元乃木坂46・山崎怜奈、有働由美子キャスター…参政党に意見するとなぜ「荒れる」のか ネット記事に浮かぶ「危険な兆し」
今月20日の参院選投開票から1週間がたった。参政党は議席を改選前の2議席から15議席へと急伸させた一方で、さまざまな疑問も指摘され議論が過熱。その中でテレビ番組出演者の参政党についての発言が、「炎上した」と報じるネットニュースが相次いでいる。しかし、この動きを元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「言論封圧の危機」と指摘した。

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘
今月20日の参院選投開票から1週間がたった。参政党は議席を改選前の2議席から15議席へと急伸させた一方で、さまざまな疑問も指摘され議論が過熱。その中でテレビ番組出演者の参政党についての発言が、「炎上した」と報じるネットニュースが相次いでいる。しかし、この動きを元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「言論封圧の危機」と指摘した。
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これは危うい兆しだと思う。
参院選で議席を伸ばした参政党についてテレビ各局が大きく報じる中、番組で同党に疑問を呈した出演者の発言を「問題視」するかのようなネットニュース記事が相次いで報じられているのだ。
週刊女性PRIMEは22日、「元乃木坂46の山崎怜奈、躍進した参政党への“敵意むき出し”に賛否 問われる報道番組出演者としての“立ち位置」というタイトルで、東海テレビ『ニュースONE』での山崎氏の発言を報じた。同日のsmart FLASHはテレビ朝日系『有働Times』について「有働由美子、参政党への質問に視聴者の違和感…独立当初の“ジャーナリスト宣言”から“エンタメ路線”へのスライドで立ち位置に疑問符」という記事を配信した。これらを目にした読者は、両氏が番組で「行き過ぎた発言」をしたという印象を持つ可能性がある。ネットニュースはタイトルだけ読む人も多いので「敵意むき出し」や「違和感」という言葉のみが脳裏に残った人もいるはずだ。
だが、報じられた両氏の発言に、何か「問題」はあったのか。
週刊女性PRIMEは、開票特番内での山崎氏の「現状に対する不満が神谷(宗幣)さんをカウンターとすることによって放出されている」などの発言を「参政党の増長を“不気味なもの”と捉えるような物言い」と評する「匿名の政治ジャーナリスト」のコメントを紹介している。しかしながら、山崎氏は参政党人気を分析しているだけで「不気味」とは述べていない。また、山崎氏は参政党・神谷宗幣代表のインタビュー後に「率直にすごく心証は悪いなというか」とも述べている。しかし、この発言は「何が有権者に刺さったと思うか」という質問に、神谷代表が「後半だいぶいろんなところにたたかれたんで、たたかれることでまた目立ってですね。それが後半の伸びにつながったと思っています」と答えたのを受けて、各方面からの批判を「たたかれた」「伸びにつながった」と表現する「発言内容」を批判したもの。参政党関係者の「人格」を非難したものではなく、番組での山崎氏の発言は「敵意むき出し」というものではなかった。
有働キャスターは神谷代表に不明点を問い続けた。「核保有国に核を使わせない抑止力を持つ」という参政党の政策について有働氏が質問すると、神谷代表は他国との核シェアリング(共有)の可能性などを示唆。そこで有働氏が「いずれは核を持つことも考えているのか」と問うと、神谷代表は「抑止力が持てればいいので、核に限定はしてません」と回答した。そこでさらに有働氏が「核以外の抑止力って、どういうものがあるんでしょうか」と質問を重ねたところ、神谷代表から出てきたのが「将来的にバリアのようなものは作れるのかもしれませんし、電磁波のようなものですね、一気にそういう敵の機能をマヒさせるという風なパルス攻撃なるものもあるかもしれません」という答えだった。このやり取りで参政党政策の「現実味」に疑問を抱いた視聴者も多いと思うが、それは有働氏が「しつこく」質問を続けた結果だ。もし、「相手が気持ち良く答えられる範囲」で質問を止めていたらこの答えにはたどり着かなかった。
こうした両氏の発言には、どう考えても問題はなく「発言内容」そのものを批判することはできないはず。そこでネットニュースが掲載したのがSNS上に拡がる「人格攻撃」だった。週刊女性PRIME記事には「山崎怜奈さんさ、もう報道系に出ないほうがいいんじゃないかな」「なんかお気持ち表明してて草」、smart FLASH記事には「有働由美子さんってNHKにいたほうが良かった」などの匿名投稿が掲載され、これらが「視聴者の違和感」の証拠とされた。だが、こうしたSNS投稿は「発言内容」の誤りなどを指摘するものではない。出演者個人の背景などを攻撃し、「政治についてしゃべるな」と発言自体を封じようとするものではないか。
事実に基づいて政党を批判することは「言論の自由」そのものだ。自由な議論は民主主義の大前提で、それが封じられた瞬間その国は民主主義国を名乗る資格を失う。しかし、今回の参院選後に目立つのは「異論への反論」ではなく「異論者は黙らせる」という封圧の兆しのように感じる。
しかも、こうしたSNS投稿を著名なネットニュースが取り上げたことで、それらの投稿が大きな世論の動きであるかのように「権威付け」された。確かにネットニュースでは、理屈っぽい主張より感情にもとづく投稿の方が目を引き、ページビューは伸びるだろう。だが、そうした投稿を取り上げて影響を増幅させることは健全な報道なのか。それが「あるべき言論の自由を狭める」という反作用を生まないか、報ずるにあたって慎重に考えることが必要ではないだろうか。
参政党と報道を巡っては、さまざまな議論が起きている。しかし、どんな立場にあっても「事実に基づく言論の自由」は尊重されなければならない。その基盤を死守する取り組みが、今、強く求められていると思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。
