「クズはクズ」 関東最大級ギャングの元ボス・田中雄士がBDに抱く違和感といま、“参戦”したワケ
関東最大級のギャング「KGB」の2代目リーダー・田中雄士が、格闘技エンターテインメント「BreakingDown17」に千葉代表の監督として参戦する。現在はヒップホップアーティストや実業家として活動し、YouTube番組『令和の虎』への出演でも知られる田中。だが、なぜこのタイミングで参戦を決断をしたのか――。その背景には、「BreakingDown」のみならず、日本の格闘技界で“当たり前”のように広がる「乱闘」文化への、複雑な思いがあった。

「BreakingDown17」に喧嘩自慢代表監督として登場
関東最大級のギャング「KGB」の2代目リーダー・田中雄士が、格闘技エンターテインメント「BreakingDown17」に千葉代表の監督として参戦する。現在はヒップホップアーティストや実業家として活動し、YouTube番組『令和の虎』への出演でも知られる田中。だが、なぜこのタイミングで参戦を決断をしたのか――。その背景には、「BreakingDown」のみならず、日本の格闘技界で“当たり前”のように広がる「乱闘」文化への、複雑な思いがあった。(取材・文=島田将斗)
1分間で最強を決める格闘技イベント「BreakingDown」。格闘家で実業家の朝倉未来が発起人となり、2021年の第1回からスピンオフを含めて27大会を実施してきた。出場者の中には、RIZINやRISEなどのプロ興行へステップアップする者もいる一方、試合前のオーディションでは流血騒ぎも起きるなど、賛否を呼ぶ場面も多い。エンターテインメントとして一定の評価を受ける一方で、「派手な言動をすれば誰でも有名になれる」という空気に、田中は疑問を抱いた。
「正直、そんな大したことのないやつが有名になるのって、どうなのかなと。『そんなやつを有名にしちゃっていいの?』って思うことはある。ちょっと変わったことをしてバズれば有名になっちゃう。それって気持ちいいものじゃないですよね」
特に、許容できないのが“乱闘”の常態化だという。
「オーディションで無理して暴れて乱闘を起こす。子どもたちにとってはすごく良くないと思います。真似をする子もいるだろうし、『大人でもこんな簡単にけんかするんだ』って思われたら、けんかのハードルが下がってしまう。やらせなのかは知らないけど、本当のけんかの怖さを知らないんだろうなって思いますね」
柔らかな口調で語っていた田中だったが、「けんか」の話題になると表情が変わり、語気も強まった。
「だって本当のけんかって、命のやり取りになる。道端でちょっと小突いた相手が刃物を持っていて、逆に刺されるかもしれない。こっちは端から引けなくて、最悪、殺してしまうことになるかもしれない。そういう想像力がないのかなと思います。たとえその場では大事にならなくても、遺恨が残って家を探されたり、大事になってしまう――現実にはある話で、そういう怖い世界を知らないから、けんかができるんだろうなって。俺は絶対に、軽々しくけんかしない」

明かした参戦の理由「ほんの少しでも世に良い影響を与えられたら」
これは「BreakingDown」に限った話ではない。他の格闘技イベントの会見でも“お約束”のように選手が暴れ、場が乱れる場面が見られる。もはや物騒な光景に視聴者が慣れてしまっているのが現実だ。そんな風潮に警鐘を鳴らす。
「乱闘って、それをするに足る“大義名分”と、それぞれの“正義”があるべきなんですよ。本来、そんな簡単に起きるもんじゃない。セキュリティーがいるから暴れても大丈夫、ルールがないから好きにやって、終わったら逃げる――そういうのって卑怯だと思う。本当の乱闘って、敵味方がはっきりしてて、もう戦争みたいな、ある意味で非常事態。それくらいの覚悟がなければ中々してはいけない危険な行為だと思う」
乱闘を演出する側にも不信感を隠さない。
「一緒にしてほしくないんですよ。喧嘩もしたことなさそうなスタッフが詳しくは言えませんが乱闘をあおってくる雰囲気があって『おまえ、おれに乱闘しろて言ってるの?』って。もめ事を軽く考えてるのかなって思いますね」
今回は監督という立場で参加した。だからこそ、選手の安全に対する責任も強く感じていた。
「何より『試合までにケガをさせたくない』って気持ちがありました。でも、当日もちろん乱闘が起きたんですが、ひな壇の選手やその場にいる進行や他の全員が乱闘をあおる中、俺は『お前ら運営や雰囲気に踊らされて、乱闘したりあおったり意味あるのか? おかしいと思わないのか? どうせ試合で戦うのによ』って言ったら相手の監督達も男気のある監督だったので、同じ意見で同意してくれて、その場は収まりました!」
BreakingDownにあえて参加した背景にあったのは強い危機感でもあった。
「BreakingDownの最近の風潮を“ぶっ壊したい”と思って参加しました。全国の喧嘩自慢とか、BreakingDownを目指してる若者たちが、このコンテンツを“現実”だと思ってしまってはいけない。いきがって乱闘するのも、すげぇカッコ悪いことだし、けんかって本当は命がけで、めちゃくちゃ危ないことだから」
若者や子どもたちへの悪影響にも懸念を示す。
「小さい子たちにまねしてほしくないし、大人でも“悪ぶって”すぐけんかする人は、もう一度考えてほしい。BreakingDownは現実のけんかとは違う。セキュリティーがたくさんいて、安全な場所でやってる。エンタメとしてやってるけど、それが癖になったら街中で取り返しのつかないことになる。カルマも背負うし、恨みも買う。そこはちゃんと理解したほうがいいと思います」
朝倉未来はこれまで「人の人生を良い方向に」という理念を掲げ、さまざまなキャラクターを発掘してきた。こめおのように知名度を得て、東京・麻布で割烹を開いた者もいれば、出場後に犯罪に手を染める者もいる。
「どうしようもないやつは、無理に有名にしなくていいんじゃない? クズはクズ。詐欺をやったりして捕まった人が、BreakingDownに出たらまともになるなんて甘い話じゃない。救えない犯罪ってある。過去に過ちを犯した人にチャンスを与えるのはいいけど、悪いやつを無駄に有名にするのは違うんじゃない」
そして、最後にこう語った。
「大人がいつも無駄に吠えたり、大声を出して、無駄に喧嘩するって子どもにとっても誰にとっても別にカッコいいことじゃない。見せ物になるだけ。俺はそれになる気はない。BreakingDownからRIZINに上がってスターになるのは素晴らしいこと。朝倉未来もすごいと思うし、コンテンツとしても素晴らしい。ただ自分が出ることでちょっとでも是正することができて、ほんの少しでも世に良い影響を与えられたら良いなと思います!」
乱闘がエンタメの一部として消費される今だからこそ、考えなければならない。安易に起こしていいことなのか、楽しんでいいのか。暴力の現実を知る田中の言葉の重みは決して無視できない。
