クマ駆除への抗議電話に「お前のところにクマ送る」で物議 前秋田県知事が明かす真意「手に負えない」
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で10人(10月24日時点)と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。人を食べる目的で襲った食害のケースも複数報告されている。駆除への抗議電話に対し「お前のところにクマ送る」「ガチャン!」など強い発信を行ってきた佐竹敬久前秋田県知事に、過激な発言の真意と、クレーマーへの本音を聞いた。【連載全3回の2回目】

駆除への抗議電話に対し「お前のところにクマ送る」「ガチャン!」など強い言葉で発信
全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で10人(10月24日時点)と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。人を食べる目的で襲った食害のケースも複数報告されている。駆除への抗議電話に対し「お前のところにクマ送る」「ガチャン!」など強い発信を行ってきた佐竹敬久前秋田県知事に、過激な発言の真意と、クレーマーへの本音を聞いた。【連載全3回の2回目】(取材・文=佐藤佑輔)
佐竹氏の名前を一躍全国区にしたのが、23年に秋田市の会議で四国の名産を酷評した「じゃこ天は貧乏くさい」発言。その後も、クマ駆除への抗議電話に対し「すぐ切ります。ガチャン!」「お前のところにクマ送る」など、過激な発言の数々で話題を呼んだ。佐竹氏は「じゃこ天のことは本当に申し訳なかった」と自戒を込めつつ、「クマに関しては、間違ったことは言ってないと思う」と振り返る。
「クレームには2種類あった。本当にクマがかわいそうだという人は、一方的ではあっても乱暴な言い方はしなかった。人の命がかかっているという事情を話せば、分かってもらえることもありました。手に負えないのはもう一方で、あれは役所や公務員への単なる憂さ晴らし。中身は何でもよくて、ただ言い返せない職員をたたきたいだけのバッシングなんですよ。トップが毅然とした発信をすることで、下の職員もある程度は相手にする必要がないと思えるようになる」
佐竹氏自身も、1997年に県知事選出馬のため退職するまでは、一介の県庁職員だった。当時はカスタマーハラスメントという言葉もなかった時代、クマ問題とは別のところで、ひどいクレーマーに悩まされたことがあったという。
「本当に何を言っても聞かない。当時の上司が間に入って強く言ってくれたことで、クレーマーに付き合う必要はないんだと知りました。その後、市長になった後に、そのクレーマーがまた職員に絡んでるのを見かけてね。『コノヤロウ!』と怒鳴りつけてやった。『こちとら武家の血が流れてんだ、世が世ならたたっ斬るぞ!』とね。向こうも市長に怒鳴られるとは思ってなかったのか、『怖いこと言わないでくださいよ』と(笑)。結局、ああいうのは権威に弱いんです。でも、彼らにもかわいそうなところがある。だいたいが所得が低かったり、社会的な信用がなかったり、格差社会で取り残された人たち。つまりは政治の責任でもある。だからと言ってカスハラが許されるわけではないけどね」
クマ問題への対応を巡っては、研究者や専門家の間でも考え方もさまざまだ。政府の専門家検討会が推進するクマ対策では、放置された里山や雑木林に手を入れたり、河川沿いなどの下草を刈ったりするなど、クマと人間の生息地をすみ分けるゾーニングを基本方針としており、捕殺による個体数調整は手段のひとつと位置づけている。だが、クマ問題の最前線を主導してきた佐竹氏は、「そんな悠長なことは言ってられない」と主張する。
「学者や専門家は共生だなんだと言うけど、現場のことは意外と知らない。悪いけど自分が住んでみろと言いたいですよ。放置された里山の手入れや電気柵によるすみ分け、この広い日本で何十兆円かかると思います? 絶滅させる必要はないが、共生なんて言ってられる段階じゃない。クマ問題は災害みたいなもの。環境保護ではなく、危機管理、災害対策としてやっていかないと」
昨年11月~2月の猟期中、県内でハンターが山に入って捕ったクマは約150頭。一方、市街地周辺に出没し、危険と判断され有害駆除された数は2200頭以上にものぼる。かつてのように、個人の狩猟趣味で山に入るハンターはごくわずかで、市町村の依頼で有害駆除のため仕方なく駆り出さているのが現状だ。市街地周辺では警察の発砲許可が降りないことも多く、佐竹氏の強い働きかけもあり、今年9月には市町村長の判断で発砲ができる「緊急銃猟」制度が実現。それでも、実効性にはまだ課題も多く残るという。
「私も猟友会の会長とは付き合いが長いけど、そもそも猟友会はあくまで趣味の団体。プロがアマチュアに駆除をお願いしているという構図がまずおかしいんですよ。自衛隊基地にクマが入って、自衛隊がわざわざ猟友会に駆除をお願いしたこともあったでしょう。警察や自衛隊でSAT(警察の特殊急襲部隊)のようなクマ専門の特殊部隊を作るべきなんですよ。なぜそれができないかって、万が一事故が起こった際に責任を取るのが嫌だから。もしそんなことになったら、法整備に関わった政治家は全員選挙に落ちますよ。だから国は動かない。結局、立場の弱い地方や猟友会に責任を押し付けてるだけ。でも、いずれは遠からず首都圏でも出るようになる。もはや地方だけの問題じゃないんです」
一貫して政府のクマ対応に不満を募らせた佐竹氏。次回はクマ問題の根本原因ともいえる、人口減少についての考察を語る。
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