『べらぼう』で、絶命して着物をはぎ取られた元花魁を熱演 元宝塚女優・愛希れいかが回想する「朝顔の壮絶な最期」

元宝塚月組トップ娘役で俳優の愛希れいか(まなき・れいか)が、2021年に続いてミュージカル『マタ・ハリ』(訳詞、翻訳、演出・石丸さち子氏)の主演を柚希礼音とのダブルキャストで務める。数々のメガヒットを手掛ける作曲家フランク・ワイルドホーン氏による韓国発のミュージカル。18年の日本初演以来、再々演となる今回は10月に東京、大阪、11月に福岡で上演される。愛希は「前回、役作りに悔いが残った」と話しており、あらためての取り組み、宝塚時代の葛藤、同期への思いを聞いた。

自身の歩みと「今」を語った愛希れいか【写真:増田美咲】
自身の歩みと「今」を語った愛希れいか【写真:増田美咲】

10月、11月にミュージカル『マタ・ハリ』で主演

 元宝塚月組トップ娘役で俳優の愛希れいか(まなき・れいか)が、2021年に続いてミュージカル『マタ・ハリ』(訳詞、翻訳、演出・石丸さち子氏)の主演を柚希礼音とのダブルキャストで務める。数々のメガヒットを手掛ける作曲家フランク・ワイルドホーン氏による韓国発のミュージカル。18年の日本初演以来、再々演となる今回は10月に東京、大阪、11月に福岡で上演される。愛希は「前回、役作りに悔いが残った」と話しており、あらためての取り組み、宝塚時代の葛藤、同期への思いを聞いた。(取材・文=Miki D’Angelo Yamashita)

 同作は、第一次世界大戦時のヨーロッパを背景に、スパイとしての任務を負う女性ダンサー、マタ・ハリの愛と悲劇を描く物語。前回の上演はコロナ禍の21年で、大阪公演最後の2日間が公演中止になった。その経緯もあり、愛希はマタ・ハリ役に特別な思いがある。

「『悔しかった』という思いが強く残っています。稽古もリモートになり、できることは限られていましたし、もっと新しいことにチャレンジしてお客様に届けたかったです。上演中止になった時には『いつか再演の機会があれば』と、制作さんに、『衣装を残しておいてほしい』と頼んだぐらい、やり残した気持ちが強かったんです。ですから、お話をいただき、新たに挑戦できることをとてもうれしく思っています」

 愛希は役になり切るため、「共感する接点を見つけることから始めたい」と意欲をみせるが、時代も国も違い、マタ・ハリには理解できない部分も多く苦労したという。

「『真実の愛を見つけて誰かのために生きたい』という気持ちには共感できます。そこから人物像をひも解いていければ、と手探りをしているところです。前回は余裕がなくてどうしても素の自分が出てしまい、それを演出の石丸さち子さんがいい方に捉えて、私なりのマタ・ハリ像を創ってくださったのですが、『もっとこうすればマタ・ハリに近づけただろうな』と悔やむ点がたくさんありました」

 舞台はパリ。史実であるため、演出家がさまざまな資料を用意してくれたが、スパイという役柄を消化することには今回も手こずっている。

「作品で描かれている部分以外のマタ・ハリの人生を知ることが大事ですが、彼女の過去があまりにも悲惨なので、なかなか自分の中に入ってきません。どれだけ説得力を持って演じられるかは、この舞台では描かれていないマタ・ハリの生涯を自分なりにそしゃくする必要があります。前回、消化不良だったマタ・ハリを理想に近づけることができるかは、そこにかかっています」

 マタ・ハリに屈折した愛情を抱き、彼女をスパイへと導くフランス諜報局のラドゥー大佐(加藤和樹、廣瀬友祐のダブルキャスト)、マタ・ハリに真っすぐな愛を示すパイロットの青年アルマン(加藤和樹、甲斐翔真のダブルキャスト)という運命を変える2人の男性とは、どう対じするのか。

「相手との芝居の呼吸が大切ですので、いかに2人を理解するかが大切です。技術だけでは、どうしてもにじみ出てくる感情が十分ではない。まず、その人物の歩んだ人生や生きている時代から彼らがまとう心の痛みを共有することが課題です」

 最近は、舞台以外にも映像での活躍が注目される。『青天を衝け』に続き2度目となったNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』では、第1話で元花魁・朝顔を演じた。体を壊して衰弱し、そのまま回復することなく命を落とす役。亡くなった朝顔は着物をはぎ取られ、地べたに打ち捨てられ、その衝撃的な最期のシーンが話題になった。

「朝顔の壮絶な最期については、本人にも悔いはあったと思いますが、朝顔なりに精いっぱい生きた姿を演じて、そこに涙せずにいられませんでした。花魁は強く生きているイメージがあったので、朝顔の優しさをどのように表現したら良いのか、役作りは難しかったですね。『どんな苦しい状況でも明るく強く生きていく姿を見せてほしい』と監督からは言われていたので、悲惨な運命の中でも、とにかく『明るさ』を大切にして演じました。子どもの頃から憧れの大河ドラマに出演できて、本当に光栄でしたし、それ以来、『映像でももっと活躍できるようになりたい』と意欲も出てきました。最近は、(24年10月期放送のNHK連続ドラマ『3000万』などで現代の女性を演じることもできて役の幅も広がり、舞台と映像作品両方やらせていただけることで刺激を受けています」

宝塚時代は男役、娘役の両方を経験した愛希れいか【写真:増田美咲】
宝塚時代は男役、娘役の両方を経験した愛希れいか【写真:増田美咲】

娘役→男役→娘役「葛藤や苦悩を乗り越え」

 宝塚音楽学校1年目は娘役、身長が伸びたことで2年目に男役、入団3年目には娘役に再転向し、1年足らずでトップ娘役に就任した。男役スターにスポットが当たりがちな宝塚だが、愛希は秀でた表現力と存在感で高い人気を誇り、新たな娘役像を作り出した。

「娘役への転向は、ひとことでは語れないほど、さまざまな葛藤や苦悩を乗り越えなければなりませんでした。たくさんの人からアドバイスをいただき悩みながら決めたのですが、今となっては、男役を経験できたことで演技力や表現力の幅が広がったと感じています」

 さらに、娘役ながら宝塚バウホールの主演に抜てきされ、新しい娘役像を歴史に残した。

「男役、娘役にかかわらず、宝塚は大好きな世界でどちらでもこだわりはないんです。ただ、娘役で主演として舞台に立たせていただく経験ができたことは大きな転機でした。伝統的な娘役像も大切にしたかったし、新しい娘役像も作り上げたかった。『最終的に自分らしくいられた』と満足して卒業できたのは幸せでした」

 愛希と同時に入団した95期生は、娘役3人、男役5人と、多くのトップスターを輩出した「黄金世代」。自分自身も含めて、トップスターが出る期だとは誰も思っていなかったという。

「仲の良い期なのでよく集まりますし、まるで家族のような感じです。新トップになった2人、雪組の朝美絢、宙組の桜木みなとの今後の活躍には期待していますし、現役が頑張っている姿を古巣に見に行くのも楽しみです。退団公演が終わったばかりの礼真琴は、音楽学校のころからずば抜けた実力を持っているのにおごらず、親しみやすくて努力家で、私たちの誇りですね」

 現役だけでなく、卒業した同期の活躍にも触発される愛希は「せっかく心残りを晴らす機会をいただいたのですから、マタ・ハリという人物をもっと深く表現したい。今回は、満足のいくクオリティーにまで絶対に持っていきたいですね」と言葉に力を込めた。

 現在は「前回を忘れて一からやり直す」と闘志を燃やし、日々、稽古を重ねている。

<『マタ・ハリ』上演スケジュール>
10月1日(水)~14日(火) 東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

10月20日(月)~26日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール

11月1日(土)~3日(月・祝) 福岡・博多座

□愛希れいか(まなき・れいか)1991年8月21日、福井県生まれ。元宝塚歌劇団月組トップ娘役。主な出演作品にミュージカル『イリュージョニスト』『トッツィー』『ファントム』『エリザベート』、NHK大河ドラマ『べらぼう』、NHK連続ドラマ『3000万』『大奥 シーズン2』、フジテレビ系連続ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』など。

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