。この先、日本全土が直面する課題に、どう向き合えばいいのか。秋田市長、県知事として20年以上にわたってこの難題に取り組んできた佐竹敬久前秋田県知事が、地方再生、さらには日本再生へ向けた大胆な持論を語った。【連載全3回の3回目】

出生率、婚姻率、人口減少率、高齢化率、さらには死亡率までもが全国ワースト
全国でクマによる被害が相次ぐ中、特に被害が深刻な秋田県。クマの生息域拡大の根本原因ともなっているのが、急速に進む人口減少の問題だ。この先、日本全土が直面する課題に、どう向き合えばいいのか。秋田市長、県知事として20年以上にわたってこの難題に取り組んできた佐竹敬久前秋田県知事が、地方再生、さらには日本再生へ向けた大胆な持論を語った。【連載全3回の3回目】(取材・文=佐藤佑輔)
秋田県の総人口は現在、約88万人。1999年に120万人、2017年には100万人を割り込み、その後の7年間で約12万人が減少するなど、加速度的な人口減少に見舞われている。出生率、婚姻率、人口減少率、高齢化率、さらには死亡率までもが全国ワーストという暗たんたる状況について、佐竹氏が背景を説明する。
「深刻なのは若者の流出。上京のパターンがね、昔と今とでは全然違うんだ。昔は集団就職で東京に行っても、単なる賃金の安い労働力として扱われて、地元と対して変わらない扱いだった。でも今は情報化と金融経済で、東京に行けば大企業の本社や待遇のいい会社がいっぱいあるでしょ。秋田にはそういうのがないわけだ。昔は大学に行く人は少なかったから、地元でそれなりの仕事に就いたけど、今じゃ男も女も大卒なのにそれに見合った仕事がない。そりゃ未来ある有望な若者は出てくよな」
かつて田中角栄が進めた日本列島改造論により、東京一極集中に歯止めをかけるべく、地方への企業誘致も積極的に行われた。しかしその後、メーカー系の大企業は海外の安い労働力を求めて本社機能を移転。多くの雇用を生み出す第二次産業は、地方では生産工場くらいしか残らなかった。さらに、佐竹氏は金融経済や情報化社会がこの状況に拍車をかけたと説く。
「金融や情報は、全部集中するんだよ。分散しないんだ。分散するのは農業経済くらいでね。アメリカとか広いところは、それなりに経済圏がいっぱいあっても成立するけど、日本は狭いからどんどん集中していっちゃう。あと、これはあまり誰も指摘したがらないけど、農業の近代化にも原因はある。最新のAIを積んだトラクターなんか、20町歩(20平方メートル、東京ドーム約4個分)を1人でやれるんだから、大規模化すると、農村部からはどんどん人がいなくなる。こればっかりはしょうがないんだ」
トラクターやコンバインなどの大型農業機械がなかった時代、田畑の耕作は人力中心。田植えや稲刈りの時期には村中の人手が駆り出され、地域の雇用を担っていた。時代が変わり近代化が進むと、広大な農地を1人でも管理できるように。まさに、機械化によって人の仕事が奪われる実例が、農村部では何十年も前から起こっていた。また、女性の社会進出も問題と無関係ではない。
「上方婚も一因。女性は自分と同等か、格上の男と結婚したいわけだ。学歴、仕事、待遇、給料とかね。秋田は女子の進学率が高いんだ。進学して、短大とか4年制大学に行く。ところが地元に残った男はそこまで学歴も収入も高くない。これじゃあ釣り合わないとなるわけだ。実際、秋田の名士と呼ばれるとこのお嬢さんなんか、ほとんど独身。製造業があっても現場だけで、研究開発とかの幹部社員がいないんだから。
ただ、確かに婚姻率は低いんだけど、秋田では結婚した夫婦の子どもの数はそう少なくない。住宅事情もあるんだろうが、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均数)は実は東京の方が低いんだよ。問題はどう結婚まで持っていくか。農家の嫁も人気がないけど、大規模法人化した農業法人は別。週休2日で、時間外もないし、年次有給休暇もいっぱいある。大事なのは名刺を持つこと。営業部長とか、事業部長とか、生産課長とか、名刺を持てばちゃんとした会社だと女性は本気になるんだよ」
地方の人口減少や経済の停滞は、ゆくゆくは国全体にもつながってくる深刻な問題だ。今秋田で起こっているさまざまな問題は、この先の日本の縮図だと佐竹氏は訴える。
「産業構造的に、日本はどんどん欧米先進国から遅れていて、かつて日本がナンバーワンだった技術とか、何もかもが追い抜かれていってる。問題は日本には投資の習慣がないこと。単なる株式投資じゃなく、新技術に対するベンチャー投資。海外では超富裕層が、個人でベンチャーキャピタルにかなりの額を出資してる。仲のいい台湾の前経団連会長なんか、ポケットマネーで年間何十億円も出してるよ。そこで金が回って経済が成長するんだ。
ところが日本は相続税が高いから、企業は金を持ってても、個人の金持ちがいない。地方の中小企業は、頑張っても社長の年収が3000万円ぐらいでしょ。それが半分以上持っていかれるから、中小企業が大企業になれない。相続税が最高で55%なんて、そんな国世界中探したってないよ。台湾は10~15%、欧米だって最高20%ぐらい。金持ちはずるいっていう、日本人の変な平等意識がね。日本は世界最大の社会主義国家なんだよ」
相続税の引き下げとベンチャー投資なくして、日本経済の復活はないと熱弁を振るった佐竹氏。「国がオールジャパンで考えなきゃいけない。クマも人も、全部が地方だけの問題じゃないんだ」。江戸の佐竹藩から400年あまり、市長時代含め四半世紀近くも秋田の行く末を見守ってきた“殿”の言葉は、国政へ届くか。
あなたの“気になる”を教えてください