自閉症の難役を好演、過去には役作りで体重激増 堀家一希のブレない軸「根本が絶対にある」

8月22日に公開された映画『蔵のある街』(平松恵美子監督)で存在感を放つ俳優がいる。27歳の堀家一希だ。同作では、自閉スペクトラム症の青年という難しい役どころを繊細に演じている。これまでにも難役を担うことが多かった堀家はどのように役と向き合っているのだろうか。転機の1年を迎えた堀家に今の思いを聞いた。

インタビューに応じた堀家一希【写真:藤岡雅樹】
インタビューに応じた堀家一希【写真:藤岡雅樹】

地元・岡山県が舞台の映画『蔵のある街』で存在感

 8月22日に公開された映画『蔵のある街』(平松恵美子監督)で存在感を放つ俳優がいる。27歳の堀家一希だ。同作では、自閉スペクトラム症の青年という難しい役どころを繊細に演じている。これまでにも難役を担うことが多かった堀家はどのように役と向き合っているのだろうか。転機の1年を迎えた堀家に今の思いを聞いた。(取材・文=中村彰洋)

『蔵のある街』は岡山県倉敷市が舞台。高校3年生の白神紅子(中島瑠菜)は、自閉症の兄・きょんくんこと恭介(堀家)、父(長尾卓磨)との3人暮らしという家庭の事情から美術大学進学の夢を諦めようとしている。そんな時に、幼なじみの蒼(山時聡真)が、騒ぎを起こしたきょんくんをなだめるため、「この街に打ち上げ花火を上げる」という無謀な約束をしてしまう。紅子は美しい町並みが残る“蔵のある街”で、家族や仲間との絆を深めながら、自分の未来と向き合っていくというストーリーだ。

 堀家が初主演を務めた映画『世界は僕らに気づかない』(2022年)を観た平松監督からのオファーで、今回の出演が決まった。自閉スペクトラム症という難しい役どころを用意されたが、役作りのためにさまざまな研究を重ねた。

「当事者の方の映像や映画『レインマン』(1988)などを見たり、図書館でさまざまな本を読みました。中でも自閉症の方が執筆された『自閉症の僕が跳びはねる理由』(著:東田直樹)は、実際に見えている景色や感じていること、当事者の方でないと分からない心情が描かれていて、とても参考になりました。同じ自閉症の方でもそれぞれに特徴があるので、『きょんくんはどういう人なんだろう』ということを意識するように心がけました」

 同作は地元・岡山県が舞台となり、撮影も同地で行われた。高橋大輔や前野朋哉、MEGUMIといった同県を代表するスターが出演者に名を連ねており、堀家もその一人となった。

「現地のボランティアの方々がスタッフとして手伝ってくださったのですが、飛び交う言葉が僕の聞きなじみのある方言ばかりで、うれしくて、本当に楽しい現場でした。岡山で撮影することはめったにないことなので、撮影中も『また映画で来ることはあるのかな』とかみしめながら撮影させていただきました」

 撮休の日も倉敷の街を散歩しながら「きょんくんだったらどう歩くんだろうな」とつねに考えていたという。

「冒頭できょんくんが駅名をたくさんつぶやくシーンがあるのですが、実は台本にはなかったセリフなんです。でも、自閉症の方の特徴として、覚えたことを言葉にするというものがあるので、『電車に乗るなら全部覚えよう』と思って、覚えて現場入りしたんです。そしたら監督も同じこと考えていて、『これ言ってもらおうとしてた』と言っていただけたんです」と印象的なシーンを明かす。

『蔵のある街』では自閉症のきょんくんを演じた【写真:藤岡雅樹】
『蔵のある街』では自閉症のきょんくんを演じた【写真:藤岡雅樹】

堀家が実感する俳優の魅力「とにかく何かを人に届けることがすごく好き」

 映画『東京リベンジャーズ』(21、23年)シリーズでは筋トレで体重を15キロ増量しての役作り、『世界は僕らに気づかない』では同性愛者と、これまでにも難しい役どころをこなしてきたが、演じるうえでの一貫した考え方があった。

「どんな役でも、“人は人”という根本が絶対にあると思っています。そういった意味で、いろんな方々の根本を探す作業が楽しいんです。LGBTの方も、結局は愛してほしい、認めてほしいという部分が根本にはあるんです。そういった部分を役作りの中で探っていくことにやりがいを感じます。『あ、こういうことだったのか』と発見する瞬間に楽しさを感じます」

 前事務所のオーディションに合格したのは16歳の時。そこから約10年間、俳優として駆け抜けてきた。歴を重ねれば重ねるほどに、演技の魅力にどっぷりと浸かっていった。

「お芝居をしていて、『相手とつながれた』という瞬間を経験するとやっていて良かったなと思います。監督や共演の方々から、『堀家君と一緒にお芝居できてよかった』と言われるとすごくうれしいです。『堀家君が出てるから見てみようと思った』と言っていただけることもあって、それもすごく励みになります。自分ができることは限られてはいますが、そうやって期待して見てくれる人がいるというのは役者冥利に尽きます。僕は、とにかく何かを人に届けることがすごく好きなんだと思います」

 今年は約10年間所属していたレプロエンタテインメントを離れ、新たな事務所に所属するなど、心機一転の1年となった。

「いろんな方に相談する中で、『自分がどういられるかを大切にしたほうがいいと思う』といったアドバイスをいただきました。僕も主体性を持って自分から動いていくということに挑戦してみたいと思うようになりました。いろんな人とつながっていくことが楽しいと思えたことも、新しい事務所に決めた一つの要因です。

 今は良い意味で自由度が増した感覚です。これからは本当に個人の戦いのようにもなりますが、そこで評価してくださるということは、本当に僕自身を評価してくれている人だと思うので、そういった人脈を少しでも増やすことができたらいいなと思っています」

今後の俳優としての展望を明かした【写真:藤岡雅樹】
今後の俳優としての展望を明かした【写真:藤岡雅樹】

日常の小さな行動を変えるだけでネガティブな性格にも変化が

 数年後には30歳という節目の年齢も控えている。今後のことを考える機会も増えてきたと明かす。「まだ30歳になりたくない」と子どものような笑顔を見せながらも、理想とする未来を口にする。

「最近の現場で、30~40代の先輩方がたくさんいらっしゃって、たくさんの刺激をもらいました。先輩たちの人間性や芝居との向き合い方などを間近で感じることのできる現場で、シンプルに『こういうかっこいい大人になりたい』と思いました」

 約10年間、俳優としての道をひたすらに歩き続けてきた。「これまでに、たくさん悩んだりもしました。『自分はこのまま終わっちゃうのかな』とか考えてしまったり、『転職するなら20代!』とかってCMを見たりするといろいろ考えちゃうんですよね」と笑いながらも、過去の葛藤を振り返る。

「『辞めようかな』と思っている時に限って、いつも誰かが連絡してくれるんです。僕は周りに恵まれていて、本当に運がいいんです。『もう少し続けろ』って言われてるみたいだなって思うんです。そんな風に信じながら、これまで続けることができています。今回、事務所を辞めたタイミングでも『堀家くんはどこにいても堀家くんだからね』と声をかけていただけたり、本当に人に助けられているなと思います」

 根本はネガティブな性格だと明かす堀家。過去には活躍する同年代の姿と比較して、落ち込むこともあったというが、今では少しずつ前向きな性格に変わってきたとも明かす。

「口癖を『ありがとう』にしてから少しずつ変わっていきました。例えばエレベーターに乗る時にボタンを押してもらった人に『すみません』ではなく『ありがとう』と声を掛けた方が言われた側もうれしいと思うんです。そういったことを意識してから、ちょっとだけポジティブになることができたと思っています」

 今後の目指すビジョンは「必要とされる役者になる」こと。「僕がいたからこの作品が成り立ったと思ってもらえるような役者になりたいです。それが主演であれば主演にも挑戦させていただきたいです」。

「恩返しの30代にしたいです」――。これまでに支えてくれた、そして応援してくれる人たちへ感謝を届けるためにも、これからも高みに向かって着実に歩みを進めていく。

□堀家一希(ほりけ・かずき)1997年11月21日、岡山県出身。2016年、日本テレビ系『ラストコップ』でドラマデビュー。以降、テレビ朝日系『BG~身辺警護人~』(18年)、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(24年)などに出演。23年に公開された映画『世界は僕らに気づかない』で初主演を務め、第37回高崎映画祭で「最優秀新進俳優賞」を受賞した。

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