ONEに振り回され、浮上したRIZIN参戦も消滅 青木真也が明かす心境の変化とリアルな今「格闘技に未練がない」

「格闘技に未練がない」。42歳の青木真也が、そんな言葉を漏らした。ここ数年、試合がなかなか組まれないことや、思うようなマッチメイクにならないことへの不満を口にすることはあった。しかし、ここまで気持ちが引いてしまっていたことはない。一体、この数か月で何があったのか。交渉がひと段落した今、青木が本音を語った。

ライト級王者・サトシ・ソウザとの対戦は消滅した【写真:山口比佐夫】
ライト級王者・サトシ・ソウザとの対戦は消滅した【写真:山口比佐夫】

「格闘技が好き」にも変化

「格闘技に未練がない」。42歳の青木真也が、そんな言葉を漏らした。ここ数年、試合がなかなか組まれないことや、思うようなマッチメイクにならないことへの不満を口にすることはあった。しかし、ここまで気持ちが引いてしまっていたことはない。一体、この数か月で何があったのか。交渉がひと段落した今、青木が本音を語った。(取材・文=島田将斗)

「あと1回か2回試合をする。それ以外のこと、自分がどうしたいとかがないんですよね。これは別に引退とかでもなくて、格闘技に対して未練がないんだよね。もう十分でしょって思うのが本音なんだよ。(ファイトマネーを)もらえるなら、いっちょやるかって」

 キャリアの終盤を見据えた男からは静けさがただよっていた。

 3月以降、試合の機会はなかった。ONEチャンピオンシップやRIZINとの交渉を長く続けるなかで、まるで「ジェットコースター」のように感情を揺さぶられたという。

「あと何発試合をやるのかってなったときに、俺はさっさと終わりたいのよ。でも、『誰がどこで俺の試合を作るんだよ』ってはっきりしない時間が続いた。それがやっぱりしんどかったですね。ずっと誰かに自分の運命を委ねるのはきついっすね」

 その言葉通り、ここ数か月の青木は、どこか暗い表情を浮かべていた。かつては「自分を誰が介錯するのか」と、“死に際”を模索していたが、いまはその興味すら消えている。

「自分のキャリアを誰かが引き継げるかとか考えたけど、結局『無理じゃん』って」

 試合が組まれずとも、「格闘技が好き」という言葉だけは何度も出てきた。しかし、今はそれも違う。

「好きだからやる、みたいなのを超えてるから。格闘技を別に好きでも嫌いでもない」

 明らかに戦うことへの気持ちはこれまでと違う。

「試合をして金がもらえるから練習する。試合をしてそんなに金をもらえないと思ったらやらないって思っちゃったんだよ。『エンジョイでやる』と言ってきたけど、それが格闘技である必要はないなと。すごい長距離の自転車に乗ってもいいし、ちょっと体動かすとかトレーニングでもいいし。試合が入れば、打撃のレッスンとかやるけど、なければ別に……」

 そして「もう十分でしょ」と再び口にし、ここ数か月を振り返った。

 ONEからの到底受け入れることのできない契約条件を受け、これまで距離を取っていたRIZINと具体的な話を進めた。その理由を、青木はこう明かす。

「42歳で機運を背負えることってない。それが面白いと思ったんですよね」

 そして、「人に夢売って商売してるんで」と続けた。

 世間からは「RIZINから逃げてる」とやゆされることもあった。今回の行動はその声に対しての“アンサー”だった。

「“RIZINから逃げてる”みたいな声がある。今回の件は俺から『行く』って言った国威発揚みたいなところ。意思表示が大事なんです。『マッチングをかけた』なんて、俺が言わなきゃ公になんねーから。俺は自分のキャリアを博打を打ってマッチングかけたぞって。お前らに文句を言われる筋合いはねぇんだよっていう発揚です。

 俺は口も立つし、見せ方も上手。あえてカウンターカルチャーにいることで自分の価値を守ってるって言われるかもしれないけど。その作ってきた価値を博打で勝負してやるって絵を描いたんだよ」

 描いていた構想の中には、ライト級王者・ホベルト・サトシ・ソウザとの対戦もあった。具体的に対戦を考える瞬間もあったが、ONEから予想を超える条件が提示されたことによって、これは白紙となった。

「どこまでいっても俺は仕事だし、プロのファイター、プロのレスラーなんだと。これをかっこよく思うかは人それぞれだけど、俺はそういう価値観なんだよね」

 ファンが熱望していた一戦は実現しない。「『もうかなわない』、それでいいんだよ。別に何とも思ってない。結構さっぱりしたんだよね。もう次のタイミングでRIZINは考えづらいかな」と遠くを見つめた。

「欲しいものがない」と本音を語った【写真:山口比佐夫】
「欲しいものがない」と本音を語った【写真:山口比佐夫】

 試合に意味を持たせて表現してきたが、これからの対戦に意味を作る気はない。

「20代後半、30代前半で自分のなかで試合への意味合いはなくなっていて、それ以降は無理やり作り出しているわけよ。だから『意味なんかねぇよ』って思っちゃう。これ以上作ることなんかねぇんだよ。ただ最後に人が自分を取り合って、金だけ上がって試合があるみたいな」

 己の技術を高める意欲も、もうない。「昔はさ、新しい技術を学ぼうとした。でもいまは全くないんだよね。それは、あと数試合しかないから。閉店するのに新しく設備投資はしないでしょ? そう思ってしまうくらいドライ」と達観していた。

 もはや闘争本能すら遠い世界の話になっている。だからこそ、そう言われても意に介さない。

「『そんな青木見たくない』って言う人はいるんだよ。何言ってるの?って思っちゃう。俺ってプロレスが好きじゃん? プロレスってめちゃくちゃ面白くないものをいかに面白く見るかっていう楽しみ方だと思う。それが腕の見せ所。すっごい塩試合を面白い見方を見つけてどう楽しむか。

 いまの青木が動いているのを見て、お前が楽しめないなら見んじゃねぇって思っちゃうし。(昨年の)12月に自分でもつまらないって思うグラップリングマッチをタイでやった。あれはいま思うと逆に味わいはあるなと。だってさ、到達点を超えた人が『金くれるからやるか』ってテンションで試合をしてるんだよ? そういう見方をすると味わい深い。3周目、4周目やってきてるから飽きてるんですよね」

 そして「欲しいものがねぇし、面白くねぇんだ。いまは月に5~6本あるプロレスが生きがいで」と少しだけ、満ち足りたような表情を見せた。

「あとはしまっていくだけ」。これまでも自身を引いて見ることはあったが、この言葉が現実味を帯びてきた。

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