“センス系芸人”ふかわりょうの美学「言葉はファッション」 流行の表現を避けるワケ

お笑い芸人・ふかわりょうの冠番組『ふかわふかわしてるテレビ』(BSフジ/午後9時)が、10月26日に放送される。ふかわの独特な世界観が詰まった同番組のテーマは「日本語」。芸人としてのみならず、文筆家やアーティストなどとして、言葉の持つ魅力と怖さに向き合い続けてきたふかわは、「言葉はファッション」と表現する。これまで、どのように日本語と向き合ってきたのだろうか。

インタビューに応じたふかわりょう【写真:増田美咲】
インタビューに応じたふかわりょう【写真:増田美咲】

久々の冠番組は“ぬるま湯”「TVのくだらない面が出ている」

 お笑い芸人・ふかわりょうの冠番組『ふかわふかわしてるテレビ』(BSフジ/午後9時)が、10月26日に放送される。ふかわの独特な世界観が詰まった同番組のテーマは「日本語」。芸人としてのみならず、文筆家やアーティストなどとして、言葉の持つ魅力と怖さに向き合い続けてきたふかわは、「言葉はファッション」と表現する。これまで、どのように日本語と向き合ってきたのだろうか。(取材・文=中村彰洋)

トップアイドル時代にバイクでアメリカ横断、ベンツ、ロードスター…多彩な愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

 ふかわにとって久々の冠番組。誕生の経緯について、「BSフジさんからのプレゼントです」と独特の表現で語る。「日本語」を題材にするという企画の骨子はありつつも、番組内容はふかわの頭の中から生まれたものだった。

「ベースはあくまで僕の頭の中にあることでした。僕の考えを文章で表現させてもらい、スタッフさんの力をお借りして映像化していただいた形になります」

 番組では、言語学者の川添愛氏を迎えながらのトークのほか、言葉にまつわるショートドラマも展開される。ふかわ自身も出演するというコント仕立てのコンテンツは、「テレビ好き」な一面が色濃く反映されたものだ。

「僕はテレビが好きでこの世界に飛び込みました。テレビだからこそ表現できるものがあると考えています。今回の番組は、力が入っているというよりも、テレビのくだらない面が出ていると思います。僕の好きな湯加減、ぬるま湯に浸かって見てほしい1時間に仕上がっています」

 自身の名前を冠した番組だが、「自分の番組という意識はありません」と口にする。「言葉がいかに面白いのかを発信したいです。日頃、無意識に日本語を使っていますが、『こういう背景があったのか』などの気付きがあると思います。みんなで楽しめる憩いの場、噴水広場みたいなイメージです。見ている人もこの会話に思わず参加したくなると思います」。

 言葉への探求心は、一体いつから芽生えたのか。ふかわは、二十歳で芸人としてデビューした当時を振り返る。

「二十歳でこの世界入って、ネタもワンセンテンスで表現するスタイルでした。ネタこそあまり披露する機会はなくなりましたが、テレビで武器になるのは、物事に対してどういった言葉を添えられるか。そこが勝負になると思っています。

 テレビ、ラジオ、文筆活動などをやっていると言葉の可能性を感じずにはいられないんです。言葉一つで命取りになることもあり、怖さもありますが、言葉を生業に何十年とやってきた中で魅力を感じ続けています」

 そんなふかわだが、「言葉はファッション」と独特の持論を展開する。

「普段、『このパンツにはこのシャツが合うな』と考えるのと同じように、『この状況には、この言葉が合うな』『この心情を表現するのはこの言葉だな』と選んでいくんです。どういう言葉をまとうかで、その人の人格が見えてきます。ファッションと同じで、言葉にも流行があって、時代とともに変化していきます。そういった流れを見ることが僕は好きなんです」

久々の冠番組『ふかわふかわしてるテレビ』が26日に放送される【写真:増田美咲】
久々の冠番組『ふかわふかわしてるテレビ』が26日に放送される【写真:増田美咲】

言葉の成り立ちと重ねる“芸人の仕事”

 日本古来の美しい言葉遣いを大切にしているわけではなく、むしろ新たな組み合わせによって生まれた表現にこそ、大きな魅力を感じるという。

「例えば『蚊帳の外』という表現。これは元々蚊帳というものの外側という意味ですよね。それを人が疎外される意味で使った人がいたわけです。ここに僕のテンションが爆上がりなんですよ。この言葉選びのセンスと感性。『理論武装』も好きな言葉です。理論と武装という別々の単語をくっつけて、意味が伝わる。本当にすごいと思います。脱帽です」

 これらの言葉の成り立ちを“芸人の仕事”とも重ね合わせる。「本来別の場面で使うべき言葉を、違った場面に持ってくる。そういった芸人としてのテクニックみたいなものが今の時代に求められていると思っています」。

 一方で、流行の言葉を使うことには抵抗があるという。「改めて僕は、みんなが着ているものを着たくないタイプなんだと自覚しました。みんながよく使う表現を避けて、いかに違った言葉で表現するかということに意識を向けてしまいますね」。

 言葉を生業にする以上、その選択には細心の注意を払う。助詞の選択ひとつで炎上してしまう現代において、その意識はより研ぎ澄まされている。

「ここ数年、『てにをは』1つで炎上しちゃうような世界になってはいますが、僕は窮屈だとは思っていません。炎上が良い悪いではなく、助詞1つで印象が変わってしまう日本語って本当に面白い、という気持ちが勝っちゃうんですよ(笑)」

 アーティスト、文筆家としての顔も持つが、自身の“作品”たちをどのように受け取ってほしいのか。そこにはふかわならではの哲学があった。

「最近は共感を強いる風潮がありますが、僕はそれがあまり好きじゃないんです。あくまで共有はしたいですが、共感は求めていません。それと同時に、最近は同調を求める風潮も強まっていると思います。でも、僕は同調じゃなくて協調の方が大事だと思っているんです」

 今回の番組についても、「見た人みんなが同じことを感じる必要はありません」と断言する。「あくまで言葉と戯れる1時間なので、『一緒に戯れませんか?』とお誘いするような感じですね」。

 共感を求めず、ただ言葉との戯れを共有する。そんな“ふかわ流”の憩いの場が、視聴者に新たな言葉の面白さの選択肢を提供する。

□ふかわりょう 1974年8月19日、神奈川県出身。94年、20歳の誕生日お笑い芸人としてデビュー。長髪へアターバン姿での「小心者克服講座」のネタでブレイク。以降、テレビMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして音楽活動も精力的に行っている。2024年10月には言語学者・川添愛氏と共同で『日本語界隈』(ポプラ社)を上梓した。25年10月16日には新著『東京生まれじゃないけれど』(ポプラ社)を刊行。また、23年4月の著書『スマホを置いて旅したら』(大和書房)が25年10月に発表された「図書館員が選んだ!ぎふ本大賞」を受賞した。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください