生活感あふれる“デジモンの街”に感じた幸福 『デジモンストーリー タイムストレンジャー』レビュー

育成RPG「デジモンストーリー」シリーズ最新作『デジモンストーリー タイムストレンジャー』が、3日に発売された。デジタルな存在である“デジモン”たちとともに世界の謎に迫っていく、王道ストーリーのRPGだ。

「デジモンストーリー」最新作が発売された【画像:(C)本郷あきよし・東映アニメーション (C)Bandai Namco Entertainment Inc.】
「デジモンストーリー」最新作が発売された【画像:(C)本郷あきよし・東映アニメーション (C)Bandai Namco Entertainment Inc.】

デジモンたちの生活感を感じられたデジタルワールド

 育成RPG「デジモンストーリー」シリーズ最新作『デジモンストーリー タイムストレンジャー』が、3日に発売された。デジタルな存在である“デジモン”たちとともに世界の謎に迫っていく、王道ストーリーのRPGだ。

(※以下、作品のネタバレを含む記述があります)

 筆者はアニメの初代『デジモンアドベンチャー』直撃世代であり、同作の主人公たちである“選ばれし子どもたち”に感情を重ね合わせて育った(余談だがBlu-rayボックスも所有している)。そんなバックグラウンドとともに『タイムストレンジャー』をプレイして感じたのは、現代の映像技術で「デジモンとの共生」が描かれる幸福と、その要素をメインストーリーにうまく落とし込むことの難しさだった。

 ゲームとしての「デジモン」シリーズの醍醐味といえば、デジモンたちの育成と進化にある。「デジモンストーリー」シリーズでは様々なデジモンを入れ替えながら戦えるため、“パートナー”としての側面は控えめだが、ともに戦う仲間であることは間違いない。本作の育成も多種多様なデジモンを無数の進化ルートから入手可能となっており、好みのデジモンを育て上げていく楽しさを感じられるようになっている。

 ただ、前述の理由もあり、個人的にはデジモンが日常に存在する世界観に最も惹かれた。アニメシリーズのように特定のパートナーデジモンと絆を深めるような描写はあまりないが、デジモンたちが暮らす様々な街が美麗なグラフィックで表現され、その一つひとつが個性的で魅力的だった。

 中でも、デジタルワールドで最初に訪れる街であり、トレーラーでも印象的だったセントラルタウンには、デジモンたちの息遣いまで聞こえてくるような生活感がある。本作のマップはオープンワールドではなく、NPCとの会話もそこまでディープに発展していくような作りではないが、住民たちの配置やBGM、効果音などが重なり合い、総合的に“生きている街”が表現されていた。そこに“珍しい客人”として訪れ、物語の主人公として関わっていけるというのは、シンプルに心躍るものがあった。

 また、近年のゲーム作品では珍しくなくなった“現代日本の街”についても、新宿や秋葉原といった街がかなり正確に再現されている(さすがに都庁内部については現実の詳細を知らないため判別できないが……)。決して本作の魅力の中心となる部分ではないとはいえ、実世界とのリンクが感じられるほど、デジタルワールドも身近なものに思えてくるもの。重要な舞台装置としての役割を果たしていると言えるだろう。

デジモンたちが暮らす街が最新グラフィックで描かれた【画像:(C)本郷あきよし・東映アニメーション (C)Bandai Namco Entertainment Inc.】
デジモンたちが暮らす街が最新グラフィックで描かれた【画像:(C)本郷あきよし・東映アニメーション (C)Bandai Namco Entertainment Inc.】

能動的に会話できるサイドミッションでこそ輝いた主人公

 デジモンたちの世界と生活が丹念に表現されている一方で、メインストーリー(メインミッション)と主人公の描写にはやや物足りなさも残った。というのも、行動を共にするイノリとアイギオモンがパートナーとしての絆を強めるにつれ、主人公の存在に必然性が薄れてしまい、没入感に欠けてしまった印象だからだ。

 ストーリーの中で主人公が必要な理由も明かされるが、それはあくまで“説明”であり、プレイヤーの納得感につながるかは人それぞれだろう。個人的には、主人公にもパートナーとなるデジモンが存在するほうが、「デジモンの物語」として受け入れやすかったように思う(そしてアイギオモンではなくこちらをパーティ強制加入にしてほしかった)。

 もっとも、主人公の周囲で“デジモンとの共生”を描写することに難しさがあることも理解できる。イノリ&アイギオモンに加えて主人公&パートナーデジモンという関係性が生まれると話の軸がブレる可能性もある上に、パートナーデジモンとの接し方(=パートナーシップの考え方)もプレイヤーにとって千差万別であり、その関係性がメインストーリーに組み込まれれば組み込まれるほど、プレイヤーの意図との齟齬も起こりかねないからだ。

 そうした意味では、サイドミッションにおける主人公の扱いは納得できた。ある程度の頻度で選択肢が出現し、主人公の振る舞いの方向性をコントロール可能。主人公はどのようにデジモンたちと接し、それに対してデジモンたちはどんなリアクションをするのかを見ることができる。メインミッションではないためボイスもなく、世界を動かすような出来事はないものの、時に真剣で、時にコミカルなやり取りは、“デジタルワールドで暮らす”ことの楽しさを強く実感できるものだった。

 そのほかにもUI・システム面での細かなマイナス点はあったが、“デジモンが暮らす世界を作り上げる”という意味では、過去最高の出来であったことは間違いない。これをベースに次回作が生み出されるのであれば大いに期待したくなる、そんな作品となっていた。

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