年商15億円のスターダム社長、右肩上がりな経営状態の理由 マリーゴールドとの開戦可能性は
年商15億円以上といわれるスターダムは、日本における女子プロレス団体では他の追随を許さない売上を誇る。そのスターダムで二冠王に君臨する上谷沙弥はファンに対し、「東京ドームに連れてってやる」と発言したが、現実論としてそのタイミングはいつなのか。また、その際のキラーカードは……? 岡田太郎社長を直撃した。

東京ドーム進出のタイミング
年商15億円以上といわれるスターダムは、日本における女子プロレス団体では他の追随を許さない売上を誇る。そのスターダムで二冠王に君臨する上谷沙弥はファンに対し、「東京ドームに連れてってやる」と発言したが、現実論としてそのタイミングはいつなのか。また、その際のキラーカードは……? 岡田太郎社長を直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「これが読めなくなってきまして……」
率直に岡田社長にドーム進出の件を当ててみると、そんな言葉が返ってきた。
「以前は就任して5年以内に頑張ろうって経営的戦略を立てたりとかは内々ではしていました。例えば何年に年商何億になって、そしたらいつ頃できるかって。ただ、今はそれが、いい意味で分からなくなってきちゃって。正直な話をすると、(今は)まだ無理です。今やれと言っても無理ですけど、ここから数か月、1年というところでドーム開催まで行ける可能性を全力で加速させるように導くのが今の僕の目的ですね。とにかく思ったよりも近くでできたらいいなって、今は走るスピードを緩めないことですね」
ちなみに昨今の売上はどうなっているのか。
「スターダムは6月決算なんですね。昨年の2024年はだいたい年商15億円で発表していて、売上も利益も微増です。2023年6月期の決算が一番大きく発表をしていて、利益が2億円あったんです。去年は5000万円くらいだったんですね。今年から新日本プロレスとの連結決算発表になってますが、良くなっているということは言えます。たしかにスターダムがブシロードの傘下に入った時(19年12月)のバーンと上がった時のような曲線は描けていないものの、去年は選手やプロデューサー、スタッフが抜けたり、そういったところで費用がかかってくるなかで、たぶんガクンといってもおかしくないところを、ちゃんと上向きにしたっていうのが、今のご説明できる経営状況ですね」
たしかに昨年は、スターダムの創業者でもあるロッシー小川氏が一部の主力選手やスタッフを引き連れ、マリーゴールド(通称・マリゴ)という新団体を立ち上げたことで、岡田社長は社内調整に追われた日々だったに違いない。
「分裂騒動があった2年前、今年の横浜アリーナ大会が7500人埋まるなんて誰も想像していなかったと思うし、自分が(23年12月に社長に)就任した時には後楽園大会は700人台、600人台もあったんですけど、今年に入ってからの後楽園は1000人を割ったことは一度もありません。逆に1600人台の本当の完売。立ち見客も入れて席も置けない超満員札止めは2回あります。今、後楽園はすごい入ってますね」

上谷沙弥対Sareeeはいつ実現するのか
さて、実は今回、岡田社長には新日本プロレスの創設者、“燃える闘魂”アントニオ猪木(A猪木)の権利を管理する、猪木元気工場で話を聞かせてもらったが、現在の経営状況を聞いたところで紹介したい言葉がある。
「すべてのジャンルはマニアが潰す」。これはスターダムと新日本プロレスの実質的なオーナーを務める、ブシロードの木谷高明CEOが口にした言葉だが、岡田社長いわく、「塀を立ててしまうと、新しい層が入ってこない」ため、新規の参入者にとっては決して居心地の良くない傾向になってしまう。個人的には非常に納得感のある言葉だと思っている。
岡田社長は「それを意識していたのがこの方(A猪木)だったじゃないですか」と言って、側にあったA猪木の写真に視線を向けたが、A猪木の場合は、良くも悪くも常に「見る側」をいかに裏切るか、という勝負をしている部分があった。
これに関して岡田社長は「リング上ですごい仕掛けをしても、単純に裏切りを続けることは意味がない。ただ、いかにリング上の勝負以外のところで裏切れるのかは常に探しています。それは僕らスタッフ一同みんなそうだし、選手もすごく探していると思います」と話した。
