アイドル衣装の役割は「話題にあがること」 AKB48衣装総責任者が語った“全員納得”の難しさ
数々のアイドル衣装を生み出してきたクリエイティブディレクター・茅野しのぶさんが、自身の半生と衣装への愛をつづった初の著書『アイドル衣装のひみつ~カワイイの方程式~』(Gakken刊 )を6月5日に発売した。これまで約4万着以上も手掛け、今やアイドル衣装の“第一人者”に。その道のスタートとなったのが、2005年にデビューしたAKB48。今も一緒に歴史を作るAKB48について、思いを聞いた。

茅野しのぶさんが衣装への愛をつづった著書『アイドル衣装のひみつ~カワイイの方程式~』
数々のアイドル衣装を生み出してきたクリエイティブディレクター・茅野しのぶさんが、自身の半生と衣装への愛をつづった初の著書『アイドル衣装のひみつ~カワイイの方程式~』(Gakken刊 )を6月5日に発売した。これまで約4万着以上も手掛け、今やアイドル衣装の“第一人者”に。その道のスタートとなったのが、2005年にデビューしたAKB48。今も一緒に歴史を作るAKB48について、思いを聞いた。(取材・文=福嶋剛)
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――茅野さんは、AKB48グループの衣装総責任者だけでなく、2014年から17年4月までの約3年、グループの総支配人とAKB48劇場の支配人も務めました。AKB48の始まりから見てきた1人として、現在のAKB48はどのように感じますか。
「AKB48らしさは今も昔も変わっていません。もちろん大変なこともあると思いますけど、秋元(康)さんがよく言っていらっしゃる、『求められたものに対して泥臭く、とにかく一回やってみよう』と全力で頑張っているところは変わらないです。もちろん、時代に合わせたコンセプトの変化もありましたし、劇場もリニューアルしましたけれど、チャレンジ精神は、ずっと持ち続けているグループです」
――AKB48の魅力はそこにあると。
「自分たちで考えて作ったものを秋葉原の劇場からファンに届けて、そのファンの反応を確認して、また考える――。秋元さんが『秋葉原のAKB48劇場は産地直送劇場だ』ってよく言っていましたけど、そんな物語を紡ぐ場所があるというのは最大の強みですし、そこで生まれるドラマとカオスがAKB48の最大の魅力だと思います」
――ドラマチックといえば2018年まで続いたAKB48選抜総選挙もそうでした。
「私たちは裏でドキドキしながら発表を見ていました。なぜならその翌日、選挙で決まった選抜メンバーのコンサートに向けて衣装を用意しなくちゃいけないから。私たちの予想なんて全く当たらないですし番狂わせもあって、裏では、『あの子のサイズの衣装がない!』『どうしよう!』なんてパニックでした(笑)。私1人で朝までに全員分のパンツを作ったこともあります。それが終わると今度は2週間後のMV撮影に向けて衣装を準備していたので、毎回仲間たちと『こんなドラマってある?』ってよく言っていました。メンバーも毎回本気でしたし、エースはエースの悩みがあり、追う側には追う側の悩みがある。頑張っても報われない子もいました。そんな葛藤するメンバーの姿、全てに真実がありました」
――スタッフもそれに応えるように本気で向き合った。
「そうですね。卒業メンバーもずっとAKB48を好きでいられるっていうのがやっぱりグループの良さなんだと思います」
――茅野さんは衣装担当として、大人数のグループに対し、どのような考えで衣装を作っていったのでしょう。
「『エンタメは新しいものを生んでいかないといけない』と思うので、常々無難に作ってはいけないと自分自身に言い聞かせてやってきました。もう一つは、いろんな人の意見を全て聞いてしまい、結局、誰にも求められていないものを作るのも嫌でした。私は衣装を作る前に、一人ひとりメンバーと話をするのですが、意見をまとめるためではなく、そこで出てきた面白い案や飛び抜けたアイデアなど、バラバラの意見があるからきっと面白いものができると信じて、作るように心がけています」
――全員が納得する衣装を作るのは難しいですか。
「メンバーもファンも納得していない人はいると思います。でも衣装の役割で大切なのは、着てくれたメンバーたちも含めて話題にあがることなんです。今はSNSで賛否両論も含めてどれだけ注目されるか、その書き込みが多ければ多いほど、結果として話題になる衣装を作ることができたということだと思っています」
――衣装づくりのこだわりを教えてください。
「ファン、メンバー、プロデューサーとそれぞれが求めているものと、目的に合わせた衣装を作るよう心がけています。ライブに関してはファンが一番喜ぶ衣装を考えたいと思っています。ファンのみなさんに『推しがかわいい』と思ってもらえるポイントを入れて、SNSで盛り上がってもらえたらなって。メンバーに関しては、着心地の良さやかわいらしさに加えて、新しい衣装で自分の個性をどう見せられるかどうかも大切なポイントです。イコノイジョイ(=LOVE、≠ME、≒JOYの3グループの総称)は、女性ファンにときめいてもらいたいのでAKB48とは違ったコンセプトで工夫しながら作っています」
――多くのアイドルの衣装を手掛けられてきましたが、茅野さんのターニングポイントは。
「AKB48の衣装を始めた頃は、何も気にせずに突っ走っていたんですが、自分自身、視野が広がり成長していくに連れ、いろんな景色がリアルに見えてきたんです。『ヘビーローテーション』(2010年)から『フライングゲット』(2011年)の全盛期、人生で一番衣装を作っていた時期なのに『私以外の人が作った方がAKB48に相応しいんじゃないか』って思ってしまったり……自分を見失い、自信を無くしていました。それからずっと辞めたいと思いながら1年間続けて、とうとう自分の中でパンクしてしまい、少し仕事から距離を置くことを決めました」
――しばらくお休みされたんですね。
「1人で旅行に出かけました。仕事もAKB48の情報も遮断して、海外のいろんなショーを見ていました。でもそのうちに自然と頭の中でAKB48のことばかり考える自分がいたんです。そしたらやりたいことが次々に浮かんできて、結局10日で会社に戻りました(笑)。でも、『今度は1人でやるんじゃなくて仲間を作ろう』と思い、会社(オサレカンパニー)を立ち上げました」
――近年はアイドル衣装だけでなく、学校や医療現場の制服などさまざまな制服をプロデュースされている そうですね。
「学校の制服は悩みの多い生徒さんたちに元気になってもらえるようにと思って作って言います。かわいかったり、カッコいいデザインの制服を着ることで自己肯定感を少しでも上げてもらえたらいいなって思います」
□茅野しのぶ(かやの・しのぶ) 1982年7月9日生まれ。埼玉県出身。株式会社オサレカンパニー、取締役兼クリエイティブディレクター。AKB48創設当初より総合プロデューサー秋元康氏の下で衣装担当として活動。その後、デザイン・衣装・ヘアメイクなどの事業を担うオサレカンパニー社のクリエイティブディレクターに就任。メンバーの個性を引き出すデザインと豊富なバリエーションで、これまでに携わってきた衣装はおよそ4万着。AKB48以外にも、=LOVE、≠ME、≒JOYといったアイドルから、声優、コスプレイヤー、2.5次元アーティストの衣装も手掛ける。さらに近年は、学校・医療の制服のプロデュースにも尽力している。
