OLから転身22年…初めて弟子を取った50歳・女性落語家の思い 柳亭こみち「SNSでの志願はNO」「闘う姿を見せられたら」
OLから落語家に転身して22年。柳亭こみち(50)がENCOUNTの取材に応じ、「女性落語家の活性化」について語った。こみちは2023年8月から、古典落語の主要人物を女性に変換した落語会を企画・制作。今年は9月9日、東京・銀座博品館劇場で『こみち噺 饗宴×四人のシェフ』と題して上演するが、そこには確固たる狙いがあった。

2023年から古典落語の主要人物を女性に変換した落語会を企画・制作
OLから落語家に転身して22年。柳亭こみち(50)がENCOUNTの取材に応じ、「女性落語家の活性化」について語った。こみちは2023年8月から、古典落語の主要人物を女性に変換した落語会を企画・制作。今年は9月9日、東京・銀座博品館劇場で『こみち噺 饗宴×四人のシェフ』と題して上演するが、そこには確固たる狙いがあった。(取材・文=柳田通斉)
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浅草の喫茶店。浴衣姿で現れたこみちが打ち明けた
「実はこの春から弟子を取りました。男1人、女1人。どちらも20代後半です。私が出ている演芸場で何度も出待ちして、弟子入りをお願いする昔ながらのスタイルでした。22年前、OLだった私もそうでした。今はSNSの時代ですからDMで弟子入り志願する人もいるらしいのですが、そういう人の大半は相手にされないと思います。落語に人生を懸ける気概を感じないと、引き受けることはできないでしょうから」
そんな熱意を感じたこみちは、2人に見習い修業をさせながら自身の生きざまを見せている。「挑戦」し続ける姿だ。
東京・東村山市生まれのこみちは早稲田大を卒業。就職して出版社で営業職を務めていたが、故柳家小三治さん(享年81)の落語に衝撃を受け、28歳の2003年2月、小三治さんの弟子・柳亭燕路に入門した。そして、見習い、前座、二つ目をへて、42歳の17年9月に真打ちに昇進した。その間に結婚、出産をしていることでも注目されたが、当時からその先の「難しさ」を感じていたという。
「死に物狂いで古典落語と闘っても、寄席の楽屋にいるのは落語の猛者、バケモノみたいな才能を持つ巨人の師匠や兄さんたちがいる。その中で、自分にしかできないものをやらないとお客さんの心には残らないと思ったからです」
歴史的に東京で初めて女性真打ちが誕生したのが、1993年。江戸時代に始まった寄席興行で大部分の歴史を担ってきたのは、男性落語家による芸の数々だ。その現実を痛感する中、こみちは三遊亭白鳥が当て書きをしてくれた江戸落語『長屋の花見 おかみさん編』を披露すると、客に大受けした。女性が主人公の作品。これが、こみちが「古典落語の主要人物を女性に変えていく」を始めるきかっけになった。
例えば、壺を買うために、変な値切り方をして店側を混乱の極みへと突き落とす滑稽噺『壷算』。元の噺では、値切る人も、値切られる店の人も男性だが、こみちは値切る人を大阪のおばちゃんに変えた。そばっ食いの大食漢が出てくる噺『そば清』は、『そばの清子」に変えた。
これまで改作した噺は約40本で、「他にも女性の登場頻度を上げている噺が、その倍あります」。そして、23年8月には、芸歴20年記念公演『この落語、主役を女に変えてみた~ こみち噺スペシャル』で会場を満員にし、翌年夏の興行も成功させた。
これを受け、こみちのスタイルに習う女性落語家たちも登場。一つの流れを作れたことは前向きに捉えている。昨夏には、岩波書店の『図書』8月号に掲載された自身のエッセー『女性落語増加作戦』が、『ベスト・エッセイ2025』(光村図書)に収録された。同書籍は、新聞・雑誌に掲載された優れた随筆の中から、角田光代氏、林真理子氏、藤沢周氏、堀江敏幸氏、町田康氏、三浦しをん氏ら、日本を代表する文筆家が選考することで知られている。

女性落語家は22年間で14人増も「まだまだ課題」
現実に女性落語家は増えてはいる。こみちが所属する落語協会だけで20人(うち真打ち12人)。だが、古典落語を得意とする女性落語家たちをさらに活性化させるには、まだまだ課題があるという。
「私が入門した2003年当時は6人でしたから、随分と数は増えました。ただ、古典落語の演目には女性が登場するパターンが4つしかありません。『女将さん・おっかっさん』『めかけ』『花魁・芸者』『ゆうれい』です。ここにハマらない女性を活躍させたいという思いがあります」
こみちは、高評価を受けた『女性落語増加作戦』でも、「一人でも女性が登場すると演じやすいと感じる女性演者は多い」「持ちネタが増えてきたら、噺に自分なりの工夫を加えよう」などと記している。だからこのその改作で、下男が女中になり、じいさんがばあやになり、そもそも出てこないおばあちゃんやお嬢様などを出して活躍させていくという。
「ただ、何でも変えればいいというものではなく、お客さまに笑っていただけるセンスも問われます。今回の『こみち噺 饗宴×四人のシェフ』でも、全て私が本を書いていますが、桃月庵白酒師匠、春風亭百栄師匠、蝶花楼桃花師匠がそれをどう料理していくか私自身も楽しみです」
もちろん、こみちも出演。銀座博品館劇場はこれまで2回よりも多くの席があり、「落語に触れてこられなかった方も、落語が大好きな方も満足して帰っていただける会になることを願っています。見習いの弟子にも私の闘う姿を見せられたらと思います」と話している。
□柳亭こみち(りゅうてい・こみち) 1974年12月10日、東京・東村山市生まれ。早稲田大第二文学部卒。出版社勤務をへて、28歳の2003年2月に人間国宝・柳家小三治さんの高弟・7代目柳亭燕路に入門。前座名はこみちで、06年11月に二つ目に昇進。17年9月に真打ちに昇進した。日々、高座に上がり、ナレーション、講演、執筆、学校寄席などでも活動。特技は日本舞踊で吾妻流名取。家族は夫の漫才師・宮田昇と長男、次男。
