「海外ではやりません」フランス人が驚いた“日本の常識” パスポート紛失→予想だにしない結末に感激

 日本で働く海外出身のビジネスパーソンは、日本での暮らし、ビジネス文化についてどんなことを思っているのか。南フランス出身で44歳のファビアン・ルディエさんは、ITに精通するプロだ。ベトナムの最大手IT企業「FPTソフトウェア」の日本法人(東京)で、DX(デジタルトランスフォーメーション)グローバル部門のチームリーダーを務めている。フランス外務省職員としてキャリアをスタートさせ、東南アジア・中東を渡り歩き、2010年に来日した。約15年間の日本生活で“文化の違い”を数多く経験、それはビジネスの現場でも思わぬ形で表れた。「本当に驚きました」。グローバル人材の目に映る、日本独自のビジネスマナーとは。

ベトナムIT企業「FPTソフトウェア」日本法人に勤めるフランス出身のファビアンさん【写真:ENCOUNT編集部】
ベトナムIT企業「FPTソフトウェア」日本法人に勤めるフランス出身のファビアンさん【写真:ENCOUNT編集部】

フランス外務省職員としてキャリアをスタート、東南アジア・中東を渡り歩いてきた

 日本で働く海外出身のビジネスパーソンは、日本での暮らし、ビジネス文化についてどんなことを思っているのか。南フランス出身で44歳のファビアン・ルディエさんは、ITに精通するプロだ。ベトナムの最大手IT企業「FPTソフトウェア」の日本法人(東京)で、DX(デジタルトランスフォーメーション)グローバル部門のチームリーダーを務めている。フランス外務省職員としてキャリアをスタートさせ、東南アジア・中東を渡り歩き、2010年に来日した。約15年間の日本生活で“文化の違い”を数多く経験、それはビジネスの現場でも思わぬ形で表れた。「本当に驚きました」。グローバル人材の目に映る、日本独自のビジネスマナーとは。(取材・文=吉原知也)

 フランスで生まれ育ったファビアンさんは、大学卒業から大学院進学までの間に、長期旅行を体験。そこで海外志向が芽生えた。「自分の目で世界を見たかったんです」。フランスからベトナムまで、鉄道旅に出たのだ。

「シベリア鉄道に乗って、ロシア、モンゴル、中国、ベトナムまで行きました。その時に気付いたんです。言語を話すのは、そんなに難しくないことだと。フランスで英語や日本語を学んでいましたが、あまり話す機会はなく、『自分はしゃべれない』と思い込んでいました。でも、海外に行ったら無理にでも話さざるを得ません。思い切って外国語を話してみると、言いたいことは伝わる。言われたことは理解できるようになる。自分にとっての人生の大きな発見でした」。違和感のない日本語ですらすらと話す。

 大学院で国際関係を学び、フランス外務省の職員として就職。カンボジア、ベトナムで大学間の協力や留学生交流を担当した。日本のフランス大使館に赴任する形で10年に来日し、業務にまい進した。その後、16年に日本のテクノロジー系のスタートアップ企業に転職。インドネシア、フィリピン、中東などを飛び回った。

 現在勤務するFPTとは、過去のつながりがあった。同社はベトナム国内でIT人材を育成して世界に輩出する大学などの教育機関を運営しており、「私がフランス外務省時代に、FPTと一緒に、大学の奨学金プログラムを作った経験があります。縁があると思っています」。4年前にFPT側から“ヘッドハンティング”され、入社に至った。

 ファビアンさんが率いるDXグローバル部門は、FPT社内で最もダイバーシティー(多様性)を誇る組織だ。日本法人だけでもベトナムやインド、台湾などグローバルなメンバーが集まっており、「イノベーション(技術革新)が生まれる環境を作るのが目標です」と自信を込める。

 長きにわたる日本生活で、驚いたことはいっぱいある。最初に驚嘆したのは、電車の正確さだった。「フランスにも電車網は広がっていますが、数分遅れても何もアナウンスがない。遅延は普通のことです。日本では、電車に合わせて予定を立てても、それが狂うことはありません。それはすごいだと思っています」。

 さらに実感しているのは、日本人の誠実な気質だ。こんな失敗談がある。15年前の来日直後の出張中、関西地方の駅で、パスポートや現金が入ったかばんを電車内に忘れてしまったのだ。「ここで降りないと、と焦って、荷棚に置き忘れてしまいました。これがヨーロッパや東南アジアだったら、もう終わり。大変な手続きになると覚悟しました。でも、駅員に聞いたら、『どなたかが届けてくれましたよ。あの駅に行けばすぐ受け取れます』と。信じられませんでした」。現金も含め、何一つ失われていなかった。「他人のことを思いやり、他人の物を大切にする。本当に素晴らしいことだと思います」と語る。

フランスやヨーロッパでは「できないことは『これはダメ』とはっきり言います」

 一方、ビジネスの現場では、当初は戸惑ってしまったことも。それは「名刺交換」だ。

「名刺交換は海外ではやりませんよ。海外ではビジネス用のSNSアプリがあって、基本的にそれでつながりを持つようになります。名刺を持っていないのも普通です。フランスで名刺を持っているのは、CEOといった偉い人ぐらいです。日本では、最初に必ずやるセレモニーと言った感じですね。面白いマナーだなと思っていますが、文化の違いとして、『これが日本のビジネスのやり方なんだ』と捉えています」。初めての名刺交換の際、フランス外務省の日本人の同僚が説明してくれたという。「相手の名刺を両手で受け取る。頭を下げる。そんなこと知りませんでした。普通に片手で出そうとしました」と笑う。あいさつする際に海外では握手が一般的だが、日本ではあまりしないことも印象的だという。

 日々仕事をする中で、最も注意を払っていることがある。「フランスやヨーロッパでは、できないことは、『これはダメ』『これはできません』とはっきり言います。でも、日本人は基本的に言わない。『どうでしょうか』『これは難しいかもしれません』といった具合です。その意味は、NOなのかどうか。相手の行間を読まないといけません」。日本特有のコミュニケーションのスタイルには“苦戦”することが多いようだ。

 会議でも文化の違いが顕著に表れるという。「ヨーロッパのビジネスディスカッションはテンポが早いです。ポンポンと進みます。一方で日本の会議では、話者の説明が終わるまで最後まで聞かないと、その話の意味が理解できないことがあります」。海外チームメンバーとの会議では、ファビアンさんが間に入って調整することもしばしば。「日本のメンバーが話している途中で、海外メンバーがすぐに質問しようとしてしまうのです。『ちょっと待って。話を最後まで聞こう』と、よく止めています(笑)。その国によって、ビジネスマナーは異なります。それはとてもいいことです。文化の違いを理解しながら、みんなが仕事を頑張ることができるよう、日々心がけています」。ファビアンさんは、グローバル人材の資質に必要なことを教えてくれた。

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