唐沢寿明、出会わなければ「ただの二枚目俳優で食い潰されて…」 感謝で振り返る2人の名優
俳優・唐沢寿明主演のテレビ東京系連続ドラマ『コーチ』(金曜午後9時)が今月17日にスタートする。警察小説のドラマ化で、唐沢は悩める若手刑事たちにアドバイスする警視庁人事二課の向井光太郎を演じる。作品のテーマの一つが「コーチ」で、唐沢自身にそういう存在はいたのか気になるところ。役者・唐沢の今に迫るインタビュー最終回のPart3では、俳優人生を彩った先輩たちについて話を聞いた。

「フィンガーボールの水を…」
俳優・唐沢寿明主演のテレビ東京系連続ドラマ『コーチ』(金曜午後9時)が今月17日にスタートする。警察小説のドラマ化で、唐沢は悩める若手刑事たちにアドバイスする警視庁人事二課の向井光太郎を演じる。作品のテーマの一つが「コーチ」で、唐沢自身にそういう存在はいたのか気になるところ。役者・唐沢の今に迫るインタビュー最終回のPart3では、俳優人生を彩った先輩たちについて話を聞いた。(取材・文=鍬田美穂)
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「コーチされたというか、それはいろいろな人に助けてもらいました。それこそ今のプロダクションに入る前、20代前半ぐらいかな、舞台の制作事務所の時の社長にも教えてもらいました。ナイフとフォークの使い方から何から何まで……フィンガーボールの水を飲んでいたぐらい(笑)。社長に『やめなさい』って言われましたけど、笑い事じゃなく、本当にそこまでものを知らなかったんですよ。水にレモンが入っているじゃない? だから、これは飲む水なのかなと思って」
そうお茶目な一面を明かし、笑顔を見せた。本作は、ベストセラー作家・堂場瞬一氏の同名警察小説が原作。唐沢扮する向井が若手刑事らに“コーチ”することで、彼らが自身の問題点に気づきを得て、仕事のみならず人としても成長する姿を描く。唐沢にもそうした出会いと気づきが、若き日にあったという。特に、演出家の蜷川幸雄さん(2016年死去)や野田秀樹氏の存在は大きかったようだ。2001年に蜷川さん演出のシェークスピア悲劇の『マクベス』、1996年に野田氏演出の舞台『TABOO』などに出演した。
「別の事務所の社長から、舞台のことで『蜷川さん(の舞台)をやりなさい』とか『野田秀樹をやりなさい』と言われたんです。シェークスピアなんかセリフが多いし、やりたくなかったんですけどね(笑)。でも振り返ってみたら、それが自分の経験、キャリアとして良かったと思います。自分も頑張りましたけど、そういう人に出会っていたことの方が大事なんじゃないかな。人間関係は、あらゆるところに必ず意味がある。やっぱり縁があったんでしょうね」

蜷川幸雄さんとの出会いのエピソード
さまざまな出会いが、今につながっていると実感する。もっとも蜷川作品については、「やらされていた」感覚だったとし、「(シェークスピアは)本気でやりたくなかったからね」と笑いながら、蜷川さんとの出会いのエピソードを教えてくれた。
「渋谷で、人を介して会わせてもらった時、蜷川さんに『僕はまだ、そういうのは早いと思うので、すいません。今度でいいですか』と伝えました。蜷川さんも『全然、今度で大丈夫だよ』とおっしゃったので、帰ろうとして立った瞬間に、蜷川さんが『死んじゃうよ!』って叫んだの。『なんですか?』って聞いたら、『そんないつになるかわかんなかったら、僕、死んじゃうじゃないか!』って言われたんです。だから、僕も『いや、死ぬ前にやりましょうか』ってことで、やったんですよ(笑)」
そういう劇的な出会いだったからこそ、単なる演出家と俳優とは違う、どこか友達のような関係性が生まれたと感じていたという。ちなみに、芝居や現場での振る舞いについては、「それはね、人のものを見て育つしかないですよ」ときっぱり。独学とセンスで築いてきた。だが芸能界は努力だけでは、越えられない壁もある厳しい世界だと話す。
「オリンピック選手と同じで、例えば100メートルを9秒台で走る人がいたとしたら、もう生まれながらにして、いい筋肉が備わっているんですよ。かけっこすると誰よりも速くて、それに誰かが目をつけて育てるわけじゃないですか。僕らの業界も一緒で、できる人は最初からできるんです。だって日常では、会話が棒読みの人とかいないでしょう。でも演技したら棒読みしている人がいるじゃない? 向いていないんですよ。人生経験が足りないか、才能がないか。だから芸能界って本当はすごく残酷なんです」
センスを学んだ2人の名優の存在
そんな厳しい世界において、唐沢は数々の作品に出演し、確かな演技力で長きにわたり支持を集めているが、自身が役者に向いていると感じた瞬間を聞くと「それは思い込みですよ。ずっと思い込みで来ているからね(笑)」。謙虚に語るが、表現を磨いた上で、とりわけ感謝している先輩2人の名を挙げた。
「やっぱり樹木希林さんや西田敏行さんは、大きかったですね。コメディーセンスは随分と勉強させてもらいました。教えてもらうというより、見ていて『すごいな』って感じたことは、自分でやってみたりしましたね。コメディーって経験がないと、すぐにできるものじゃないんです。本番でもかなり鍛えてもらいました。そういう方たちと共演ができていなければ、ただの二枚目俳優で食い潰されて、終わっちゃうでしょう(笑)。今いろんな役ができるのは、お二方のおかげだと思いますね」
感謝を胸に、今度は自身が次世代の手本となっていく。
□唐沢寿明(からさわ・としあき) 1963年6月3日生まれ。東京都出身。80年から自主公演などを行い、87年に舞台『ボーイズレビュー・ステイゴールド』で本格デビュー。その後も舞台やドラマ、映画などで活躍。主な出演作は、ドラマではフジテレビ系『愛という名のもとに』(92年)、NHK大河ドラマ『利家とまつ』(2002年)、フジテレビ系『白い巨塔』(03~04年)、テレビ東京系『ハラスメントゲーム』(18年)、WOWOW『フィクサー』シリーズ(23年)など多数。映画では『高校教師』(93年)、『20世紀少年』シリーズ3部作(08~09年)ほか。プライベートでは、NHK連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』(88~89年)で共演した俳優の山口智子と95年に結婚し、今年、結婚30周年を迎えた。
