坂本美雨、映画『国宝』主題歌の作詞秘話…「締め切りは10日後」と言われ、主人公と向き合った日々
ミュージシャンの坂本美雨が、「TOKYO FM開局55周年記念『ディア・フレンズ30 th Anniversary LIVE』」を今月12日に開催する。TOKYO FM『坂本美雨のディア・フレンズ』(月曜~木曜午前11時30分)のMCを務め、30周年の『ディア・フレンズ』では歴代最長14年。多くのアーティストとトークを重ねてきた。その環境下で坂本は、大ヒット映画『国宝』(李相日監督)の主題歌『Luminance』(原摩利彦 feat. 井口理)の作詞を担当した。邦画実写作品では、『南極物語』(110億円)を超える歴代興行収入2位を記録した大作のエンディングを彩っている。坂本へのインタビュー「後編」では、主題歌作詞の制作秘話を聞いた。

30周年『ディア・フレンズ』、インタビュー企画「後編」
ミュージシャンの坂本美雨が、「TOKYO FM開局55周年記念『ディア・フレンズ30 th Anniversary LIVE』」を今月12日に開催する。TOKYO FM『坂本美雨のディア・フレンズ』(月曜~木曜午前11時30分)のMCを務め、30周年の『ディア・フレンズ』では歴代最長14年。多くのアーティストとトークを重ねてきた。その環境下で坂本は、大ヒット映画『国宝』(李相日監督)の主題歌『Luminance』(原摩利彦 feat. 井口理)の作詞を担当した。邦画実写作品では、『南極物語』(110億円)を超える歴代興行収入2位を記録した大作のエンディングを彩っている。坂本へのインタビュー「後編」では、主題歌作詞の制作秘話を聞いた。(取材・文=コティマム)
『国宝』は吉田修一氏の同名小説を原作とするヒューマンドラマ。任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げる主人公・立花喜久雄(吉沢亮)の50年にわたる生涯を描いている。そして、『Luminance』は「♪ああ ここは痛みも恐れもない 声も愛も記憶もかすれて」の歌詞から始まる。喝采や祝祭の音色に包まれる世界を描き、「そう 永遠にただ満ち足りて 今 喜びの果てまで」で締めくくられている。4分39秒。アンビエント色の強い浮遊感のある音色で、井口のハイトーンボイスにより一層ふわふわとした世界観が漂う。坂本は、同曲の歌詞制作について「締め切りまでが10日間だったんです」と明かした。
「『国宝』の音楽を担当された原摩利彦さんと、ここ数年常々ご一緒することが多く、『国宝』の音楽制作に取りかかられていることは聞いていました。映画も完成間近の段階で、最後の最後に『歌詞をお願いします』と言ってくださって。『約10日後が締め切りになります』と言われて、『ええっ!?』と思いながらも、『やります!』と即答しました。もう脚本などは読まず、完成間近の映像を見て、歌詞を書き始めました」
李監督とはZoomで打ち合わせし、何度も微調整を重ねたという。
「歌詞は映像を見てすぐに浮かんだのではなくて、考え抜きましたね。最後の1日でやっと形になったというか、10日間まるまる考えていた感じです。喜久雄の人生を彼の側にいた人のように考えていました。“好きな人のこと”を考えるぐらいずっと考えたというか、一緒に暮らしたかのような10日間でした」
任侠一門の出身で歌舞伎の名門家庭に引き取られ、サラブレットの大垣俊介/花井半弥(横浜流星)と切磋琢磨しながら芸の道に進む喜久雄は、絶頂期も低迷期も経験しながら舞台を続けていく。

「まだ上に行きたい」と思う気持ちに共感
「喜久雄と俊介の姿が描かれますが、主人公は喜久雄。なので喜久雄のことを考えて、最後に『喜久雄を包み込むような歌になったらいいな』と思って作りました。喜久雄に幸せになってほしかったんですよね。映画ではその後どうなるかは語られません。原作ともちょっと違います。でも、あの時点では彼が芸術の神様に本当に祝福されて守られて、“あるところ”に到達する。そういう状態を描きたいと思いました」
自身は16歳の時に、父で音楽家の故坂本龍一さんが手掛けたシングル『The Other Side of Love』で、Sister Mとしてデビュー。歌手、表現者として10代から芸能の道に携わってきた。それゆえに、喜久雄に共感する部分もあるという。
「やっぱり、コンサートやライブなどで歌を歌っていると、それは自分だけど自分じゃないというか。ステージの上では、何か“大きなもの”とつながるような瞬間というか、“至福の瞬間”があるんです。それを感じたくて歌っているような感じがします。喜久雄がどんなにテクニックを磨いても、『まだ上に行きたい』と思うような何か“到達したいところ”があるところは、とても共通するものがあったと思います。演技も歌も生身の芸術なので」
文字通り、喜久雄に心を通わせて詞を紡いだ『Luminance』。アーティストとして共感した心や思いが楽曲に溶け込んでいる。
□坂本美雨(さかもと・みう) 1980年5月1日、東京都生まれ。父は音楽家の坂本龍一、母はシンガー・ソングライターの矢野顕子。90年、9歳の時に米ニューヨークに移住。97年、16歳でSister Mとして歌手デビュー。98年11月からは、本名の坂本美雨で活動し、『aquascape』をワーナーミュージック・ジャパンからリリース。2011年にTOKYO FM『ディア・フレンズ』の6代目パーソナリティーに就任し、今年で14年の歴代最長MC。
