前橋市長のラブホ問題 本質は「不倫」ではなく「職場崩壊」…海外企業では部下と恋愛でCEO解任の例も

群馬・前橋市の小川晶市長(42)が既婚の男性職員とラブホテルに複数回行っていた問題は、混乱が続いている。小川市長は男女関係を否定。男性職員も今月10日、弁護士を通じて「事情説明書」を提出し「人目を気にせずに話ができる場所として、思いついてしまったのがラブホテル」などと弁明した。しかし、市民による批判の声は止む気配がない状況に、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「問題の本質は『不倫』とは別にある」と指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔氏が解説

 群馬・前橋市の小川晶市長(42)が既婚の男性職員とラブホテルに複数回行っていた問題は、混乱が続いている。小川市長は男女関係を否定。男性職員も今月10日、弁護士を通じて「事情説明書」を提出し「人目を気にせずに話ができる場所として、思いついてしまったのがラブホテル」などと弁明した。しかし、市民による批判の声は止む気配がない状況に、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は「問題の本質は『不倫』とは別にある」と指摘した。

 これが「泥縄」ということか。「ラブホテル問題」の渦中にある小川市長と相手の男性職員は、弁明するほど深みにはまっているように思える。

 そもそも小川市長は弁護士だ。弁護士業をしていれば、一度は相談を受けるのが「離婚問題」。不倫(法律用語では「不貞行為」)を原因とする離婚事件は多いので、裁判所による男女関係の認定方法を弁護士が知らないはずはない。男女関係を裏付ける証拠の代表例、それが「ラブホテルの出入り」なのだ。

 最近ではSNSのメッセージなども不倫の証拠として提出される。だが、男女がどんなに親密なメッセージを交わしていてもそれだけでは「男女関係そのもの」の証拠としては弱い。一方、「男女関係が行われている最中の様子」を直接示す証拠は、行為が録画でもされていない限り存在しないのが通常だ。このため、裁判所による男女関係の認定では「男女が同じ宿泊施設に入り、一定時間の後に出てきた」という記録が最強の証拠の一つとなっている。

 そしてホテルへの出入りの証拠を押さえられてしまったら「男女関係はない」という反論はなかなか通らない。「ラブホテルは仕事関係の宿泊に使っただけだ」という反論が出された裁判例でも、判決は「周辺には、通常のビジネスホテルやカプセルホテル等が多数存在するのであるから、このような弁解では、夫が上記のようなラブホテルばかりを選んで利用している理由を合理的に説明することができない」と一刀両断にしていた。

 こうした男女関係の認定をめぐる裁判実務を、弁護士である小川市長が知らないはずがない。ということは、小川市長は「男性職員とラブホテルに入ったことがバレたら、裁判では男女関係ありと認定される」と分かっていながら、敢えて2人でホテルに入ったことになる。そのリスクを知る法律の専門家が、「単なる相談場所」としてラブホテルに行くだろうか。

 また、男性職員は「事情説明書」を提出したが、その内容も疑問が残るものだった。「インターネットで調べてみたら女子会利用などもあると出てきたので、使ってもかまわないだろうと考えた」と主張しているようだが、小川市長と男性職員の集まりは「女子会」ではなく「男女の会」だ。また「市長の身辺を探っている人がいるという情報」があったので人目を気にせず話せる場所を探したとも弁明しているが、だったらなおさら出入りがバレたら一発アウトのラブホテルには近づかないはず。「市長の身辺を探っている人がいる」ので「2人でラブホテルに行った」という主張は、理由と結論があまりにちぐはぐに思える。

 しかし、最終的にホテルの一室の中で何があったか、真実を告白できるのはその場にいた小川市長と男性職員だけだ。裁判などにならない限り、「やっていない」と当人が否定し続ければ「不倫」は「疑惑」のままで時間が過ぎていく可能性がある。そのうちに世間の熱が冷め、「政治家としての能力とプライベートは別」という声が出てくれば、真実は曖昧なまま事態を乗り切れる。そんな期待が小川市長側にはあるのかもしれない。

 だが、2人の間に男女関係があろうとなかろうと、小川市長の行動は市長としての資質に欠けるものだと思う。なぜなら、市長が特定職員と「特に親密な個人的関係」を持つこと自体が、市役所の職場環境を破壊しかねないからだ。

 職場の人間とプライベートな関係を持つことは時にトラブルを生む。職場の上下関係を悪用して嫌がる相手と関係を持とうとするのはセクハラそのもので論外。さらにそれに加え、相手の合意がある場合でも関係を持って良いとは限らない。その場合、今度は職場での「男女関係によるえこひいき」が問題となりうるからだ。

市長が選ぶべき道も自ずと明らかに

 職場のトップと部下が「2人でラブホテルに行くほど親密な関係」になり、その部下がトップの側近として幅を利かす。そんな職場になったら他の職員はどう思うか。「自分が真面目に仕事をしても、どうせトップと『親密』な人の方が優遇される」という思いが広がり、職場の士気は下がるだろう。セクハラとして問題となる行為には、直接の性的嫌がらせだけでなく、性的な言動によって労働環境を不快にさせる「環境型セクハラ」も含まれる。男性職員は、小川市長の就任直後に「側近の職に抜てきされた」と報じられている。そうした人物が市長と2人でホテルに行くような「特に親密な個人的関係」にあるという事実は市の人事に疑念を生み、多くの職員を不快にさせ、市行政を沈滞させるのではないか。

 こうした人事上の疑念などを避けるため、海外では職場の上司・部下間の親密関係を規制する例が多い。今年9月には、世界的な食品大手・ネスレのCEOが、直属の部下との恋愛関係は行動規範違反だという理由で解任された。こうした規範が日本でも広まるかどうかは別にして、組織のトップが人事の適正さに疑いを抱かせるような「個人的関係」を部下と持つことが不適切なのは当然。市民の税金で支えられ市民に尽くすべき市役所が舞台ならなおさらだ。

 このところ、さまざまな自治体で「道義的責任」が死語になったと感じさせる問題が相次いでいるが、このままではいけない。「地方自治は住民のためにある」という原点に立ち返れば、小川市長が選ぶべき道も自ずと明らかになるのではないだろうか。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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