「どう見てもドラゴンボール」話題になった“万博スカウター” 「私の戦闘力は…」警備員も困った質問とは

今月13日に会期終了を迎える大阪・関西万博で、警備員の“最新装備”が大きな話題を集めた。特殊なディスプレーを片側の目に覆うように装着する警備ツール「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」だ。人気漫画・アニメ『ドラゴンボール』に登場する「スカウター」をほうふつさせると、SNSを中心に大バズり。国内外の来場者の間で、警備員がすっかり人気者になった。万博での“実証実験”を経て、11月からいよいよ実装として現場に配備されるという。最新装置を開発した警備会社大手・テイケイ株式会社(東京)に“万博秘話”を聞いた。

“万博スカウター”を装着した警備員が話題を集めた【写真:テイケイ株式会社提供】
“万博スカウター”を装着した警備員が話題を集めた【写真:テイケイ株式会社提供】

「戦闘力は測れますか?」 今年4月の万博開幕から日本館の警備を担当

 今月13日に会期終了を迎える大阪・関西万博で、警備員の“最新装備”が大きな話題を集めた。特殊なディスプレーを片側の目に覆うように装着する警備ツール「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」だ。人気漫画・アニメ『ドラゴンボール』に登場する「スカウター」をほうふつさせると、SNSを中心に大バズり。国内外の来場者の間で、警備員がすっかり人気者になった。万博での“実証実験”を経て、11月からいよいよ実装として現場に配備されるという。最新装置を開発した警備会社大手・テイケイ株式会社(東京)に“万博秘話”を聞いた。(取材・文=吉原知也)

 HMDは、現場の警備員と指令センターをつなぐ役割を持つ。透明なディスプレーに、センターから送信される映像や文字情報をリアルタイムで表示。防犯カメラや警備ロボからの映像、VIPの顔写真や動線情報などをディスプレーに瞬時に共有することで警備の効率化を図っている。胸部分に装着するボディーカメラにも連動しており、現場の映像を瞬時に指令センターに送ることも可能だという。

 この次世代型ツールは約5年に及ぶ開発期間を経て、万博でお目見え。同社担当者は「これまで情報共有の際に無線機を使ってきましたが、言葉で伝えるとどうしても齟齬(そご)が生じたり、周囲の騒音で聞き取れないなどの課題がありました。映像の共有によって課題を解消し、巡回中に歩きながら視覚的な情報を受け取れることで、警備の効率化を図る狙いがあります。また、ボディーカメラの使い方として、物陰に自分の身を隠しながら、カメラだけ出して映像を確認することができ、安全面でも機能性を高めています」と説明する。

 持ってみると、スマホ程度の軽さ。装着してみると、透明なディスプレーに、ボディーカメラからの鮮明な映像が映し出された。少し遠くの位置で浮かび上がるので、違和感なく見ることができる。ボタンを押すとブラインドが自動で出てきて、より映像に集中できる。「これはすごい、まさに近未来っぽい」。新鮮な驚きを覚えた。

 今年4月の万博開幕から、日本館の警備を担当する同社の警備員全員が装着。従来の無線も駆使して、万全の装備で任務に取り組んだ。場内の巡回、不審者・不審物の早期発見など。現場の警備員は多岐にわたる業務をこなしてきたが、大規模イベントならではの忙しさがあったという。「万博では道案内、会場案内について来場者から聞かれることが多くありました。その際に、来場者の話を聞きながら、ディスプレーに映し出された情報を伝えることができ、効果的に対応できたと思っています」。

 単眼ディスプレーの形状は、やっぱりドラゴンボールの世界観を思い起こさせる。開幕直後からこの“万博スカウター”は反響を呼び、「どう見てもドラゴンボール」「おらワクワクすっぞぉ!」「世の中がドラゴンボールに追いついた・・・!」「警備員が付けてるスカウターが気になって仕方ないのだが…くっ…かっこよ……!!!」「さすが万博! 警備も未来形だ」「日本の警備、ガチで進化してた」など驚きが広がり、新聞やウェブニュースでも大きく取り上げられた。似せて作ったわけではないが、同社担当者は「社内でも『やっぱりそう見えるよね』と話題になりました」と笑顔を見せる。

 記念撮影のちょっとした“名物”にもなり、「とにかく想定外で、弊社警備員を撮影する来場者の方が増えていきました。(ドラゴンボールの内容になぞらえて)『私の戦闘力はいくつですか?』『戦闘力は測れますか?』と質問されることもあったと聞いています。来場者の方とコミュニケーションが増える中で、警備員側からの誘導・お願いに対してよりスムーズにご協力いただき、ありがたく思っています。注目されることで、警備員が自分を律することにもつながったと考えています。話題にしていただき、弊社YouTubeチャンネルは登録者も増加しました。ただ、残念ながら人間の戦闘力を測ることはできません(笑)」。思わぬバズりが、業務と安全の向上に結び付いた。

最新警備ツールを実際に着用してみた【写真:ENCOUNT編集部】
最新警備ツールを実際に着用してみた【写真:ENCOUNT編集部】

子どもたちに「警備の仕事に少しでも関心を持ってもらえれば」

 こんな裏話も。5月に万博のシンボル・大屋根リング周辺などで発生した“ユスリカ騒動”だ。「ユスリカ大量発生の時は、警備員にも群がってきて大変でした。警備員は人の誘導はできますが、虫の誘導はできませんので。本当に困りました」と振り返る。

 一方で、“万博スカウター”だけでなく、配備された自律移動型の警備ロボも反響を呼んだという。「監視カメラを備え、警戒に当たるロボットなのですが、子どもたちに非常に人気で、こちらにも驚いています。指令センターと現場をつなぐ『問い合わせボタン』がコールされて、子どもたちと何度もお話をする機会がありました。子どもたちがHMDや警備ロボに興味を持ったことで、万博・日本館での体験がいい思い出になってもらえればうれしいですし、警備の仕事に少しでも関心を持ってもらえればと思っています」。

 今回の万博警備について、同社担当者は「会期を通して来場者の安全を守ることができています。それに加え、思わぬところでしたが、HMDや警備ロボが人気を獲得できましたので100点満点です。万博自体、当初はいろいろあったとは思いますが、こうして振り返ってみれば成功だったと思います。我々としても注目してもらうことができてよかったです」と実感を込める。

 同社は開発当初から“日常業務に取り入れる”ことを念頭に置いてきた。歩いている時にヘッドセットがずれないようなフィッティング、ソフトウェアのカスタマイズなど、浮かび上がった課題を洗い出し、改良に着手している。11月からは現場に導入される予定だ。将来的には、ビルや商業施設、タワマンの防災センターに設置されている、火災時の発報信号などを受信する設備との連携ができるようにしていく考えだ。

 警備業界は深刻な人手不足に陥っている。ニーズの高まる災害対応など、社会課題に向き合うことも求められている。こうした中で、人の判断力を支えるテクノロジーの進化は待ったなしだ。大阪万博を通して見えてきた“未来の警備員像”。同社は「これまではすべてをマンパワーだけで乗り切ってきましたが、これからは『人と機械の融合』が重要になってくると考えています。人以上の機能を持つ最新技術を活用しながら、最終的に人が判断して、より確かな『安全』を実現していきます」と話している。

テイケイYouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/@Teikei_Official

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