「DASH島」生み出した敏腕演出家、日テレを退社したワケ 清水星人氏の新たな挑戦「ワクワクしています」
日本テレビで『天才!志村どうぶつ園』『ザ!鉄腕!DASH!!』など数々のバラエティー番組の総合演出を務めてきた清水星人氏が今年6月、同局を退社してフリーランスに転身した。新たな一歩を踏み出し、その動きに関心が集まる中、清水氏をインタビュー。退社の理由や番組作りの理念、テレビマンとしての歩み、そして今後の展望を聞いた。

清水星人氏がクリーク・アンド・リバー社と契約「より多様なコンテンツを作ってみたい」
日本テレビで『天才!志村どうぶつ園』『ザ!鉄腕!DASH!!』など数々のバラエティー番組の総合演出を務めてきた清水星人氏が今年6月、同局を退社してフリーランスに転身した。新たな一歩を踏み出し、その動きに関心が集まる中、清水氏をインタビュー。退社の理由や番組作りの理念、テレビマンとしての歩み、そして今後の展望を聞いた。(取材・文=猪俣創平)
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物腰の柔らかい姿勢と、丁寧な言葉遣いが印象的だ。いくつものヒット番組を手掛けた“偉才”が取材先に現れると、ふわっと明るい雰囲気に包まれた。
まず、日本テレビ退社の理由を尋ねると、「ものすごくシンプルに言えば『いろんなメディアで演出をやってみたかった』ということに尽きますね」と快活に語った。
現在、フリーランスとなった一方で、テレビ朝日系『帰れマンデー見っけ隊!!』やTBS系『坂上&指原のつぶれない店』、テレビ東京系『ソレダメ!~あなたの常識は非常識!?~』など各局のバラエティー番組の制作協力や配信、映画、企業映像を制作する株式会社クリーク・アンド・リバー社(以下、C&R社)と契約を結んだ。C&R社とは「テレビ各局の担当はじめいろいろなプロデューサーがそろっている組織ですので、仕事の幅も広がるだろうなと思いました」とタッグを組んだ理由を明かした。
続けて、「今はYouTubeも大きく成長してチャンネル数もたくさんありますし、企業が映像を作る機会もすごく増えています。いろいろなメディアによって作り方は変わってきますし、表現の仕方も変わってきますから、より多様なコンテンツを作ってみたいとワクワクしています」と意欲的に語った。
日本テレビ時代、前述した『天才!志村どうぶつ園』『ザ!鉄腕!DASH!!』だけでなく次々と番組を成功に導き、総合演出としての手腕には定評があっただけに、これからの多彩な道も注目される。もっとも、テレビマンとしては「王道タイプではない」と打ち明け、異色の経歴を持つ。大学卒業後、PR制作会社に入社するが、農薬メーカーに転職。再び退職してフリーランスとして働き、「ダイレクトメールのゴーストライターだとか、釣り雑誌のライターだとか……何でもやりました」。その後、NHK BSで放送されていたドキュメンタリー番組の制作アシスタントを経て、C&R社にエージェンシー(派遣)登録したことが転機となった。
「最初にテレビ朝日の朝の情報番組を紹介してくれて、特集コーナーをやりました。それが割とアウトドアネイチャーものだったんですよ。C&R社の僕の担当の方が『清水さん、自然ものができるんじゃないですか』と、TBSの『どうぶつ奇想天外!』での仕事につなげてくれました。動物番組が肌に合っていましたね。スタッフもいい方々でしたし、最後は1時間の枠演出まで任せていただけるようになりました」
そして、日本テレビの中途採用に応募して入社する。『伊東家の食卓』、『踊る!さんま御殿!!』『マネーの虎』などの番組にディレクターとして携わった。当初、すでに他局を経験していただけに日本テレビの“色”が新鮮に映ったようだ。
「ナレーションの“てにをは”まで、すごくこだわって番組作りをすることにびっくりしました。あとは、ものすごく視聴率を分析するなと思いましたね。でも、それは考えてみたらフリーランスの立場とテレビ局の社員の違いでもありますから、見え方が変わるのは当然なんですけどね」
その“色”に慣れると快進撃が続き、2015年には『24時間テレビ 愛は地球を救う』、20年にはコロナ禍での無観客8時間生放送となった『THE MUSIC DAY』と大型特番の総合演出も務めた。そんな清水氏の番組作りの根底にあるのが「テレビの前のお客様が喜ぶか」という視点だ。そこにはある思いがあった。
