岡本玲、高校時代の観劇で社長に直訴も 揺るぎない覚悟と舞台への思い「お芝居がないと生きていけない」
ティーン向けのファッション誌『nicola』の専属モデルとして芸能界入りした俳優の岡本玲(34)が、今では舞台俳優としても顕著な活躍を見せる。近年、翻訳劇に続けて出演したほか、10月11日に東京・IMM THEATERで開幕の舞台『狂人なおもて往生をとぐ ~昔、僕達は愛した~』(稲葉賀恵演出、18日まで)では娼婦役に挑む。半世紀前に書き下ろされた、この戯曲のやりがいや、“演劇愛”について思いを語った。

清水邦夫原作『狂人なおもて往生をとぐ ~昔、僕達は愛した~』に出演
ティーン向けのファッション誌『nicola』の専属モデルとして芸能界入りした俳優の岡本玲(34)が、今では舞台俳優としても顕著な活躍を見せる。近年、翻訳劇に続けて出演したほか、10月11日に東京・IMM THEATERで開幕の舞台『狂人なおもて往生をとぐ ~昔、僕達は愛した~』(稲葉賀恵演出、18日まで)では娼婦役に挑む。半世紀前に書き下ろされた、この戯曲のやりがいや、“演劇愛”について思いを語った。(取材・文=大宮高史)
『狂人なおもて往生をとぐ』は数多くの戯曲を残し、戦後の演劇界をけん引した劇作家・清水邦夫さん(2021年死去)が1969年に書き下ろした。俳優の木村達成が娼家の女主人のヒモで主人公・出を演じ、岡本は若い娼婦役に扮(ふん)する。
舞台はとある娼家。女主人・はな(伊勢志摩)、客である初老の男・善一郎(堀部圭亮)、はなのヒモの青年・出(木村達成)、娼婦・愛子(岡本)や彼女の客の敬二(酒井大成)ら5人は、“家族ゲーム”を始めるものの、思わぬ因縁に気づき……という展開。1969年に俳優座劇場で初演以来、繰り返し上演されてきた。
岡本は、この話が来た時「もう飛びつきました」と歓喜した当時を振り返る。
「個人的にここ数年翻訳劇が続いていまして、また日本発の戯曲をやってみたいなと思っていたタイミングでした。しかも、大好きな稲葉さんと清水邦夫さんの戯曲ができると聞いて、興奮していました」
作品では、主人公の青年を取り巻く複雑な人間関係が描かれる。その表現にも注目されるが、岡本自身、やりがいを感じている。
「家族の話でありながらミステリー要素もあります。最後までどう展開していくのか予想ができないまま、考えさせられるというか、読み手に突きつけられたものも多くて、これに役者として挑めるのも幸せです」
演じる愛子の人物像にも、イメージを構築している様子だ。
「愛子は抑圧されている女性だな、と思いました。振る舞いはひょうひょうと自由に見えるのですが、実は自分の欲求に抑圧されていて、結末に向けてどう本音を見せていくか。そこに私らしさといいますか、自分の30年間の生き様も投影してみたいですし、それを稲葉さんとともに練れたらなと思っています」
その稲葉氏の演出への期待も大きい。
「稲葉さんはすごく言葉に繊細に反応されて、丁寧に舞台を作ってくださる方です。一昨年演出された『季節はずれの雪』も拝見しました。上質な会話劇で、美術や衣装の質感もすてきでした。そして清水さんの戯曲も、50年以上前の作品なのに、血がたぎるような言葉で書かれていて、人間の根源的な欲求を描いているんです。生きるのって楽ではなくて、色で例えればどす黒い色もあれば淡い色もあったりと、カラフルなのが人生です。そんな人間模様が、稲葉さんの緻密な演出でどうなるのか、楽しみです」

「真面目って、つまらない」と悩んだ時期も
取材中、今作に限らず、舞台の話題になるとマシンガントークを繰り広げ、“演劇愛”を熱く感じる。その原体験は、劇場での思い出にあった。
