PPAPから10年、ピコ太郎が大切にする爆笑問題・田中の言葉「稼ごうと思った瞬間につまらなくなる」
ピコ太郎が新たな挑戦に踏み出した。世界的ヒット曲『PPAP』からまもなく10年。今度は“80.8曲”という前代未聞のリリース企画「Tottemo Release 80.8」を始動させた。なぜ80曲でも100曲でもなく“80.8曲”なのか。そこにはピコ太郎らしい独特の発想と哲学、テクノロジーへの興味があった。

前代未聞のリリース企画「Tottemo Release 80.8」始動
ピコ太郎が新たな挑戦に踏み出した。世界的ヒット曲『PPAP』からまもなく10年。今度は“80.8曲”という前代未聞のリリース企画「Tottemo Release 80.8」を始動させた。なぜ80曲でも100曲でもなく“80.8曲”なのか。そこにはピコ太郎らしい独特の発想と哲学、テクノロジーへの興味があった。(取材・文=平辻哲也)
「(PPAPを作るきっかけになった)TR-808っていうリズムマシンに恩返ししたかったんでピコ。古坂(大魔王)さんと僕で3年くらいずっと曲を作ってきて。でも、映像まで仕上げて出すとなると難しいピ。だから10周年だし、全部出そうと思ったんです。最初は60曲くらいしかなかったんですけど、『じゃあ100曲?』って。でも100はベタだなと思って。だから“毎月リリースを1年続ける”って決めたんですピコ。ざっくり言えばミニアルバムを毎月出す感じですピ」
そして登場したのが“0.8曲”という概念だ。
「逆に『1曲って何ですか?』ってことなんですピ。ベートーベンの『第九』は74分で1曲。でも僕のPPAPは45秒で1曲。テレビで半分しか流れなければ0.5曲だし、サビだけなら0.2曲じゃないかって。そういう発想から“0.8曲”を提示したくなったんですピコ。僕の曲なら分かりやすいでしょ。最後にちゃんと“0.8”が出るので、聞けば分かりますピ」
新曲とともに公開される映像にも工夫がある。古坂大魔王と最低限のスタッフで撮影し、AIアーティストとコラボすることで新しい表現を追求した。
「撮影は自腹で借りた事務所に白ホリ(※白いホリゾントスタジオの略、壁と床の間に影ができにくい設備)を組んで、古坂さんと僕、最低限のスタッフでやりましたピ。カメラマンもいません。編集は古坂さんがまずやって、AIアーティストに素材を渡してリミックスしてもらったピコ。普通なら数百万円かかる映像を1人で作れちゃう。AIの時代だからこそできるんですピ」
今回のプロジェクトには「AI(愛)と共に」というテーマも込められている。
「AIって、愛がないとつまんないんですピ。だから愛を込めたAIにしたかった。古坂さんはずっとAIで曲作りや映像をやりたがっていたし、それがやっと形になった。時代が追いついたんですピコ」
ピコ太郎は、融合こそが新しい発明だと考えている。
「イノベーションって“融合する”って意味なんですって。だから曲とAI、演者とAI、それを混ぜることに意味があるぴ。まさに発明ですピコ」
制作には5年越しの積み重ねもある。コロナ禍で表舞台に立てない間も、地道に曲を作り続けていた。
「正直3年どころじゃない。コロナも挟んで5年くらいずっと作ってましたピ。仕事の合間や暇な時に好きな曲をずっと作ってた。それが今回につながっているんですピコ」

再生回数や収益「あまり意識しません」
さらに「Tottemo Release 80.8」には、まだ明かされていない“大きなプロジェクト”が内包されているという。
「これはまだ言えないんですけど、このメインプロジェクトがあるからこそ80.8が可能になったピ。ある日急に思いついて、『これはいける!』ってなったんです。来年くらいには発表できると思いますピコ」
衣装にもこだわりがある。今回のテーマは「そっち系かわいい(ヤクザかわいい)」。
「10XLサイズのスーツを買って、それをリメイクしてもらいましたぴ。リメイクアーティストと一緒に“舞台で映える”“ポップに見える”ものを追求しましたピコ。ゴシックな要素やFRUITS ZIPPER的なポップさ、Mrs. GREEN APPLE的な華やかさ、ちょっとメイド服っぽさも入ってますピ。ごちゃ混ぜなんですけど、それがかわいい。日本人より海外の人の方が『お、なんだ?』って思ってくれるかもしれないピ」
活動の根底にあるのは「数字やお金に縛られない」という姿勢だ。
「再生回数とか収益はあまり意識しませんピ。そういうのは事務所やスタッフに任せていて、僕は自由にやるだけ。数字を気にすると絶対面白くなくなる。爆笑問題の田中(裕二)さんにも昔『稼ごうと思った瞬間につまらなくなる』って古坂さんが言われて。それを信じてますピコ。どうやって稼ぐかじゃなくて、どうやって楽しめるかを考えるんですピ」
約10年の歩みを経て、ピコ太郎は「自由に、好きなことをやる」スタイルを確立した。
「僕は好きなことを自由に、無理なくやるピ。それが一番。数字やお金に振り回されず、自分も楽しいし、見ている人も楽しい。それが一番いい形だと思いますピコ」
『PPAP』からまもなく10年。ピコ太郎は再び、世界へと挑戦を仕掛けようとしている。AIと愛、音楽とファッション、笑いと哲学。そのすべてを融合させながら。
□ピコ太郎(ぴこたろう)2016年にYouTubeにアップした『PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)』の動画がジャスティン・ビーバーやCNN、BBCなどの世界メディアに取り上げられ、世界中で大ブレイクを起こす。日本人としては26年ぶりにアメリカビルボードHot100に入り、「ビルボードHot100にチャートインした最も短い曲」としてギネス世界記録にも認定されている。また、17年には、トランプ大統領来日時の晩餐会に出席を果たし、外務省からの任命でSDGs推進大使として活躍した経験を持つ。
