売れっ子原作者・武論尊氏が「漫画の天才」と称賛する3人の名前 政治漫画で実現した“頂点”とのタッグ

漫画原作者として、数々の名作を生み出してきたヒットメーカー・武論尊先生。その中でも、代表作として挙げられるのが『サンクチュアリ』(「史村翔」名義)、『北斗の拳』だろう。『サンクチュアリ』は、武論尊先生が“作画家の頂点”と語る池上遼一先生とタッグを組んだ、政治漫画の金字塔だ。日本の光と影を描く社会派ドラマはいかにして生まれたのか。そして、武論尊先生が“この人には原作を書けない”と賛辞する天才漫画家について赤裸々に語った。

インタビューに応じた武論尊先生【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた武論尊先生【写真:ENCOUNT編集部】

「池上先生とやりたいか?」『サンクチュアリ』を生んだ1本の電話

 漫画原作者として、数々の名作を生み出してきたヒットメーカー・武論尊先生。その中でも、代表作として挙げられるのが『サンクチュアリ』(「史村翔」名義)、『北斗の拳』だろう。『サンクチュアリ』は、武論尊先生が“作画家の頂点”と語る池上遼一先生とタッグを組んだ、政治漫画の金字塔だ。日本の光と影を描く社会派ドラマはいかにして生まれたのか。そして、武論尊先生が“この人には原作を書けない”と賛辞する天才漫画家について赤裸々に語った。(取材・文=関口大起)

 ある日、武論尊先生の電話が鳴った。相手は『ファントム無頼』を担当していた小学館の編集者だ。

「池上遼一先生の仕事が落ち着いたから、お前次やりたいか? って言うんです。そりゃやりたいじゃないですか。天下の池上遼一ですよ。それで即答したら、じゃあ何やろうかって」

 鶴の一声で動き出した“天下”とのタッグ。武論尊先生が提案したのは「政治」。当時はバブルの真っただ中で、日本人は皆浮かれていた。そんな世相に「俺の中でちょっと思うところがあった」と先生は話す。

 だが、政治だけではエンターテインメント性が低い。そこで、得意としていたヤクザのエッセンスを加えることも提案したという。

「俺は、漫画家の絵からストーリーを考えるんです。『北斗の拳』の原先生の絵を見て、荒々しい世界観を思いついたりね。池上先生の絵は、立ち姿がとにかくいい。だから、いい男が出てくる物語にしたいと思った。医者も悪くなかったけど、俺はもうほかの作品で書いたことがあったから。同じテーマだと飽きちゃうでしょ。だから政治とヤクザでいこうと」

 驚くほどトントン拍子に基本構想が固まり、さらには『サンクチュアリ』というタイトルまで決まったという。そして、池上先生の回答も即OKだった。

大友、鳥山、井上…武論尊が原作を“書けない”天才たち

 政治とヤクザ。それらをテーマに漫画の原作を書いていくには、各世界について勉強が必須だろう。事実、『サンクチュアリ』には強烈な説得力がある。しかし、先生の口から出たのはあまりに意外な言葉だった。

「俺は勘。勘だけで書いてますよ。調べるのもめんどくさいし、勉強するのも大嫌いだから。読者が読みたいと思うことを考えて追求していけば、いいストーリーは作れるんです。そもそも俺、政治家やヤクザに知り合いなんていないしね(笑)」

 そう語る武論尊先生だが、書き上げた原作へのこだわりは人一倍強い。世間では“一言一句の変更を許さない”といううわさ話を耳にするが、それは本当なのだろうか。

「ちょっと誤解があるけど、『これより面白く変えられるならやってみろよ』とは常に思って書いています。だから、より面白くなるなら文句はないですね。ちなみに池上先生に関してはまた別で、あの方はむしろ、“絶対に変えない”スタイルを貫いてらっしゃる。愚直なほどに、『俺は話を書けないから』という考え方をされているんです」

 一方、コメディーに関しては作画担当に任せる部分が多いという。たとえば、すぎむらしんいち先生が作画を担当した自衛隊ギャグ漫画『右向け左!』では、“すぎむら先生の天才性が出ている”と武論尊先生は言う。

 池上遼一、そして原哲夫。さらには新谷かおる、三浦建太郎、あだち充(いずれも敬称略)……と数々の漫画家と仕事をしてきた武論尊先生。今後、仕事をしたい漫画家はいるのだろうか。

「もう、池上先生っていう“頂点”とやっちゃってるからなあ(笑)。でも、逆に“書けない”っていうのなら大友(克洋)先生、鳥山(明)先生、井上(雄彦)先生の3人です。皆、漫画の天才。画力が高すぎて、それに見合うストーリーを考えるのが大変すぎますよ。仮にオファーがあっても、3年くらいは悩んじゃうと思うな」

 原作と作画が最高のものをぶつけ合う。武論尊先生が貫き続けてきたスタイルゆえの回答だった。しかし、鳥山先生がこの世を去り、本当の意味で絶対に実現しないタッグになってしまったことは、いち漫画好きとして悔しいばかりだ。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください