クラファンで6600万円調達→大ヒットの『魔法少女ノ魔女裁判』 高評価につながった“面白さ”と“親切さ”【ネタバレあり】
シナリオ制作会社Re,AERのクリエイティブブランド『Acacia』による魔法議論×ADV(アドベンチャー)ミステリー『魔法少女ノ魔女裁判』(PC)は7月18日に発売され、Steamで「圧倒的に好評」を維持している傑作だ。Acaciaはグッドスマイルカンパニーの新作『魔法少女ノ因習村』(Nintendo Switch / PC)でも原作・製作を担当すると発表されており、「魔法少女ノ〜」シリーズとして注目度が高まっている。

Steamで“圧倒的に好評”を維持する『魔法少女ノ魔女裁判』
シナリオ制作会社Re,AERのクリエイティブブランド『Acacia』による魔法議論×ADV(アドベンチャー)ミステリー『魔法少女ノ魔女裁判』(PC)は7月18日に発売され、Steamで「圧倒的に好評」を維持している傑作だ。Acaciaはグッドスマイルカンパニーの新作『魔法少女ノ因習村』(Nintendo Switch / PC)でも原作・製作を担当すると発表されており、「魔法少女ノ〜」シリーズとして注目度が高まっている。
(※以下、作品のネタバレを含む記述があります)
発売後、もともとダークなADV/ノベルゲームが好きな層だけでなく、幅広いプレイヤーから高評価を得ている『魔法少女ノ魔女裁判』。あえてシンプルに表現すると、いわゆる魔法少女モノとデスゲーム(死の危険を伴うゲーム)系シナリオをかけ合わせたような建付けとなっている。
そして、「魔法少女がひどい目に遭う」という、現代の魔法少女モノでは標準装備とも言える展開も当然のように内包。こうした方向性は、2011年に放送されたアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』によって幅広く受け入れられるようになり、創作物の構成要素としてポピュラーなものとなった。ハードなストーリーを作る際の定番とも言えるデスゲーム要素も含め、目新しさが売りの作品ではない。
しかし、開発段階で実施されたクラウドファンディングでは200万円を目標としながら6680万9444円を集め、実際の売れ行きと評価も先述のとおり。魅力的なイラストとキャラクターデザインがあってこそとはいえ、なぜここまでの爆発力を持つコンテンツになれたのだろうか。発売後の人気の一因として挙げたいのが、さまざまな“ガワ”はキャッチーにしつつも、その本質は「ADVとしての面白さと親切さ」に特化して作り上げられていることだ。

優れたゲーム体験を提供するストーリーのギミック
『魔法少女ノ魔女裁判』は、ADVにおいて定番とも言える“周回プレイ”が必要とされていない。いくつかのエンディングは存在するが、テキストスキップなどを駆使して同じストーリーを進め、あらためて別の選択肢を選んだりする必要がないため、プレイヤー目線で非常に親切だと感じた。
さらに、デフォルトの設定では正解の選択肢が視覚的に分かる仕様となっており、バッドエンドの回収に興味がなければ、正解だけを選び続けて一直線にトゥルーエンドに到達することも可能。「ビジュアルに惹かれて初めてADVをプレイする」という、周回プレイに慣れていない層にもフレンドリーな仕様と言える。(何度もやり直して正解にたどり着くカタルシスもあるとはいえ)同じ場面を繰り返すことのストレスを排除した分だけ、誰でも本筋のストーリーに集中して楽しめるということだ。
「ダンガンロンパ」シリーズの学級裁判と類似点の多い魔女裁判も、すべての選択肢を総当りで選んでいけば、ペナルティーなしで正解にたどり着ける。一応、時間制限はあるのだが、意図的に敗北を目指さない限りは、時間内に正解を選べるような設計だ。逆に言えばゲーム性は控えめなのだが、これもさまざまな層がプレイすることを見越しての“親切さ”なのではないだろうか。
「面白さ」は個人差のある指標でもあり、ストーリーを切り取って羅列しても意味がないため、一つに絞って例を挙げたい。それが、最初のエンディング後のギミック、すなわち主人公が交代しての“後編”とも言うべきストーリーへの転換だ。やや消化不良な形で一つ目のエンディングを迎え、「ここから周回か……」と思っていたところで、まったく違う視点でのストーリーが始まるのは、ゲーム体験として非常に満足度が高い。「ADVだから2周目があるだろう(そしてそこで補完されるのだろう)」という推測があるからこそ、「まだまったく新しい体験がある」という事実が高揚感をもたらしてくれた。
ADVジャンルでは「クリア後、別キャラの視点からのストーリーが展開される」というギミック自体はありふれているのだが、その多くは残った謎の補完やサイドストーリーとしての扱いになる。しかし本作は主人公交代後のボリュームが圧巻で、予想をいい意味で裏切られた。ボリューム満点な分だけ、キャラクターたちの見え方にもかなり変化があり、魔法少女一人ひとりへの思い入れも自然と積み重なっていった。ゲーム的に必要がなくても、全員の裏も表も知った上でもう一度プレイするために、2周目のプレイに進んだ人も少なくないはずだ。
終盤でのラスボスの心境変化の不自然さ、バッドエンドのクオリティーの差、物語にまだ裏があるような“匂わせ”、そもそもゴクチョーの存在とは……など、いろいろと引っかかるところはあるものの、冒頭で述べたように「魔法少女ノ」シリーズとして広がりが生まれていくなら、こうしたモヤモヤが解消される日が来るかもしれない。そうした展開が『魔法少女ノ魔女裁判』から始まっていくのであれば、見届けたい——そんな期待を抱かせてくれる作品だった。
