きっかけは祖父の死 30歳新人が初監督作で映画賞受賞の舞台裏「母も泣いていました」

今年5月の第23回中之島映画祭でグランプリを受賞した映画『レンタル家族』が、12月6日より東京・新宿のK’s cinemaで1週間限定公開されることが決まった。同映画祭は新人監督の登竜門として知られ、これまでに『市子』の戸田彬弘監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督らを輩出してきた。映画初挑戦となった上坂(こうさか)龍之介監督は「K’s cinemaは、『カメ止め』大ヒットのきっかけになった劇場。1週間満員にして、全国へ届けたい」と意気込む。

インタビューに応じた上坂龍之介監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた上坂龍之介監督【写真:ENCOUNT編集部】

新宿・K’s cinemaで1週間限定公開『レンタル家族』

 今年5月の第23回中之島映画祭でグランプリを受賞した映画『レンタル家族』が、12月6日より東京・新宿のK’s cinemaで1週間限定公開されることが決まった。同映画祭は新人監督の登竜門として知られ、これまでに『市子』の戸田彬弘監督、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督らを輩出してきた。映画初挑戦となった上坂(こうさか)龍之介監督は「K’s cinemaは、『カメ止め』大ヒットのきっかけになった劇場。1週間満員にして、全国へ届けたい」と意気込む。(取材・文=平辻哲也)

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『レンタル家族』は、“つながりを演じることから、本当の絆が生まれることもある”をテーマにした人間ドラマ。認知症の母を抱える娘が、「レンタル家族」というサービスを通して他人と“家族”を演じることになり、そこで生まれる小さな心の変化を描く。

 主演は劇団「青年団」所属で舞台、映画、ドラマ、CMと幅広く活躍する荻野友里。緻密な人物描写と、等身大の人間関係を丁寧に描いた演出が高く評価され、中之島映画祭で観客投票によるグランプリを受賞。同年6月には第26回ハンブルグ日本映画祭でも選出された。

 上坂監督は兵庫県出身の30歳。映画監督を志したきっかけは、小学生の頃に見た『ラスト サムライ』(2003年)だった。「自分もいつかこんな作品を撮りたいと思いました」。

「大学卒業後、1年間テレビの制作会社で働き、当時付き合っていた彼女(今の妻)と一緒にオーストラリアに留学したんですが、現地で妊娠が分かり、急きょ帰国。“もう親になるんだ”という実感が一気にきて、映画監督になりたいなんて夢は頭の片隅から消えて、ただ目の前の仕事を一生懸命やる日々でした」と振り返る。

 帰国後、自ら映像制作会社を立ち上げて働き続けた。「その後、もう一人、娘を授かり、今は6歳と2歳の娘の父になりました。家族や社員を養うことで精一杯で、映画のことはすっかり忘れていました」。

 そんな日々の中で、人生を大きく揺るがす出来事が起きる。2022年7月、幼い頃からかわいがってくれた祖父が亡くなったのだ。

「祖父も私が映画監督になりたかったことを知っていました。結局、何も見せられなかったことが本当に悔しかった。その時、“やっぱり映画を撮ろう”と心に決めたんです」

 映画の経験はほとんどなく、登場人物は周囲の人々をモデルにしてイメージを膨らませ、役名もそのまま採用。学生時代のアルバイト先の先輩で脚本家を志していた土井涼介氏が構成を整え、半年がかりで完成。出演者は2日間で約500人、オーディションを実施した。

「映像の仕事はしていましたが、映画はまったく別物。脚本から撮影まで全部が手探りでした。でも、分からないからこそ、一つひとつ調べて、考えて、形にしていくことが楽しかったです」

 制作費は約400万円。普段から一緒に仕事をしているスタッフたちと力を合わせ、10人ほどのチームで10日間かけて撮りきった。

「助監督もいなくて大変でしたが、仲間たちの支えがあったから最後までやりきれました。限られた環境でも、思いがあれば形にできると実感しました」

 完成した作品は、祖母や両親も中之島映画祭で鑑賞してくれた。「祖母はすごく喜んでくれて、母も泣いていました」。

『レンタル家族』のテーマである「人とのつながり」については、こう語る。

「日本って、家族とか友人とか、関係のかたちを決めつけがちだと思うんです。でも、もっと自由でいい。この映画では、レンタル家族という“関係を演じるサービス”を通して、人がどうつながっていくかを描きたかった。家族でも他人でもない“誰かとの関係”の中に、救いや温もりがあると思うんです」

 中之島映画祭では700人以上が上映を観覧し、観客アンケートでは8割以上が高評価をつけた。「気持ちが届いたんだと思うと、本当にうれしかったです」。

『レンタル家族』は、誰かと一緒に見たくなる、そして見終わった後に自分の“つながり”を見つめ直したくなる映画だ。家族を持ったからこそ描けた温かさと、新しい家族の形の提案が、静かに見る者の心に沁みる。

□上坂龍之介(こうさか・りゅうのすけ)兵庫県出身。1995年1月30日生まれ。小学生の時に見たハリウッド映画『ラスト サムライ』(エドワード・ズウィック監督)の影響で映画の道を志す。映画学科のある大学に通いながら音楽番組のアルバイトをしていた。その後、制作会社に1年間就職して格闘技番組のADなどを務めた。2018年に自身の制作会社を設立して映像の仕事を行いながら映画監督を目指す。

【作品情報】
映画『レンタル家族』
監督・脚本:上坂龍之介/土井涼介
出演:荻野友里、駒塚由衣、松林慎司、田中壮太郎、鈴木浩文、保田賢也ほか
第23回中之島映画祭グランプリ受賞
2025年12月6日(金)より、新宿・K’s cinemaにて1週間限定公開
公式予告編:YouTube(1分46秒)

次のページへ (2/2) 【写真】『レンタル家族』場面カット
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