大河ドラマで脚光も15歳で韓国留学 苛烈な競争社会で挫折も経験…渡邉蒼の異色な経歴

俳優として順調なキャリアを歩んできた渡邉蒼が、音楽という新たな表現手段で自らの内面を発信し始めている。7月23日には、最新EP「ボーイズ・イン・ミステリー」をリリース。20歳という節目に踏み出したアーティストとしての挑戦は、渡邉にとっての原点回帰でもあり、ようやく“思い”を形にして世に届けることができたものだった。

インタビューに応じた渡邉蒼【写真:冨田味我】
インタビューに応じた渡邉蒼【写真:冨田味我】

役者とアーティストの両立「まずは有名にならなきゃいけない」

 俳優として順調なキャリアを歩んできた渡邉蒼が、音楽という新たな表現手段で自らの内面を発信し始めている。7月23日には、最新EP「ボーイズ・イン・ミステリー」をリリース。20歳という節目に踏み出したアーティストとしての挑戦は、渡邉にとっての原点回帰でもあり、ようやく“思い”を形にして世に届けることができたものだった。(取材・文=中村彰洋)

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 今回のEPは、これまでにリリースした『歪な春』などの3曲に加えて、新たにオリジナル曲などを加えた全5曲のラインアップ。「大人と子どもの狭間にいるからこそ見える世界だったり、諦めきれていない心情を表現した楽曲を収録しています。モラトリアムだったり、若者が抱えている悩みのようなものを表現しています」と20歳の今だからこそのEPに仕上がったと明かす。

 中でも目を引くのが、山口百恵の名曲『プレイバックpart2』のカバーだ。同曲には編曲にモノンクル・角田隆太が携わっている。「せっかくなので難しい曲にチャレンジしたいという思いで選びました。名曲の魅力をそのままに、どれだけ現代風にアレンジしながら届けることができるかが挑戦でした」と振り返った。

 渡邉のそもそものルーツはダンスにある。幼少期にマイケル・ジャクソンに憧れ、小学3年生でテレビのカラオケ歌番組に出演した経歴を持つ。同時期に度胸試しのような感覚で両親に協力してもらいながら、YouTubeへのダンスや歌唱動画の投稿も積極的に行っていた。

「どうやって僕の映像を見つけていただいたのか分からないですが、以前に所属していた事務所の新人開発部の方から『オーディションを受けてみませんか』と連絡をいただいて、K-POP練習生として小学4年生の頃に所属することになりました。本当にどこにチャンスが転がっているか分からないなと実感しました」

 歌やダンスが好きだった幼少期。小学生の卒業文集に記したのは「エンターテイナーになる」という目標だった。そんな渡邉が演技の道を歩き始めたのは、ひょんな出来事がきっかけだった。

「小学生だった当時、歌詞の内容を経験したことがないのでリアルに表現することができていませんでした。何か歌にプラスの作用があったらと思い、最初は表現力向上の一環で、演技レッスンを受けていました。『せっかくだからオーディションも受けてみようか』と提案していただいて、奇跡的にお仕事がつながっていって、自然と俳優という職業に向き合うようになっていきました。事務所の方もここまで俳優として活動することになるとは思っていなかったと思います(笑)」

25年11月からは『デスノート THE MUSICAL』で主演を務める【写真:冨田味我】
25年11月からは『デスノート THE MUSICAL』で主演を務める【写真:冨田味我】

韓国留学で経験した苛烈な競争「すごく疲れてしまった」

 中学1年生だった2018年にはNHK大河ドラマ『西郷どん』に出演するなど、次第に俳優としての存在感を放っていった。「周囲から褒めてもらうことが多く、それが当時は楽しかったです」。

 順風満帆に成長を続けていたが、15歳の時に「後悔はしたくない」という思いで韓国への留学を決意。歌やダンスへの強い思いがこの決断を後押しした。「しばらく日本での俳優活動ができなくなってしまうのでとても悩みましたが、1度韓国に行っておかないと『あの時に挑戦しておくべきだった』と悔いが残ってしまうと思いました」。

 韓国での生活は想像以上に過酷な日々だった。苛烈な競争社会だったこともあり、精神面への負荷もかかり、結果的には半年間での帰国を余儀なくされた。

「ハードな生活の中で、練習生も多いので『どうやったら人よりも目立てるか』を考える必要がありました。勝ち負けなどを考えることにすごく疲れてしまいました。心が落ちきって、夜も眠ることができず、両親にも『もう無理かも』と電話で弱音を吐いたりもしていました。後先のことは何も考えられず、『とにかく日本に帰ろう』という思いで帰国することにしました」