「20代の頃にPR制作会社や農薬会社に勤めていたので、常に“お客様”がいたんです。C&R社からテレビ局に行く時も、局のプロデューサーや演出の方が自分のお客様という意識が強くありました。日本テレビに入って自分の番組が始まったら、視聴者が自分のお客様になりましたね。ずっとお客様が何を考えているか、何を欲しているかを考えることがすごく自分の中にしみついていたので、視聴者が何を求めているだろうかという視点がまずありました。それに少し自分の経験や好奇心を掛け合わせる。演出になってもこの考え方は変わらず、今もそのやり方で企画を考えています」
実際、日本テレビ時代には、『天才!志村どうぶつ園』『幸せ!ボンビーガール』など、手掛けた番組の多くが動物や自然、女性のライフスタイルといった“時代の声”を反映するテーマを扱い、支持を得た。

C&R社で「清水星人クリエイティブルーム」設立
また、清水氏を語る上で外せない番組の一つが『ザ!鉄腕!DASH!!』(1998年~)だ。2011年から参画し、無人島を開拓していく企画「DASH島」を新たにスタートさせた。歴史のある人気番組ならではの難しさもあったとして、当時の“テコ入れ”を次のように振り返った。
「東日本大震災で福島県での『DASH村』企画ができなくなり、当時視聴率も厳しい状況でした。そこでまずスタッフに、“視聴者が番組を見てくれている理由はなんだと思うか”というアンケートを取りました。自分の中では視聴されている理由と番組の魅力の共通項を知りたかったんです。そのアンケート結果を見た時に、『これは“日本”だな』と思ったんですよ。日本の農業、技術、漁業、自然環境――。それで、『番組を見終わった時に、日本人に生まれて良かったと思える番組にしよう』というコンセプトを思いつきました」
ディレクターをはじめ、スタッフによる個々の新企画案をコンセプトと照らし合わせて、「“無人島に日本の伝統の技や食材を集め、小さな日本を作る”という設計で『DASH島』が形になっていきました」と、今も続く人気企画が誕生した。
今やテレビ界を代表する“顔”の一人に。清水氏のように、最近では、民放のバラエティー出身のディレクターや演出家、プロデューサーらが独立するケースも目立つ。そんなトレンドについて、清水氏は「あくまで想像ですけど」と断った上で、「僕と同じようにワクワクしているんじゃないですかね。いろいろなメディアがあって、その特徴ごとにコンテンツのカラーが違う中で、より多様なコンテンツを作りたくなる思いがあるんじゃないですかね」と可能性の広がりに注目した。
さらに、配信プラットフォームやYouTubeなどメディアも多様化している現状について、「クリエイターの方もたくさんいらっしゃいますけど、例えば配信の世界や企業ものの世界でも、活躍しているのは地上派出身のクリエイターが多いと思うんですよね」と分析し、次のようなテレビマンの強みが生きているという。
「一番のマス層に向けてモノを作ってきたクリエイターが一番強いなと思います。さらにテレビ局にいた僕らは、C(子ども)、T(ティーン)、F1(女性20~34歳)、F2(女性35~49歳)、F3(女性50~64歳)、F4(女性65歳以上)と常に番組のターゲット層を意識して作ってきているわけです。だから極端なことを言えば、『Cに絞って』とか『Tに絞って』とかになった瞬間にアジャストしていくことができるんですよね。だからテレビのクリエイターって強いと思っています」
現在、清水氏はC&R社でフリーランスのディレクターや、C&R社所属のクリエイターらと共に「清水星人クリエイティブルーム」を設立した。「自分の中で企画の種を貯めていっています。一線級の放送作家さんとお会いする時間も増えましたし、優秀なプロデューサーの方もいらっしゃるので、そういう方と一緒にディスカッションしながら、企画を考える脳がフル回転してる感覚ですね。近々新しい番組がスタートするはずです」と声を弾ませた。
敏腕演出家の新たな挑戦は、まだ始まったばかりだ。
□清水星人(しみず・ほしと) 1966年生まれ。早稲田大卒業後、PR制作会社、農薬メーカーを経てフリーランスのディレクターに。2000年に日本テレビ入社。自らの企画で『天才!志村どうぶつ園』、『幸せ!ボンビーガール』を立ち上げ。『おネエ★MANS』、『魔女たちの22時』、『ザ!鉄腕!DASH!!』、『24時間テレビ 愛は地球を救う』(15年)の総合演出を担当。20年の『THE MUSIC DAY』では総合演出としてコロナ禍で無観客8時間生放送を成功させ、歴代最高視聴率を更新。25年6月末をもって同局を退社。現在は株式会社クリーク・アンド・リバー社と連携し、テレビ・配信・企業映像など幅広い領域で演出・企画を行う。
猪俣創平
