「この先、何をするつもり?」 国分太一「人権救済申し立て」に浮かぶ疑問点と忘れてはいけないこと

解散したグループ・TOKIOの国分太一(51)が、自身をバラエティー番組『ザ!鉄腕!DASH!!』』から降板させた日本テレビの対応について、23日、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立てた。これに対して、日本テレビ側は国分の主張を「全くの事実誤認」などとコメント。両者が全面対決となる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「国分氏の狙い」への疑問を指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長

 解散したグループ・TOKIOの国分太一(51)が、自身をバラエティー番組『ザ!鉄腕!DASH!!』』から降板させた日本テレビの対応について、23日、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立てた。これに対して、日本テレビ側は国分の主張を「全くの事実誤認」などとコメント。両者が全面対決となる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「国分氏の狙い」への疑問を指摘した。

 結局、何がしたいのか。「国分太一氏が人権救済を申し立て」というニュースを聞いて頭に浮かんだのはそんな疑問だった。

 中居正広氏がフジテレビ第三者委員会に「証拠の開示」を要求したというニュースにも同じことを感じたが、その時よりも疑問は深い。なぜなら、国分氏は「ハラスメント」を自分でも認めているからだ。これまで日テレ側はこの事案を「コンプライアンス上の問題」としか説明してこなかったが、国分氏側の弁護士は会見ではあえて「ハラスメント」だと認め「国分さんが行ったハラスメント行為については相応の処分がされるべきだとは思う」とも述べた。

 では、ハラスメントという「罪」は認めた国分氏が、何に不服を申し立てるのか。国分氏が強く主張しているのが、「具体的にどの行為をコンプライアンス違反と判断したのか、日テレから説明してもらえなかった」という点。その結果、「TOKIOのメンバーに対してでさえ説明が困難となった」「スポンサー企業や他局の番組の関係者への説明も十分にできなかった」としている。だがこの国分氏の言い分には2つの疑問がある。

 まず1つは「国分氏は自分でハラスメントを認めているのだから、どの行為が問題か大体分かっているはず」という点だ。国分氏側の弁護士も会見でこう述べている。

「日本テレビと、自分がやったことの答え合わせをさせていただきたいと考えています」

 要は国分氏が考える「ハラスメント」と日本テレビが問題としている「コンプライアンス上の問題行為」が同じかどうかを確認したいということなのだろう。しかし、「コンプライアンス違反があった」という範囲では国分氏も日本テレビも一致している。だとしたら、「国分氏にコンプライアンス上の問題があったので、番組出演の依頼は止めることにします」という日テレ側の説明が、「不足」とは言えないのではないか。

 これに対しては「社員がクビになるときは理由が説明されるのに、国分氏が降板理由を詳しく説明してもらえないのはおかしい」という声もある。だが、国分氏は労働法で守られる「労働者」とは、決定的に立場が違う。国分氏は日テレという会社から番組出演の「発注」を受ける「取引先」だ。民間企業がその経営判断で取引先を変えることは原則として自由だ。もちろん、この考えを突き詰めすぎると弱い立場のフリーランス事業主にしわ寄せがくる恐れがある。しかし、コンプライアンスを理由とする取引停止の場合は、法的問題は考えにくいだろう。

 2つ目の疑問は「もし、日テレから詳細を説明してもらえたとして、その次に国分氏は何をするつもりなのか」という点だ。国分氏側弁護士は会見で「関係者に謝罪し、スポンサーやファンに説明責任を果たしたい」と述べた。

 だが、これらは「国分氏の気持ち」だ。一方で今回の事案がハラスメントだった場合、最優先されなければならないのは「被害者の心情」のはず。被害者が国分氏からの直接の謝罪を望んでいるとは限らないし、事案の詳細をファンなどに広く公表することは被害者への「攻撃」を誘発する恐れもある。そうした中で、「国分氏の気持ち」を叶えることが、日弁連による人権救済になりうるのか。

ハードル高い日弁連からの措置…昨年は4件のみ

 そもそも日弁連への人権救済申し立てのハードルは高い。年間400件前後の申し立てに対して、日弁連が何らかの措置をした件数は少なく、昨年は4件だった。また、この手続きは長い期間がかかることが多く、昨年発表があった事案で結論が出るまでにかかった時間は、短いもので2年、長いものだと約5年5か月だった。国分氏側も人権救済申し立てに即効性があるとは思っていないはず。では、申し立ての「真の目的」は何か。国分氏側の弁護士は会見でこう明かしていた。

「日本テレビと話ができることが重要で、人権救済はそのための手段」

 しかし、その思いとは逆に日テレ側は申し立てに猛反発。国分氏との対立は激化しているようだ。

 では、事態は今後どう展開するのか。日弁連への申し立てについては、裁判と違って公開の場での手続きはなく、当面表立った動きはないだろう。そこで国分氏が取る戦略として考えられるのは、追加の言い分を文書や会見で公表し、「日テレにプレッシャーをかける」こと。「結局、何があったのか分からない」というモヤモヤが消えない本件では、世論が国分氏に味方するかもしれない。確かにこうした「情報の空白」は陰謀論にもつながりやすいので、できる範囲で説明に努めた方が適切な場合もある。

 だが、ここで忘れてはならないのは、ハラスメント事案で真っ先に配慮すべきは被害者の人権だという点だ。日テレ側も安易にプレッシャーに屈することはできない。当面は国分氏側とにらみ合いが続くのではないだろうか。

「プライバシー」の一語で思考停止になってもいけないが、被害を訴える人の思いは絶対に踏みにじられてはならない。この一線が破られることがないよう、国分氏をめぐる推移を追い続けたいと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください