怪獣と対談するVTuberの衝撃…東映の強み逆手に取る“特撮の素人”設定の舞台裏
特撮ヒーローを得意とする映画会社・東映が、バーチャルYouTuber(VTuber)に乗り出した。しかし、設定は特撮を知らないずぶの素人。群雄割拠のVTuber界において、“特撮勉強系”のキャラクター像を押し出す。そこに貫かれているのは、「仮面ライダー」シリーズの俳優陣に代表されるような“いい男を輩出する”という東映イズム。東映の強みを、あえて逆手に取るような手法が注目を集めている。
男性バーチャルアイドル「EIGHT OF TRIANGLE」(エイトラ)がVTuber進出 特撮「知らない」“禁じ手”…仰天企画連発
特撮ヒーローを得意とする映画会社・東映が、バーチャルYouTuber(VTuber)に乗り出した。しかし、設定は特撮を知らないずぶの素人。群雄割拠のVTuber界において、“特撮勉強系”のキャラクター像を押し出す。そこに貫かれているのは、「仮面ライダー」シリーズの俳優陣に代表されるような“いい男を輩出する”という東映イズム。東映の強みを、あえて逆手に取るような手法が注目を集めている。
VTuberは「EIGHT OF TRIANGLE」(エイトラ)。実は男性バーチャルアイドルとして活動しており、デビュー日は2015年10月8日(トーエイの日)、出発点はライブ・音楽活動だ。ボーカルのNeon/荒賀新音(22)とキーボードのKazuto/遠藤和斗(31)は、リアリティーを追求する「バーチャルの姿をまとったアーティスト」として展開。自分たちで作った楽曲をライブ会場で歌い、ラジオ番組でもしゃべる。ファンがアイマスクを付けて参加する握手会までやってしまう。気配を感じられるいわば“2.8次元”の存在が、VTuber界に進出したのだ。
エイトラの立ち上げを企画した東映の取締役で事業推進部長の吉元央さんは「それまで東映がやっていなかった音楽事業、逆に東映がこれまで培ってきたキャラクタービジネスのノウハウ、そして歴代のいい男を輩出できる強み。3つのキーワードをつなぎ合わせ、チャレンジをしようと考えた」と説明する。
“ごまかしがきかない”を逆転の発想で「学んでください」のコンセプト
ボーカロイド(音声合成ソフト)のバーチャルシンガー、初音ミクを筆頭とするバーチャル界では当時、男性のイメージはなかった。そこで「男性スター」を目指して生み出されたのが、エイトラだ。最新鋭のモーションキャプチャーシステムを活用することで、滑らかな全身の動きだけでなく、ジャンプやバック転もできる。眼球や口の動きといった表情にもリアルさを徹底している。そんな実際に触れることのできるバーチャルアイドルに用意された次なる舞台が、動画番組だった。
今年7月、VTuberデビューを果たしたのだ。NeonとKazutoが、東映所属なのに仮面ライダーやスーパー戦隊といった特撮を「全然知らない」という弱点を克服するため、勉強と努力を重ねていく。東映のアプリサービス「TTFC(東映特撮ファンクラブ)」と連動し、最終的にはTTFCアンバサダーを目指す内容だ。
この新たな動画配信の展開について、事業推進部の小松恵大さんは「彼らのプラットフォームを見つけようと考えた時に、東映の原点に立ち戻った。それに認知度を高めようにも、ただVTuberになったというだけでは見られなくなる。VTuberの世界だけではなく、特撮ファンにも見てもらう機会を作りたかった」と話す。
東映が持つ特撮ヒーローのコンテンツ力を生かし、さらにインターネットとの親和性の高さを最大限に活用する。しかし、実際の人間とほとんど変わらない存在として活動するエイトラの場合は、特撮の知識について何かを話す際にごまかしがきかない。これを逆手に取って、「知らないのであれば学んでください」という発想に行きついたという。
視聴者目線で東映作品をイジる…業界内“禁じ手”を導入
素人だからこそ、「この作品はなんでこんな結末なの?」などと、一般の視聴者目線で東映作品をイジることができる。業界内の“禁じ手”を取り入れているのも大きな特徴だ。
東映が誇る特撮ヒーローをさらに広めるという使命感を与えられたエイトラ。動画番組の内容は独創的だ。クイズで学ぶ企画だけでなく、スーパー戦隊親善大使を務める俳優の松本寛也さんにドッキリを仕掛けたり、東映作品に登場する怪獣ギャラスとまさかの“対談”。ディスプレイの中から会話をする2人と、ディスプレイの横で豪快に動き回る着ぐるみのギャラスの姿は、強烈なインパクトを放つ。
東映の未来の一翼を担うエイトラのVTuber活動。エイトラ自身が人気をさらに拡大できれば、ほかの東映作品とのコラボレーション企画など可能性が広がる。小松さんが「いつか特撮についてすらすらと話せるようになれば。地盤を固めるためにも、特撮好きの方々への認知度を高めたい」と強調すれば、吉元さんは「当初からのライブ活動も重視したい。アーティストとして定期的にお客さんにライブを観ていただくのも使命」としている。