99歳・石井ふく子さんの演出に「弱音は禁物」 高島礼子が語る“舞台人”の覚悟と決意
俳優の高島礼子が、橋田壽賀子作・石井ふく子演出の傑作喜劇『かたき同志』(8月30日~9月21日、大阪・新歌舞伎座)で呉服問屋「越後屋」の女将・お鶴役を演じる。庶民的な飲み屋「ひさご亭」の女将・かめ(藤山直美)と、身分や暮らしの違いから真っ向衝突する肝っ玉母さんだ。還暦をすぎ、「人生のリスタート」と位置づける高島に、役作りや舞台への思い、そして今の生き方を聞いた。

傑作喜劇『かたき同志』に出演
俳優の高島礼子が、橋田壽賀子作・石井ふく子演出の傑作喜劇『かたき同志』(8月30日~9月21日、大阪・新歌舞伎座)で呉服問屋「越後屋」の女将・お鶴役を演じる。庶民的な飲み屋「ひさご亭」の女将・かめ(藤山直美)と、身分や暮らしの違いから真っ向衝突する肝っ玉母さんだ。還暦をすぎ、「人生のリスタート」と位置づける高島に、役作りや舞台への思い、そして今の生き方を聞いた。(取材・文=平辻哲也)
お鶴は、何代も続く老舗呉服問屋「越後屋」の女将で、生まれながらのお嬢様育ち。川向こうの庶民的な飲み屋「ひさご亭」の女将・かめ(藤山直美)とは、価値観も暮らしぶりも正反対だ。息子と娘の恋が発覚し、両家は真っ向から衝突するが、やがてお互いの人柄に触れ、固く閉ざしてきた心を少しずつ開いていく。
高島は、この役を演じるにあたり、「現代の感覚ではお金持ちと庶民の差って、そんなにピンとこないかもしれませんよね。でも、江戸時代という設定だからこそ、生活の違いがはっきり表現できるんです」と話す。
「着物の質感や色合い、歩き方、立ち居振る舞い――そういうところからも、越後屋の女将として生まれ育ったお鶴の“格”を出せると思います。お嬢様としての軸は絶対に曲げない。でも、かめさんとのやり取りを通じて、後半になるとだんだんと鎧が剥がれていく。その変化をしっかりお見せできればと思っています」
タイトルの『かたき同志』については、「敵なんだけど、最終的には同志になる。このパターンが私は一番好きなんです」と笑顔を見せる。
「何でも言い合って、時には喧嘩して、やっと本当の友情が芽生える。気を使っているだけの上辺の関係じゃなくて、『やかましいわ!』って言いながらも、最後には『あなたに会えて良かった』と素直に言える関係って素敵ですよね。子どもたちはそっちのけで、母親同士の友情がどんどん膨らんでいくんです。そういう展開が、この作品の面白さのひとつだと思います」
高島にとっての“かたき同志”は、これまで共に仕事をしてきた仲間たちだという。
「昔から、スタッフとも戦いながらやってきました。言いたいことを遠慮なく言い合って、それでも何十年も一緒にやっている。ぶつかり合うからこそ、相乗効果でいい仕事が生まれるんです。だから、この作品の人間関係は私の人生経験とすごくリンクしているんですよね」
昨年、還暦を迎えた高島は、今年を「リスタートの1年目」と位置づける。
「これからは若い人たちのお手本になれるような存在でいたいと思っています。これまではどうしても自分のことばかり考えてきましたが、これからは自分の経験や力を周りに流していく生き方をしていきたい。ここからが本当の人生の始まり。戦い続ける方が楽しいですし、腹に抱えず、言いたいことをちゃんと口にして、日々を過ごしていきたいです」
本番に向けては、数か月前から体力づくりにも余念がない。
「稽古は室内で行いますが、有酸素運動やストレッチで柔軟性を高めています。『かたき同志』は、着物での立ち座りや動きが多く、膝や腰に負担がかかるんです。最後は踊ったり、寝転んだり、歌ったりと忙しい舞台なので、膝や腰を痛めたらアウト。そこは徹底的にケアしています」
舞台は体力勝負だが、演出の石井さんは今年99歳で壮健だ。
「石井先生の前では、たとえ体調が悪くても『大丈夫です!』って言い続けなきゃいけません(笑)。でも、それが舞台の世界なんですよね。お客様の前で弱い姿を見せるわけにはいかないですし、そのための準備や自己管理は欠かせません」
舞台にかける思いを改めて聞くと、「笑って、ちょっと泣けて、観た人の心に残る作品にしたいですね。私自身も、この作品を通して新しい自分を見つけられるかもしれないとワクワクしています」。舞台を通じて生まれる母親どうしの友情、そして舞台人としての新たな挑戦。高島はそのすべてを全身で受け止め、観客と分かち合う覚悟だ。
□高島礼子(たかしま・れいこ)1964年7月25日、神奈川県出身。88年『暴れん坊将軍III』でデビュー。映画『さまよえる脳髄』(93年)で初主演を果たす。『陽炎』シリーズ2、3、4(96年~98年)にて主演を務め、『極道の妻たち 赤い殺意』以降のシリーズ(99年~2005年)でも主演を続投する一方、舞台、ドラマ、CMでも活躍。ドリームワークス製作のアニメ『マダガスカル』シリーズ(05年~12年)の日本語吹替版の声優にも挑戦。01年、映画『長崎ぶらぶら節』(00年)で、第24回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。
