高校時代に脚本・主演・監督でデビューの衝撃 “医師志望だった”21歳・柳明日菜監督が明かす舞台裏

高校生時代に脚本・主演・監督を務めた柳明日菜のデビュー映画『レイニー ブルー』が7月18日より東京・アップリンク吉祥寺ほかで全国公開されている。熊本を舞台にした本作は、青春の揺らぎを描いた注目作だ。現在21歳の柳監督が、映画づくりに目覚めたきっかけ、制作に至るまでの道のり、そしてデビュー作に込めた思いを語った。

インタビューに応じた柳明日菜監督【写真:増田美咲】
インタビューに応じた柳明日菜監督【写真:増田美咲】

デビュー映画『レイニー ブルー』が公開中

 高校生時代に脚本・主演・監督を務めた柳明日菜のデビュー映画『レイニー ブルー』が7月18日より東京・アップリンク吉祥寺ほかで全国公開されている。熊本を舞台にした本作は、青春の揺らぎを描いた注目作だ。現在21歳の柳監督が、映画づくりに目覚めたきっかけ、制作に至るまでの道のり、そしてデビュー作に込めた思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

「1000人の中の1人に選ばれた」 成金イメージが先行する有名社長の“本当の顔”

『レイニー ブルー』は、映画同好会でたったひとりの部員である高校生・中山蒼(柳)が、部室で見つけた古びた脚本をきっかけに自身の進路や家族、友人との関係に葛藤しながら成長していく姿を描く青春ストーリー。

 主演は柳自身。共演には熊本出身の高良健吾や笠智衆の孫・笠兼三、中島瑠菜、小沢まゆらが名を連ねる。徳永英明の名曲『レイニー ブルー』(1986年)が挿入歌として使用されている。

 撮影したのは、柳監督が通信高校に在学していた2023年8月。創作の世界に足を踏み入れたのは、通信高校以前に通っていた熊本県立玉名高に在学中、演劇部に入部したことがきっかけだった。

「当初は、演劇をやっている人に対して偏見があって、正直苦手だったんです。でも冬休みに『冬課外』をサボって見に行った演劇の九州大会で、他校の生徒が演じる舞台に衝撃を受けました。観客と一体になって笑ったり泣いたりする空間に感動して、翌年は自分もその舞台に立ちたいと思いました」

 そこから創作にのめり込んだが、翌21年はコロナ禍で演劇の大会は中止に。「演劇ができないなら、自分で映画を作ればいい」と発想を転換し、映画制作への第一歩を踏み出したという。

「とにかく行動しようと思って、3000万円規模の映画企画書を作って、県庁や旅館組合、地元の映画監督にプレゼンしました。でもその時点では映画をほとんど見たことがなかったんです」

 そんな柳に、新たな出会いがあった。同じく熊本出身の行定勲監督が、自らがディレクターを務める「くまもと復興映画祭に来たら」と勧めてくれたのだ。柳監督は友人30人を連れて映画祭に参加。3日間で数多くの作品を見て、映画の魅力に開眼したという。

「映画祭で山中貞夫監督の『丹下左膳余話 百萬両の壺』(1935年)と林海象監督の『夢みるように眠りたい』(86年)を見て、映画って、こんなに面白いんだと思いました。そこから『20歳までに映画監督としてデビューする』という目標を立て、1年半休学して映画づくりを学び始めました」

 当時、まだ17歳。映画の現場に入るため、自ら売り込みもかけ、スクリプター(記録係)として商業・自主映画の現場に参加。実践を通じて監督業を学んだ。同時に、「美少女図鑑アワード2021九州大会グランプリ」を受賞するなど表舞台でも活躍。全国高校生マイプロジェクトアワード2023では、全国優秀賞、地域Summit特別賞を受賞。俳優としても映画に出演している。

「撮影現場で学ぶことが何より大きかったです。中には、睡眠時間がわずかしかなく、スタッフがどんどんいなくなっていく現場もあって、助監督の仕事までこなしたこともありました。そんな中、通信制高校4年目で『レイニー ブルー』の撮影に入りました」

「キャスティングは全てこだわって選びました」と語った【写真:増田美咲】
「キャスティングは全てこだわって選びました」と語った【写真:増田美咲】

熊本に縁のある俳優が集結「こだわって選びました」

『レイニー ブルー』は、実際の自身の葛藤や心情を投影した作品でもある。

「周囲が進学や就職を目指すなかで、自分は夢のような映画に挑戦している。そのことに葛藤もありました。でも“この感情は信じられる”と初めて思えた。だからこそ自己探求をテーマに脚本を書きました」

 映画にはクラシック映画から着想を得た表現が随所に見られる。

「それには復興映画祭での経験が大きいです。昔の作品が今でも残っていて、それを若者が見ている。そういう文化の循環がすてきだなと。だから商業映画ではなく“残る作品”を目指しました」

 撮影地はすべて熊本。監督自身が日常で見ている風景を映像に収めた。

「鍋ヶ滝や通学路、海辺など、心情と結びつけてロケ地を選びました。印象派の美術から構図を学び、映像にも生かしました」

 キャストには、高良や笠ら熊本に縁のある俳優が集結。小沢はオーディションを通じて参加した。

「キャスティングは全てこだわって選びました。地元の人たちの協力がなければ、この映画は成立しませんでした」

 もともとは医師志望だった柳監督。小学生の頃から医学部体験に参加し、医療の世界に憧れていたという。

「でも、やりたいことが見つかるととことん突き詰めてしまう性格で。だから今は映画に夢中なんです。映画には、人生を変える出会いの力があると思っています」と柳監督。若き才能の今後に期待が集まる。

□柳明日菜(やなぎ・あすな) 2004年2月7日生まれ。熊本県出身。玉名高演劇部で脚本・演出を担当した経験から映画の世界へ。美少女図鑑アワード2021九州グランプリ受賞。全国高校生マイプロジェクトアワード2023で、全国優秀賞、地域Summit特別賞を受賞。俳優としては『緑のざわめき』(23年/夏都愛未監督)『メンドウな人々』(23年/安田真奈監督)に出演。『テクノブラザーズ』(23年/渡辺紘文監督)では初主演。

次のページへ (2/2) 【写真】映画『レイニー ブルー』のオフショット
1 2
あなたの“気になる”を教えてください