「高校生の頃に見た、ある舞台で、すごくハッピーなシーンだったのに、涙が止まらなくなったことがありました。俳優さんが演じているのに、まさにそのキャラクターが生きているように見えたんです。まるでその場に“命”が存在していたような感覚にとらわれて、自分の身体の中に溜まっていた情熱まであふれ出ました。『演劇ってなんてすてきなんだろう』と思って、もう抜け出せないなと思った経験です。今でも気になった作品はなるべく劇場で見るようにしています」
すでにファッション誌でのモデル業やドラマで活躍していた時期だが、その衝動を抑えられずに直接行動に移したこともある。
「当時、事務所の社長に『劇場でお芝居する、舞台女優になりたいです』って直訴したこともありました。すぐには舞台に出られなくても、情熱だけは持っていました」
その後、日本大芸術学部に進学し映画や演劇を学んだのも、この情熱ゆえの選択だった。
「10代の頃は、胸を張って『女優です』って言えるキャリアもスキルもありませんでした。進学は、お芝居の世界で生きていくんだ、という覚悟を自分自身にも周りにも示す決断だったと思います。それに劇団ではなく進学を選んだのは、小学6年生から芸能のお仕事で好きなことをさせてもらったので、両親の『大学に進んでほしい』という気持ちにも応えたかったからです」
自身の性格を「文科系タイプで、言葉を口に出す前に頭の中で繰り返したり、分析が好きだったりします。真面目すぎるほどです」と明かすが、それゆえにこの業界での生きづらさを感じたこともあったようだ。
「芸能界ってちょっと現実離れしていますし、一芸に秀でていることを求められる世界なので、『真面目って、つまらない』という固定概念に自分が縛られた時期がありました。青春時代はコンプレックスでもありましたが、真面目さを捨てようとは思いませんでした。やっぱりどんな職業でも、真摯(しんし)でいることって大事ですし、真面目さは自分の長所だなと思えるようになりました」
2014年春に日本大を卒業後は映像も舞台にも順調に出演を続け、実力でチャンスをつかんでいく。
「アカデミックな作品や翻訳劇に呼んでいただくことも増えました。やはり、真面目にお芝居に向き合ってきた部分を評価してもらえているのかなと思います」
昨年から今年にかけては、ニール・サイモン原作の『Come Blow Your Horn~ボクの独立宣言~』、ガルシア・ロルカ原作『血の婚礼』など翻訳劇への出演が続いた。そして今回、半世紀前に日本語で書かれた物語を前に、改めてフレッシュな気持ちで臨もうとしている。
「たくさんの作品に触れて、日本語って面白いなと思います。オノマトペ(擬音語・擬態語の総称)がかわいいのに、意地悪な表現があったり、アンバランスで、わからない要素もあって……。そこが魅力的であり、この作品で私と清水さんの感覚をぶつけ合うことができるのも、ありがたいです」
最後に、彼女にとって演劇とは何か、と尋ねると、迷いなく答えた。
「私にとっては、生命維持に不可欠なものです。お芝居を通して人間を知って、感情を知って、人は誰かと共に生きてるんだってことも実感します。生き方を教えてくれますし、親友みたいな存在です。お芝居(演劇)がないと、私はきっと生きていけない。それは胸を張って言えます」
□岡本玲(おかもと・れい)1991年6月18日生まれ、和歌山県出身。2003年に『nicola』の専属モデルオーディションでグランプリを獲得し芸能界入り。初のドラマ出演は07年のテレビ朝日系『生徒諸君!』。その後は幅広く活動。主な出演作は、テレビドラマは、NHK連続テレビ小説『純と愛』(12)、TOKYO MX『その結婚、正気ですか?』(23年)など。25年は舞台『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY / レイジ RAGE』、『みんな鳥になって』などにも出演した。
ヘアメイク:谷口ユリエ
スタイリスト:藤谷香子
