黒沢清監督がベネチア国際映画祭監督賞 快挙の理由と米アカデミー賞への影響を分析

蒼井優が主演、高橋一生が共演した映画「スパイの妻」(10月16日公開)の黒沢清監督が第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門 銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。日本人の監督賞受賞は第60回の「座頭市」(2003年)で受賞した北野武監督以来、17年ぶりの快挙で、溝口健二監督、熊井啓監督、北野監督に続き4人目となる。黒沢監督にとって最も大きな賞で、今後の映画公開や黒沢監督の活動にも弾みがつきそうだ。

黒沢清監督【写真:Getty Images】
黒沢清監督【写真:Getty Images】

17年ぶり史上4人目の快挙

 蒼井優が主演、高橋一生が共演した映画「スパイの妻」(10月16日公開)の黒沢清監督が第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門 銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。日本人の監督賞受賞は第60回の「座頭市」(2003年)で受賞した北野武監督以来、17年ぶりの快挙で、溝口健二監督、熊井啓監督、北野監督に続き4人目となる。黒沢監督にとって最も大きな賞で、今後の映画公開や黒沢監督の活動にも弾みがつきそうだ。

「スパイの妻」は太平洋戦争直前の1940年を舞台に、偶然にも中国での軍による非人道的な国家機密を知った貿易商の優作(高橋)が真相を明らかにする中、その夫を手助けしようとする妻・聡子(蒼井)の物語。日本全体が戦争に突き進む中、世界を見聞きし、コスモポリタン(世界主義者)の観点に立つ夫は非道な陰謀を許せず、その事実を明るみにするために行動し、妻も国家よりも夫を選択していく……。今年6月にNHK BS8Kで放送されたドラマを再編集した映画版となる。

 ベネチア国際映画祭は近年、米アカデミー賞の前哨戦としても注目を集めており、オスカー作品賞など4部門受賞の「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017年)、外国語映画賞など3部門の「ROMA/ローマ」(18年)、ホアキン・フェニックスの主演男優賞など2部門受賞の「ジョーカー」(19年)が最高賞の金獅子賞を受賞。今年も、映画祭ディレクターのアルバート・バルベーラ氏が「オスカー最有力作」と自信を見せたフランシス・マクドーマンド主演の「ノマドランド」(クロエ・ジャオ監督)が金獅子賞に輝いた。

 審査委員長を務めたのは「アビエーター」「ブルージャスミン」でオスカーを獲得した豪州出身の世界的女優ケイト・ブランシェット。18年にカンヌ国際映画祭コンペ部門の審査委員長を務めた際には、是枝裕和監督の「万引き家族」をパルム・ドールに選んでおり、日本映画にも高い関心を持っていたようだ。また、物語がスパイ活動に勤しむ男性ではなく、その妻にスポットを当て、戦時下、全体主義国家の中での個人主義を描くユニークさも大きかっただろう。

 黒沢監督作品はカンヌ、ベネチアに出品され、ヨーロッパを中心に高い評価を得てきたが、銀獅子賞(監督賞)受賞はこれまでの最高の栄誉。コロナ禍のため、映画祭には参加しなかった黒沢監督は授賞式でビデオメッセージを寄せ、「この年齢になってこんなに喜ばしいプレゼントをいただけるとは夢にも思っていなかった。長い間、映画を続けてきてよかった」と喜んだ。

 受賞は、日本での拡大公開はもちろん、ハリウッドも注目のベネチアでの受賞は世界公開に向けて、大きな弾みになる。「万引き家族」に続く「真実」ではカトリーヌ・ドヌーブを主演に起用した是枝裕和監督の例(ただし、パルム・ドール受賞前から製作は決まっていた)を見れば、黒沢監督がフランス・ベルギー・日本合作の「ダゲレオタイプの女」(16年)に続く海外進出第2作を撮ることもあるだろう。世界進出という意味では、隣の韓国から大きく水をあけられてしまった日本映画界だが、後進の映画人にも刺激となったはず。是枝監督のパルム・ドール受賞以来のビッグニュースとなった。

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(平辻哲也 / Tetsuya Hiratsuji)

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