【電波生活】日村勇紀の“人柄”にじむ『ひむバス!』舞台裏 乗客に応えるおもてなし…番組Pも感服「出会う人ファースト」

お笑いコンビ・バナナマンの日村勇紀がバスの運転手を務め、さまざまな思いを持つ全国各地の一般人の出演者(以降乗客)と触れ合い、その思いも乗せて送迎し、視聴者には感動を送り届けるNHK『ひむバス!』(木曜午後8時15分)。金婚式の祖父母をお祝いしてあげたいという孫の依頼に応えるなど、ある時は乗客の夢や願いを応援し、ある時は日本の意外な姿を発見できるドキュメンタリー的な面も持つ。そもそもなぜバスなのか、番組誕生の経緯や乗客と触れ合う日村やスタッフの舞台裏も気になる。番組プロデューサーの甲斐洋威氏を取材するといろんな心配りの積み重ねが土台にあった。

『ひむバス!』に出演する日村勇紀(左)と森田茉里恵アナ【写真:(C)NHK】
『ひむバス!』に出演する日村勇紀(左)と森田茉里恵アナ【写真:(C)NHK】

番組誕生きっかけは「中型自動車免許取得」のネットニュース

 お笑いコンビ・バナナマンの日村勇紀がバスの運転手を務め、さまざまな思いを持つ全国各地の一般人の出演者(以降乗客)と触れ合い、その思いも乗せて送迎し、視聴者には感動を送り届けるNHK『ひむバス!』(木曜午後8時15分)。金婚式の祖父母をお祝いしてあげたいという孫の依頼に応えるなど、ある時は乗客の夢や願いを応援し、ある時は日本の意外な姿を発見できるドキュメンタリー的な面も持つ。そもそもなぜバスなのか、番組誕生の経緯や乗客と触れ合う日村やスタッフの舞台裏も気になる。番組プロデューサーの甲斐洋威氏を取材するといろんな心配りの積み重ねが土台にあった。(取材・文=中野由喜)

 まずは番組誕生の背景を聞いた。すると意外な経緯が……。

「日村さんが中型自動車免許を取得したことがネットニュースで話題になり、それを知ったディレクターから、日村さんがバスを運転して全国を旅するような番組ができないかという相談があったんです」

 まさか日村ありきのスタートだったのか。

「タレントさんが車を運転する番組はあっても、バスを運転するケースは見たことがありません。世の中に旅番組はたくさんありますが、バスを運転して旅する企画は新しいのではという思いがまずありました。バスを使うメリットは大勢の人を運べること。これまでにない『送迎バラエティー』というコンセプトで、送迎する全国の方々と触れ合い、その土地の魅力を発見する番組を作れたらと考えました」

 ここで日村の舞台裏の素顔も聞いてみた。

「ディレクターは、ロケ現場でスケジュールや事前に想定した流れなど番組の都合を優先して考えてしまいがちです。事前の打ち合わせを綿密にしているため予定から外れてしまうと、台本通りに戻そうと焦ってしまいます。そんな時に、よく日村さんから『そこはありのままでいいじゃない』というご意見をいただくことがあります。たとえば時間がなくて、次の撮影場所に行きたい時に、乗客の方から『日村さんにわが家のお宝を見てほしい』と予定にないことをお願いされても、日村さんは『ちゃんと応えようよ』と言って見に行くなど、出会った方々の気持ちを最優先にロケに臨んでいます。予定通り進まなかったり、ハプニングが起きた時には、日村さんの“出会う人ファースト”対応のおかげで、逆に思いがけないとても面白いシーンが撮れたりします」

 放送では分からない日村の舞台裏の出演者ファーストはまだある。

「走行中の日村さんは前を向いて運転しているため、乗客のみなさんと向き合って話すことができません。そこで、バスで出発する前に日村さんが乗降口のステップに立ち、バス停で出会ったばかりの乗客のみなさんの緊張を和らげようといつも10分ほど楽しいトークをしてくださいます。カメラが回る前に一般の方をいかにリラックスさせるかをすごく大事されています」

『ひむバス!』に出演する日村勇紀【写真:(C)NHK】
『ひむバス!』に出演する日村勇紀【写真:(C)NHK】

指導員が帯同する長時間バス運転「いつも感心しています」

 29人乗りの中型バス。運転技術はどうだろう。

「ロケの際に自動車教習所の指導員の方に帯同してもらっていますが、日村さんの運転技術については、いつも感心しています。日村さんはプライベートでも運転するのが好きで長時間でも苦にせず楽しく運転してくださっています」

 日村は放送では台本の内容を知らないようにも見えるが実際はどうなのか。

「ロケの冒頭、日村さんはバスの行き先しか知りません。乗客のみなさんと出会い、初めて送迎依頼の内容を知ります。視聴者の皆さんと同じように、その場、その場で発見していく形にしています。番組開始当初は事前の打ち合わせをしていましたが、今は全く内容を知らない状態でロケに臨んでいます。日村さんには新鮮な気持ちで楽しんでいただきながら、素のリアクションが撮影することができています」

 世に旅番組はあまたある。旅先や内容がかぶる心配はないのだろうか。

「この番組は、旅バラエティーですが必ずしも観光地に行くわけではありません。たとえばバス路線が廃線になって困っているお年寄りが暮らしている団地を訪ねたことがあります。バスが無くなり人との交流が減る中、近所の人たちと花見がしたいという依頼に応えました。バスの車内で弾む楽しい会話や知り合いとの再会に涙する出演者の姿に、日村さんはこんなに喜んでくれるんだと感激していました。このように『送迎』を必要としている人たちのドラマは、全国にまだまだたくさんあると思っています。もちろん旅する場所も大事ですが、乗客のみなさんに出会うことで地域の魅力を発見したり、知られざる日本の今を描いていきたいと思っています」

 ここで放送では分からない制作陣の奮闘を聞いてみた。すると驚きの体制が……。

「とにかく安全対策を第一に準備しています。バスを運転するという演出はリスクも伴います。まず、ディレクターが事前取材でルートをリサーチします。ロケの前日には、撮影スタッフと帯同する自動車教習所の指導員も一緒にすべてのルートを確認して回り、より安全なルートを選びます。道幅や勾配、急カーブなどはもちろん、どんな標識があって、どんな交通ルールを守らなければといけないかを徹底的に調べています。ロケ中も、運転する日村さんは安全最優先で、車内ではバスガイド役のアナウンサーが乗客との会話を進めています。道が狭くて運転に集中したい場合などには、日村さんが『今しゃべっている余裕がないのでお願い』ということもよくあります」

 安全対策はまだまだある。

「制作スタッフの中には、日村さんと同じように運転手目線で現場のリスクを考えられるように自ら中型自動車免許を取ったメンバーもいます。この番組を開発する際には、安全対策に半年かけて準備しました。番組にご出演いただく乗客のみなさんの命を預かるわけですから、番組制作において交通安全を何よりも優先に進めています」

 番組の舞台裏には日村やスタッフの“人を大切に思う気持ち”があった。そんな思いが根っこにあるからこそ視聴者を感動させ、温かい気持ちにさせる番組が生まれるのだろう。

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