英劇作家フィリップ・リドリーによる舞台『ザ・ポルターガイスト』（上演台本・演出＝村井雄、9月14～21日まで東京・下北沢・本多劇場にて）で1人11役の一人芝居に挑む俳優の村井良大（37）。2007年に連続ドラマ『風魔の小次郎』でドラマ初主演。ミュージカル『RENT』の主人公・マーク役などこれまで多くの作品に出演し、来年にはキャリア20年。そんな村井が、これまでのキャリアや転機について語った。（取材・文＝平辻哲也）

　俳優を志したのは高校時代。ある日、自転車で校門をくぐった瞬間に「俳優になろう」と直感的に思ったのがすべての始まりだったという。「誰かに憧れてではなく、『俳優って楽しそうだな』という気持ちが原動力でした」と振り返る。自身については「好き嫌いが激しく、キャパシティは広くない俳優です」と自己分析しながらも、「嫌いなものには必ず理由を持つようにしている。それが自分の良さでもある」と語った。

　憧れの俳優として真っ先に名前を挙げたのは香川照之だ。映画『ゆれる』を見て衝撃を受けたといい、「あの湿り気のある空気感や、予測不可能な魅力に惹かれました。役者人生をとことん楽しみ、自分に素直に向き合っている姿がすばらしい」と熱を込める。「まだ共演経験はありませんが、いつか必ずご一緒したい」と目を輝かせた。

　自身にとって大きなターニングポイントとなったのが、2009年の『仮面ライダーディケイド』で演じた小野寺ユウスケ＝仮面ライダークウガ役だ。

「一生残るルーツ。子どもができたら自慢できる作品です」と力を込める。「1年間にわたる撮影はNHKの朝ドラや大河ドラマに匹敵する経験だったと思います。チームの阿吽の呼吸を学べました」と振り返る。最終回が「続きは劇場で」となり、物議を醸した。「僕らにとっては“最終回じゃなかった”。最後まで祭りのような現場で、ずっと何が起こるのか分からないワクワクがありました」と笑顔を見せた。

　キャリアを重ねる中で「辞めたい」と思ったこともあった。「社長に『限界かもしれない』と相談したんです」と打ち明ける。

　しかし、今回挑む『ザ・ポルターガイスト』のテーマが若き芸術家の“リスタート”の物語であることが、再び彼を前に進ませた。「これは自分にとって大きな財産。覚悟を持てたと思います」と語気を強めた。

　自身の限界についても隠さずに語る。

「僕は器用ではなく、不器用。器用そうに見えるだけで、実際は限界を感じていました」と吐露する。10年間ミュージカルに携わりながらも「根本は理解できていなかった」と明かすが、それでも「お芝居が一番好き。離れたら後悔する」と原点に立ち返った。

　私生活では昨年12月に結婚したが「覚悟が変わったというより『稼がなきゃ』という焦りの方が強かった」と正直に語る。その一方で「結果的に自分を見つめ直す時間になった。役に呼び寄せられた感覚があります」と言い、『ザ・ポルターガイスト』との出会いを運命的と感じている。

『風魔の小次郎』で主演デビューし、人生が変わったと語る村井だが、「今は間違いなくこの作品」と断言する。「リアルな芝居が好きなんです。『ザ・ポルターガイスト』は、自分探しの旅のような時間。これまでのキャリアの総決算になる」と表情を引き締めた。

□村井良大（むらい・りょうた）1988年6月29日、東京都出身。2007年、連続ドラマ『風魔の小次郎』で主演デビュー。近年は、『RENT』『デスノート』『ファースト・デート』『生きる』『この世界の片隅に』『手紙 2025』といったミュージカルや、こまつ座『きらめく星座』、朗読劇『鳥ト踊る』、『白衛軍 The White Guard』などの舞台のほか、ドラマ『教場』『教場II』（CX）、『邪神の天秤 公安分析班』（WOWOW）、『インビジブル』（TBS）、『あなたは私におとされたい』（MBS）、『御社の乱れ正します！』（BS-TBS）、『あおぞらビール』（NHK）、映画『パティシエさんとお嬢さん』『中洲のこども』などに出演。来年1月からは、舞台『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』に出演。