 志半ばでの挫折とはなってしまったが、この経験が現在の曲作りなどにも生きているという。「自分は他の人よりも心が疲れやすい人間だということを学ぶことができました。今、俳優やアーティストとして活動させていただく中で、そういった部分とも向き合うことができていると思っています」。

 帰国後、次第に心も休まっていく中で「このままやめてしまうのはもったいない」と、役者としての活動再開を決意。これまで以上に芝居と向き合う時間が増えたことで、演技そのものへの楽しさを感じるようになっていった。そして、さまざまな作品を経験する中で、23年に現事務所のホリプロへと籍を移すこととなった。

「もちろん映像作品も大好きですし、たくさんの方に知ってもらうためにも大切なことだと思っています。ただ20代に突入した時に、10年後、20年後に堂々と活動することができるだけの実力が必要だと感じました。そのためにも舞台でよりたくさんの経験を積む必要があると思い、決断しました」

今後の目標についても明かした【写真:冨田味我】
今後の目標についても明かした【写真:冨田味我】

楽曲を通して伝えたい思い「どこかで悩んでいる人たちの待ち合わせ場所になれば」

 24年7月から約1年間、ロングラン上演の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でメインキャストとなるアルバス・ポッターを務め、25年11月からは『デスノート THE MUSICAL』で主演の夜神月役に挑戦する。わずか数年で話題舞台の中心を担うようになっていった。

「最近は“誰かと作品を作る”ということへの意識が強くなっています。今までは何でも1人でやってしまう癖がありましたが、『ハリー・ポッター』をやっている時に、1人での限界がハッキリと見えるようになりました。『ここから先は周りの協力がないと無理だな』って。『デスノート』では主演をやらせていただきますが、いろんな人に頼りながら、そしてできるだけ誰かに頼ってもらえるような存在でありたいと思っています」

 24年11月には初の音源をリリース。アーティストとしての活動も本格始動させることとなったが、これも現事務所の環境が背中を押してくれた。

「今の事務所に所属させていただいて、自分のやりたいことが否定されない環境にきたんだなと感じることができました。今までは役者イメージとの両立が難しく、諦めていた部分もありましたが、『それとこれは別』と考えていただける方々と出会うことができました。『やっぱり音楽をやりたい』という自分の中での欲もどんどんと上がっていき、いろんなタイミングが奇跡的に重なり、楽曲をリリースすることができました」

 紆余曲折を経てたどりついた俳優と音楽活動の両立という現在の形。さまざまな苦楽を経験した渡邉だからこそ、表現できるものがある。

「他人には言いづらい悩みのような思いを作品を通して発信していくことで、僕の作品がどこかで悩んでいる人たちの待ち合わせ場所みたいな存在になることができたらと思っています。そのためにもまずは有名にならなきゃいけないと強く思っています。全部の人に好かれたいとは思っていません。聞いてくれた10人のうち1人が僕のことを好きになってくださる、それが100人になったら10人の方に好きになってもらえる。いろんな人に出会うためにも知名度を上げる必要があると痛感しています」

 20歳という一区切りのタイミングを迎えたことで心境にも変化が生まれている。

「自分の欠点を色濃く感じることが増えてきました。そういった部分と向き合って、悩みながら成長を続けていきたいです。まずはシンプルに“良き人”でありたいと思っています」

 若くして挫折を経験した渡邉だからこそ、届けることのできる思いがある。そんな心情を作品を通して繊細に紡いでいく。

□渡邉蒼(わたなべ・あお)2004年10月14日生まれ。16年に『Chef~三ツ星の給食~』(フジテレビ)で俳優デビュー。18年には大河ドラマ『西郷どん』(NHK)に出演し、注目を集めた。24年には舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でアルバス・ポッター役、25年11月からは『デスノート THE MUSICAL』で夜神月役を演じる。24年から音楽活動も本格化。7月23日にはデジタルEP「ボーイズ・イン・ミステリー」をリリースした。

最新EP「ボーイズ・イン・ミステリー」をリリース
最新EP「ボーイズ・イン・ミステリー」をリリース

○渡邉蒼 Digital EP「ボーイズ・イン・ミステリー」
Download/Streaming:https://orcd.co/boysinmystery_aowatanabe
<収録曲>
M1.歪な春
M2.3mg
M3.拍拍
M4.プレイバックpart2
M5.〈新〉地動説

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