渡辺謙、阪神首位独走も「一喜一憂はしない」 日本シリーズに向け「スケジュール空けている」

井伏鱒二の長編小説『黒い雨』をAudibleで朗読した俳優・渡辺謙が、映画をきっかけに、Audibleでも注目されている映画『国宝』(李相日監督、公開中)への思い、プライベートで熱を入れる阪神タイガースについて語った。最近では、iPadで読書することも多いそうだが、「台本だけは紙がいい」と語る。その理由とは……。

インタビューに応じた渡辺謙【写真:増田美咲】
インタビューに応じた渡辺謙【写真:増田美咲】

井伏鱒二の長編小説『黒い雨』をAudibleで朗読

 井伏鱒二の長編小説『黒い雨』をAudibleで朗読した俳優・渡辺謙が、映画をきっかけに、Audibleでも注目されている映画『国宝』(李相日監督、公開中)への思い、プライベートで熱を入れる阪神タイガースについて語った。最近では、iPadで読書することも多いそうだが、「台本だけは紙がいい」と語る。その理由とは……。(取材・文=平辻哲也)

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 仕事の傍ら、渡辺の心を支えるのがプロ野球・阪神タイガース。今季は90試合を消化して、2位以下を大きく突き放して、首位を独走している。けれども、「僕は一喜一憂をしないんですよ」と長年のファンとして冷静に喜びを語る。

「過大な期待はしない。最後だけゴールを切ってくれたらいいなっていう感じ。勝ったり負けたりを楽しむのがいい。それこそが勝負ってもんじゃないかな」。シーズン序盤は球場に足を運んだものの、「最近はバタバタして行けていない」というが、それでも「秋は全部スケジュールを空けています」と、日本シリーズに向けて静かな熱をにじませた。

 俳優として初めて長編朗読に挑んだ渡辺が選んだのは、原爆投下後の広島を描いた『黒い雨』。作品の持つ重みについて「逃げ場のない内容だからこそ、声で伝える意義がある」と語る。

 もう一つ、渡辺の出演作で話題となっているのが映画『国宝』だ。吉田修一氏による同名小説を原作に、任侠の家に育った喜久雄(吉沢亮)が、歌舞伎界の御曹司、俊介(横浜流星)と切磋琢磨しながら、国宝に上り詰めるまでを描く。渡辺は俊介の父で歌舞伎界のスター、花井半次郎を演じた。上映時間2時間55分という長尺ながら、興収70億円を超え、7月末の時点で今年公開の実写NO.1になっている。

 渡辺は「原作は長い作品で、端折らないといけない部分もあったので、撮影中はその辺が気になっていたのですが、全体的にはその厚みを残しつつ、バランスが取れた、いい作品に仕上がったという気がします。歌舞伎の白塗り一つを取っても、相当時間をかけていました。撮影監督は(『アデル、ブルーは熱い色』で知られる)ソフィアン・エル・ファニで、歌舞伎の演目を撮る時の空気感、明かりをただ単にきれいに撮るだけにはなっていなかった」と振り返る。

台本だけは紙にこだわっているという【写真:増田美咲】
台本だけは紙にこだわっているという【写真:増田美咲】

読書はタブレットでも台本は紙にこだわり「なぜなんでしょうね」

『国宝』は今年5月のカンヌ国際映画祭監督週間でワールドプレミアされ、来年の米アカデミー賞への期待もかかる。

「映画祭の価値は確かにあるけど、“面白かった”“良かった”という観客の声こそが何よりの評価」と言葉に力を込める。リピーターも多く、「映画館に足を運ばない人まで来てくれている。“映画館で映画を観たのは久しぶり”という声も届いた」と喜びをにじませた。

 映画の大ヒットを受けて、原作小説だけではなく、Audible版も人気になっている。

「昔の角川映画のキャッチコピーではないけれど、“読んでから観るか、観てから聴くか”の相乗効果があるんでしょうね。やっぱり僕はまだ文字を追ってしまうけれど、音で聴くと全然違う印象になる。キャラクターの膨らみ方も、世界の広がり方も全く違う」と、朗読体験の新鮮さについても触れた。

 普段の読書はiPadを利用するという渡辺。明かりや文字の大きさを調整できるため、視力を補ってくれる便利さがあると語る。ただし、台本だけは紙にこだわっている。

「なぜなんでしょうね。デジタルから入ってくる文字と紙から入ってくる文字は明らかに違うんです。台本は、紙じゃないと栄養にならないんですよ。例えるなら、お箸で料理を食べるようなもの。スプーンだと味が違うんでしょうね」

 その言葉からは、職業人としての繊細な感覚と、“声”に真剣に向き合う姿勢が垣間見える。

『黒い雨』の朗読に込められた「語り継ぐ覚悟」、そして『国宝』での圧倒的な存在感。さらにタイガースへのゆるやかな情熱。多忙な日々の中で、渡辺謙は真摯(しんし)に作品と観客、そして時代と向き合っている。

□渡辺謙(わたなべ・けん)1959年10月21日生まれ、新潟県出身。NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』(1987年)で人気を博す。2003年『ラスト サムライ』でハリウッド進出し、アカデミー賞助演男優賞にノミネート。以降『インセプション』(10年)、『GODZILLA ゴジラ』(14年)など国際作品に出演。国内では『明日の記憶』『沈まぬ太陽』で日本アカデミー賞を受賞。ブロードウェイ『王様と私』ではトニー賞にもノミネート。25年にはNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』、映画『国宝』に出演。さらに映画『盤上の向日葵』(10月31日公開)も控えている。

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