異色「兼業eスポーツプロ」選手の生き方…スポンサー探しに転職活動の“プロ根性”

注目度が高まるeスポーツ界で、異彩を放つ選手がいる。「ストリートファイター」シリーズのプロゲーマーで、大手ゲーム会社の社員としての顔を持つネモ選手(34)だ。プロになるために転職を決意し、自らを売り込んでスポンサーを獲得し、道を切り開いた。前編では、仕事との両立で海外を飛び回る異色の「兼業プロ」に、成功の流儀を聞いた。

「ストリートファイター」シリーズのプロゲーマーとして活躍するネモ選手【写真:舛元清香】
「ストリートファイター」シリーズのプロゲーマーとして活躍するネモ選手【写真:舛元清香】

「Team Liquid」所属でスクウェア・エニックス勤務の“二足のわらじ”ネモ選手 「プロゲーマー」スポンサー探しを足で稼ぐ、人脈生かした転職活動

 注目度が高まるeスポーツ界で、異彩を放つ選手がいる。「ストリートファイター」シリーズのプロゲーマーで、大手ゲーム会社の社員としての顔を持つネモ選手(34)だ。プロになるために転職を決意し、自らを売り込んでスポンサーを獲得し、道を切り開いた。前編では、仕事との両立で海外を飛び回る異色の「兼業プロ」に、成功の流儀を聞いた。

 世界最大規模のeスポーツチーム「Team Liquid」所属の選手ながら、スクウェア・エニックスに勤務するネモ選手。ゲームとの出会いは、「小学校の時に友達の家に集まって遊んでいた」という、30代の世代ではごく普通のきっかけだ。高校時代にゲームセンターに通って遊んでいると、友人たちに誘われて全国大会に出場するようになる。ストリートファイターだけでなく、「ザ・キング・オブ・ファイターズ」や「ギルティギア」といった対戦型格闘ゲームに熱中した。「昔も今も変わっていないですね。学校が終わったらゲームをする。社会人になっても仕事が終わったらゲームをする。趣味の一つとしてゲームを続けてきました」と話す。
 
 そんなゲーム少年は、大学卒業後にゲームとは関係のない一般企業にシステムエンジニア(SE)として入社する。就職活動で悩んだことは、“趣味を仕事にするか否か”というテーマだった。当初はゲーム業界で働いてスキルを生かそうと考えていたが、ゲーム業界に入った先輩たちに話を聞いてみると、「『やめたほうがいいよ』と言われるわけです」。仕事が忙しくてゲームをやれる時間が取れない現実を教えられた。むしろ、「ゲーム業界ではない会社に行って、仕事が終わったらゲームをやって大会に出るほうがいいのではないか」という助言を受けた。大学の就職課への相談を契機に、前職である一般企業への就職が決まった。

 SEとして販売管理システムの運用保守の業務をこなしながら、休日にゲーム大会に出場する。社会人と一般ゲーマーとの両立を10年以上続けた。プロを志すきっかけとなったのは、30歳を迎えてキャリアプランを考えた時だ。人事考課の面談の場で当時の上司から「今後のキャリアプランについてもっと真剣に考えたほうがいい」と言われ、自身の今後について熟考したという。

海外eスポーツの盛り上がりを目の当たりにして決意

 前職の会社の考えは前向きだとわかっていたが、海外のeスポーツシーンがどんどんと盛り上がりを示す中で、こみ上げる思いがあった。「約10年前に格闘ゲームの梅原大吾さんが日本で初めてプロゲーマーになりました。知り合いの人たちがどんどんプロゲーマーになっていきましたが、僕は将来食っていけないだろうとずっと思っていて、なかなかプロの道に踏み出せませんでした」。それでも、海外大会に出場する度に、規模の広がり、賞金総額の増加を目の当たりにするようになり、「これだったらプロゲーマーをやれるかもしれない。だとしたら、自分はゲームのスキルを生かせる職場にいったほうがいいのでは、とより強く思うようになりました」。こうして決心に至った。

 悩んだ末の転職活動。有利に進めるために求めたのが、「プロゲーマー」の肩書だ。自ら営業活動に奔走した。日本ではまだ「eスポーツ」という言葉になじみのない当時。スポンサーになってくれませんかと企業を回っても、「うちはまだ投資できない」「前例がないからダメ」の連続……。地道な自己PR活動の中で、「ALIENWARE(エイリアンウェア)」の個人スポンサーの獲得にこぎつけた。そして、転職活動にも転機が訪れる。現在務めるスクウェア・エニックスの上司との出会いだ。格闘ゲームの世界大会「Evolution Championship Series」(EVO)の観戦に来ていたことで交流が始まり、転職活動の相談をしたところ、「面白いからうちに来てみない?」と誘われた。こうして2017年10月に入社が決まった。

 吉報が続く。「Team Liquid」がアジア展開を打ち出したタイミングで、力量を高く評価され、18年3月に移籍が実現。実力だけでなく、幅広い人脈をフル活用して、プロへの道を手繰り寄せたのだ。

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