とはいえ、ドーム進出ともなればそれなりのキラーカードが必要になってくるが、現段階でのそれは、おそらく二冠王・上谷VS前IWGP女子王者・Sareeeになるに違いない。両者とも現在の女子プロレス界では甲乙つけがたいほどの存在感を放っている。この対決をどこまで温存するのか。ファンならずとも注目しているが、岡田社長はこれに関して以下のような見解を示した。
「(対決の時期は)全然分からないですね。いろんな感情や状況がり混ざっている時期だと思うので、そこは来るべき時にやることになると思います。僕個人の思いで言えば、自分でコントロールできるなら出し惜しみはしたくないですね。いつどんな状況になるかわからないのがこの世界ですし」
また、上谷に関しては、毎年年末に発表されるプロレス大賞に関して、女子プロレス部門の大賞ではなく、男子も含めた上での大賞の声が上がっている。
「これが女子プロレス大賞なら男子が取るのはおかしいと思いますけど、プロレス大賞って、男女の縛りが明確にされているわけではないから、女子が男子を含めた上で大賞(MVP)になる権利はあると思いますね」(岡田社長)
折しも自民党の高市早苗総裁が、我が国初の女性総理になる可能性が現実味を帯びつつある昨今、「女性がプロレス大賞のMVPに選ばれることは時代が求めているのかもしれない」と岡田社長は語る。
禁断の闘いの火蓋はいつ切られるのか
ちなみにスターダムといえばもうひとつ、実現するのかしないのか。禁断ともいえる闘いが存在する。
それは先にも触れたマリーゴールドとの開戦について。良くも悪くもプロレス界は離合集散の歴史によって彩られてきたことを考えると、スターダムから分派するカタチで立ち上がったマリーゴールドとはいえ、いつその「パンドラの箱」が開かれるのかは自然と注目されて然るべきだろう。
この話を岡田社長に向けると、「意識してないことはないですよね」という意外ともいえる言葉を発した。正直な見解だとは思ったものの、昨年の経緯を考えるとこの言葉の真意はやはり気になる。
「マリーゴールドという団体は、自分が尊敬というか一緒にやっていこうと思っていたロッシー小川さんたちが、スターダムから独立されてつくったものなので、いろんな思いはありますけど、すでに立ち上がって出てしまったのでそこに執着はしていなくて。むしろ、僕たちは突っ走っていくしかないなと思ってやっています」
そう言って岡田社長は基本的なスタンスを口にしながら、さらに話を続けた。
「本音を言えば、僕らが一番意識しているのは、日本国内では新日本プロレスになります。僕らよりも売上規模が大きい新日本に追いつけ追い越せという意識でやっていますから。世界的な部分ではWWE、AEW、CMLLも意識します。そういうなかではマリーゴールドもひとつのライバル企業、同業他社として見ています」
もちろん他の団体と並列だとしても、「見る側」からすればそうは問屋が卸さない。それを認識しながら岡田社長は自身の思いを改めて言葉にする。
「ただ、プロレスファンの心情としては、いつか交われば爆発するんじゃないかって、みなさんも思われていると思います。だからそこに関しては、僕は本当に『その時が来たらやりますよ、必要とあらば』っていう気持ちではいます」
おそらくマリーゴールドに関して岡田社長がここまで言及したのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「それでも僕からすると、どうしても『他の団体と一緒。因縁がある団体のひとつでしかない』という言い方になってしまう。ただ、小川さんと(どこかの会場なりで)会ったら、お互いに『見てるよ』という話になっているのも事実。小川さんに対しては、一緒に面白いものをつくりたかったなって思いはありました。あれだけ女子プロレスをかき回してきた方なので……。でも、絶対に飲み込まれてはいけないし、飲み込まれないものを僕らはつくらなきゃいけない。だからスターダムが一番だと思い続けて、信じ続けてやるだけです」
A猪木が残した言葉に「一寸先はハプニング」なるものがある。それだけこの世界は本当になにが起こるのか分からない、という意味合いが多分に含まれた言葉だが、まさに岡田社長は今現在、その流れのなかにいる。これをいかに泳ぎ切るのか。
ともあれ、風雲急を告げるプロレス界において、スターダムと岡田社長の動向からは、今後も目が離せなくなっていることだけは間違いない。
(一部敬称略)
