スターダム渡辺桃、マリゴ青野未来が制したGPから見えてくるもの 思い出すK-1とPRIDEの関係性

プロレス団体「マリーゴールド」における年間最大の「DREAM STAR GP」(16人が参加)が14日、後楽園ホールで閉幕。栄冠は青野未来の頭上に輝いた。また、今年の夏も「スターダム」が恒例の「5☆STAR GP」(32人が参加)を開催し、こちらは先月23日に優勝者が決定。9年目の挑戦となった渡辺桃が初制覇を果たした。ここから見えてくるものを考える。

「DREAM STAR GP」を初制覇した青野未来
「DREAM STAR GP」を初制覇した青野未来

三沢光晴のジャンボ鶴田超えと蝶野正洋のG1優勝

 プロレス団体「マリーゴールド」における年間最大の「DREAM STAR GP」(16人が参加)が14日、後楽園ホールで閉幕。栄冠は青野未来の頭上に輝いた。また、今年の夏も「スターダム」が恒例の「5☆STAR GP」(32人が参加)を開催し、こちらは先月23日に優勝者が決定。9年目の挑戦となった渡辺桃が初制覇を果たした。ここから見えてくるものを考える。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 まさか「DREAM STAR GP」で青野未来が初優勝を果たすとは誰が予想しただろう。実力的にはあっておかしくない選手ではあるものの、これを予想した関係者やファンは決して多くないのではないか。

 実をいうと、STARDOMの「5☆STAR GP」で渡辺桃が初優勝を果たして以来、マリゴのGPでは誰が優勝するのかなと興味津々だった。

 大前提の話として、双方に何か直接的なつながりがあるとは思えないものの、こういうものは連鎖もしくは連動していく場合がある。相関関係がないようで、実はあったりするものだ。

 過去を紐解くと、1980年代にはプロレス界でライバル関係にあった新日本プロレスと全日本プロレスでは長らく年末恒例となるタッグリーグ戦が開催され、お互いに相乗効果を生み出していたことが思い出されるが、さらに象徴的な話は90年代になってからだった。

 1990年6月には、全日本で三沢光晴がジャンボ鶴田を破り、世代交代の第一歩を踏み出したが、その波を感じた新日本では翌年の夏に「G1クライマックス」を初開催。現場の中心軸にいた藤波辰爾や長州力ではなく、蝶野正洋の初優勝を産み、本格的な世代交代の流れを呼び込むことに成功した。

 当時の蝶野は、武藤敬司、橋本真也との闘魂三銃士のなかでは一番影が薄い存在だった。

 だからこそ、その蝶野が優勝することでのインパクトは絶大だったし、以降、30年以上経った今現在に至るまで「真夏の祭典」として定着している大ヒット企画になっている。

 また、似たような例を挙げると2000年代、最強打撃格闘技を掲げるK-1が、魔裟斗を中心に据えた70キロ以下の中量級の大会「K-1ワールドMAX」を開催すると、K-1と格闘技人気を二分していたPRIDEも、翌2003年から「PRIDE武士道」を開催。その後、やはり中軽量級を中心とした大会にシフトさせると、五味隆典やミノワマンというスターを誕生させた。

 そうやって、あちらがそうならこちらも、といった暗黙の流れやムードが感じられる、二大勢力のライバル関係が良い方向にエネルギーを発していた。

2025年、初めて「5☆STAR GP」の頂点に登り詰めた渡辺桃
2025年、初めて「5☆STAR GP」の頂点に登り詰めた渡辺桃

「新しい風景」と努力が実を結んだ瞬間

 ちなみに、バックステージに戻った青野は優勝できた理由を以下のように語っている。

「やっぱりこのマリーゴールドを愛する気持ちが一番だと思ってます。(昨年5月の)旗揚げから皆勤で出場し続けて、誰よりもこのリングに上っている。だから私はこのマリーゴールドに対する愛は誰よりも強いと自負しています。このマリーゴールドに対する愛をもっともっとでっかくして、10月26日の両国国技館で輝きたいと私は思っているので、まずはそこに向かってまたさらにマリーゴールド愛を強く強く、そして自分自身をもっと強くしていきたいと思います」

 一方、「5☆STAR GP」を初制覇した渡辺桃は優勝した直後、リング上から以下のようにコメントしている。

「9回目の出場でやっと優勝。応援してくれてるクソどもには長らく待たせたな。優勝ってこんなつれえんだな」

「この日本、そしてアメリカでもメキシコでもいいよ。全世界のベルトを持ってるヤツら、この渡辺桃が行くから覚悟して待っとけ。とにかく、しっかり聞けよ。今からが、この渡辺桃の時代だよ。オマエら、クソどもは、楽しみに待っとけ!」

 そもそも論として、正統派ベビーの青野と、H.A.T.E.というヒールユニットの渡辺桃では団体内における立場の違いがあるものの、同じ優勝者でも真正面からマリゴ愛を訴える青野と、観客を罵倒しながらも自身の心情を口にしていく渡辺の違いが面白い。

 さらに言えば、昨年は「5☆STAR GP」では舞華が、「DREAM STAR GP」では林下詩美が優勝したが、マリーゴールドが旗揚げ直後だったこともあってか、そこまでの比較対象論はなかった気がする。むしろ年商15億円を誇る業界大手のスターダム関係者からすれば、一緒にしてくれるな、とお叱りを受けてしまうかもしれない。
 
 それでも今年の「5☆STAR GP」の栄冠は上谷紗弥やSareeeではなく渡辺の頭上に輝き、「DREAM STAR GP」は林下や岩谷麻優ではなく青野が制覇したことで、双方ともそれまでに見られなかった「新しい風景」を現出させたことは事実。しかも渡辺の「9度目の挑戦」と青野の「旗揚げから皆勤で出場し続けた」という部分には、これまでの努力が実を結んだ、という側面にこれ以上ない共通性が感じられる。

 要は、両者が優勝したことは決して偶然ではないのだ。

 もちろん、マリーゴールドの誕生した経緯を考えると、現段階では交わることのない両者であっても、この両者がこの2025年の夏に開催された各々の団体における「真夏の祭典」の頂点に立ち、2025年夏の団体の顔として取り上げられるに至ったことには重要な意味がある。
 
 もはやそういう時代ではないのかもしれないが、それでもこの国の場合は新日本と全日本、K-1とPRIDEのような2つの大きな世界観が競い合いながら業界を大きくしてきた歴史だけは否定することはできない。

 今後両者の関係がそうなっていくのかは不明だが、いずれにせよそこに“時代の空気”が存在すれば、誰の思惑がどうであろうと、物事は自然とそうなっていく。

 だからこそ、この後の空気感がどうなっていくのか。その方向性を楽しみにしながら、まずは激闘を制した渡辺と青野に拍手を送りたい。

(一部敬称略)

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