石橋貴明の問題だけで特番『細かすぎて』放送せず…「視聴者ファーストで出直し」のフジが問われる姿勢【記者コラム】

フジテレビが8日、東京・台場の同社で10月期以降のコンテンツラインナップ発表会(旧改編記者発表会)を開催した。冒頭、コンテンツ投資戦略局長の藤井修氏が昨年12月末に判明した元タレント・中居正広氏と元女性アナウンサーのトラブルに端を発した問題をあらためて謝罪。コンテンツ起点の企業に生まれ変わり、視聴者ファーストを強く意識すると宣言した。一方で視聴者に人気で、演者に希望を抱かせた番組が、何の説明もなく、放送されなかったことに筆者は違和感を覚えた。

フジテレビ【写真:ENCOUNT編集部】
フジテレビ【写真:ENCOUNT編集部】

2023年から年2回特番も…今夏はサイレントで放送なし

 フジテレビが8日、東京・台場の同社で10月期以降のコンテンツラインナップ発表会(旧改編記者発表会)を開催した。冒頭、コンテンツ投資戦略局長の藤井修氏が昨年12月末に判明した元タレント・中居正広氏と元女性アナウンサーのトラブルに端を発した問題をあらためて謝罪。コンテンツ起点の企業に生まれ変わり、視聴者ファーストを強く意識すると宣言した。一方で視聴者に人気で、演者に希望を抱かせた番組が、何の説明もなく、放送されなかったことに筆者は違和感を覚えた。(取材・文=柳田通斉)

 藤井氏は一連の問題を謝罪後、今後について「よりよいコンテンツで社会に貢献していくことが最重要」とし、「コンテンツ起点の企業に生まれ変わるべき」と同社の方向性を示した。その上で「改編記者発表会」を「コンテンツラインナップ発表会」に改名したことについても、「コンテンツカンパニーにシフトしていきたいという思いからです。視聴者ファースト、生活者ファーストを強く意識していきたいと思います」などと説明した。

 現実はどうか。例えば、とんねるずの石橋貴明がメインの年2回特番『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』が、今夏に放送されなかった理由ついては、視聴者への説明は何もなかった。

 同番組は、2018年3月に終了した同局系『とんねるずのみなさんのおかげでした』のコーナーが基になり、同年12月から特番になった。22年までは「冬恒例」だったが、23年からは夏と冬の年2回で、24年12月7日にも放送された。しかし、一連の問題が大きくなり、石橋は今年4月16日、フジテレビ第三者委員会からヒアリングの要請があったことを認めた。そして、女性アナウンサーへのセクハラ報道について「詳細は覚えていない」としたものの、「不快な思いをさせてしまったことを、大変申し訳なく思っております」と謝罪した。

 また、その事態が判明する約2週間前の同3日には、石橋が自身のYouTubeチャンネルで、食道がんであることを公表し、当面の芸能活動を休止すると発表していた。

 これらの状況から「もう、『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』の放送は難しいのか」と想像した視聴者はいたとは思う。今回のコンテンツラインナップ発表会でも、私が「今夏に放送されなかった理由」を問うと、編成管理部長の赤池洋文氏が「石橋さまの病気のことに伴い、その他諸々のことも決定できておらず、総合的な判断で」などと説明した。

 想定内の回答だった。しかし、「成り立ちの背景があるとはいえ、この番組は石橋だけのものなのか」との疑問は残っていた。まず、同番組の「ネタ終了間際にステージが割れ、芸人が足元から落下して消えていく」という“オチ”は、画期的なシステムとして評価されてきた。ここでインパクトを残したことで、出演者のCM契約やドラマ出演が決まったケースも多くある。だからこそ、数多くのお笑いタレント、俳優、アマチュアが「世に出るチャンス」とし、番組出演を懸けたオーディションを受けてきた経緯がある。

 つまり、この番組は視聴者が楽しみにして、出演希望者たちが情熱を向けてきた「貴重なコンテンツ」だったのではないか。その位置付けも踏まえ、私は「石橋氏を抜きで今冬に放送する可能性は」と重ねて質問をした。そして、赤池氏は「現状では先の編成についてはお答えできませんが、我々としても人気のソフトだと認識していますので、実現に向けて可能性を探っていきたいと思います」と回答した。

 確かに石橋のイメージが強い番組ではあるが、「細かすぎて伝わらないモノマネ」を披露するのは、オーディションを突破した出演者たちだ。その芸に視聴者は喜び、感心してきた。私は同番組のスタジオ収録取材もしているが、この空気感を石橋自身も好み、収録後には「これからも頑張ってください」などと出演者に声をかけていた。

 石橋の今後、フジテレビとの関係については明確なことは分かっていない。だが、両者の事情だけで、視聴者や同番組に懸けてきた人々を置き去りにはしてほしくない。そして、フジテレビには「コンテンツ起点の企業」に生まれ変わった姿をここで見せてほしい。私は取材者として、視聴者としてそう願っている。

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