原田芳雄の孫と呼ばれても…自ら選んだ俳優の道「祖父の記憶はない」 800人の中から射止めた主演の座
俳優の原田琥之佑が、『海辺へ行く道』(横浜聡子監督、8月29日から公開中)で映画初主演を果たした。祖父は日本映画界を代表する名優・原田芳雄。2022年に『サバカンSABAKAN』(金沢知樹監督)で映画デビューし、「おおさかシネマフェスティバル2023」新人男優賞を受賞した15歳が新たな一歩を踏み出す。

公開中の『海辺へ行く道』で映画初主演、祖父については「特別に意識してきたわけではない」
俳優の原田琥之佑が、『海辺へ行く道』(横浜聡子監督、8月29日から公開中)で映画初主演を果たした。祖父は日本映画界を代表する名優・原田芳雄。2022年に『サバカンSABAKAN』(金沢知樹監督)で映画デビューし、「おおさかシネマフェスティバル2023」新人男優賞を受賞した15歳が新たな一歩を踏み出す。(取材・文=平辻哲也)
小学6年生の時、知人に勧められて『サバカンSABAKAN』のオーディションを受けた。当初は初めての撮影に不安な気持ちが強く、撮影前日まで泣いていたという。しかし、長崎を舞台にした少年たちのひと夏の物語で、主人公の親友・久田を演じた現場で「意外と楽しいぞ」と心境が一変。「これだ」と感じた。撮影後はあえて1年間活動を休止し、それでもやりたいと思えたら続けると決め、再び俳優の道を選んだ。
祖父・原田芳雄については「“原田芳雄さんのお孫さん”とは毎回言われますが、僕自身は記憶が一切ないので『そうなんだ』『そうですかね』としか思えません。孫であることは間違いありませんが、特別に意識してきたわけではないです」と淡々と話す。とはいえ、偶然祖父の出演作を目にし、「あれ? 出てる!」と驚くこともあるという。「作品情報を知らずに観ていて急に出てくると、本当にびっくりします」と笑った。
『海辺へ行く道』は、第75回ベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus部門でスペシャルメンション(特別表彰)を受けたのも記憶に新しい。アーティスト移住支援をうたう海辺の町を舞台に、アートに夢中の子どもたちと、少しクセのある大人たちの姿を描く。
原田が演じるのは、14歳の美術部員・奏介。夏休みも演劇部や新聞部の手伝いで忙しい中、町に暮らす“アーティスト”たちから次々と不思議な依頼が舞い込む。監督は『俳優 亀岡拓次』『いとみち』の横浜聡子で、原作は漫画家・三好銀の同名シリーズ。
奏介役は約800人が参加したオーディションで勝ち取った。「5~6人ずつ集められて演じ、最後は何十人かで行いました。結果は終了1時間後に届いて、友達と遊んでいる時に“えっ、本当に?”と時が止まりました。嬉しかったけど、その場では言えなかったので、気持ちを胸にしまって遊び続けました」と振り返る。

ギターを始め「多い日は6時間以上弾いていました」
ベルリン国際映画祭での上映では「思った以上に細かい質問が多くて驚きました。シーンごとに具体的な感想をもらって、“こんなに観てくれているんだ”と嬉しかったです」と話す。スペシャルメンションの知らせは、日本に帰国後の朝、寝ていたところに電話で届いた。「“なんで?”と固まってしまって、だんだん“マジか”と実感が湧いてきました。寝起きでいきなりすごいことを言われて、本当にびっくりしました」と笑った。
撮影現場は「すごく温かくて明るい雰囲気」。オフの時間には共演者と自転車でショッピングモールや温泉、ゲームセンターに出かけることも多かった。横浜監督からは「声をワントーン上げて」「もっと自由に、アドリブを入れていい」と指示され、「思い切ってやれました。特に、美術部の先輩・梨本テルオ(蒼井旬)のアトリエ“テルオの工房”での場面はアドリブの応酬が印象的でした」と語る。
完成した作品を観て「台本を読んだ段階では“これ本当に映像化できるのかな”と思っていました。しかし、監督の世界観と原作の世界観がうまくマッチしていて、すごくきれいな映像になっていました。撮影から1年経っていたので、今ならもっとできるのにと思った部分もあり、当時は全力でしたが、今見ると恥ずかしいというか悔いが残るところもあります」と率直に話す。
現在は高校に進学し、「去年の8月からギターを始めて、多い日は6時間以上弾いていました。指は痛いけれど、好きな気持ちが勝ちます」と笑う。バンド活動はしていないが、「ギターを弾きながら、絵を描きながら、俳優もやって……なんでもやりたい」と未来を描く。初めての撮影で味わった戸惑いから芝居の楽しさを知り、自ら選んだ道を歩み続ける15歳は、初主演作で確かな存在感を放った。
□原田琥之佑(はらだ・こうのすけ)2010年2月2日生まれ、東京都出身。22年の『サバカンSABAKAN』で映画デビューし、おおさかシネマフェスティバル2023新人男優賞を受賞。『軍港の子~よこすかクリーニング1946~』(23年/NHK)、『天狗の台所 Season2』(24年/BS-TBS)、短編映画『NEO PORTRAITS』(23年/GAZEBO監督)、『ルート29』(24年/森井勇佑監督)などに出演。映画『平場の月』(11月21日公開)をはじめ、26年以降の公開作品も多数控える。
