高すぎるマンション、中古物件の“裏技”に注目 お手軽価格に1部屋400人待ち…“争奪戦”もエスカレート

都内で相次ぐマンション価格高騰を背景に、空き家や中古マンションのリノベーションに関心が高まっている。新築同様の内装でありながら費用が格段に抑えられると人気の一方で、気になるのが地震や漏水などのトラブルに対する安全性だ。そんなリノベ物件の不安を払拭(ふっしょく)しようと、中古物件に業界独自の検査基準を設ける動きが広がっている。都内を中心にリノベ賃貸物件を提供する不動産会社リズム取締役で、昨年、国土交通省から認可を受けた一般社団法人リノベーションバリューデザイン協議会の代表理事も務める挽地裕介氏に、再評価される中古物件の実情を聞いた。

【写真】一級建築士によるインスペクション調査の様子【写真:リノベーションバリューデザイン協議会提供】
【写真】一級建築士によるインスペクション調査の様子【写真:リノベーションバリューデザイン協議会提供】

新築同様の内装でありながら費用が格段に抑えられると人気のリノベーション物件

 都内で相次ぐマンション価格高騰を背景に、空き家や中古マンションのリノベーションに関心が高まっている。新築同様の内装でありながら費用が格段に抑えられると人気の一方で、気になるのが地震や漏水などのトラブルに対する安全性だ。そんなリノベ物件の不安を払拭(ふっしょく)しようと、中古物件に業界独自の検査基準を設ける動きが広がっている。都内を中心にリノベ賃貸物件を提供する不動産会社リズム取締役で、昨年、国土交通省から認可を受けた一般社団法人リノベーションバリューデザイン協議会の代表理事も務める挽地裕介氏に、再評価される中古物件の実情を聞いた。

 リズムがプロデュースする賃貸ブランド「REISM」は、ワンルームに特化した投資マンションブランド。リノベ物件というと、近年、リフォームした団地やマンションを求めるファミリー層の需要が高まっているが、同社ではワンルームに目をつけることで独身世代の“ニッチ”なニーズを発掘している。手がける物件は平均25平米で、賃料は月10万円程度。年収に少し余裕の出てきた世代が、理想のライフスタイルを重視し、最後の一人暮らしに選ぶような物件を中心に取り扱っている。一般的な賃貸情報サイトでは、新規の契約が入ると掲載ページから物件情報が削除されるが、リズムの賃貸ブランドサイトでは入居中であっても物件情報の掲載を続けており、常に数十人から数百人もの入居希望者が物件が空くタイミングを待ち、ときに“争奪戦”が起こるような人気物件もあるという。

「現在約1000戸の物件を掲載していますが、サイトには4万1000人が登録している状況で、1部屋に400人待ちという物件もあります。当然、供給に対し需要が大きい分、空室リスクは低く家賃も上げられる。ウェイティングに成功している理由が、36のシリーズがある具体的な内装コンセプトです。壁一面が本棚というお部屋や、キッチンが大部分を占める料理中心のお部屋など、住みたい暮らしを可視化し提供することで、入居者が殺到する仕組みとなっています。独自のリノベーション不動産ブランドとして、投資家と入居者、双方の視点を持つようにしています」

 マンション投資には通常、空室や家賃下落といったリスクが付きものだが、投資家目線では、古くても入居者から選ばれ続ける物件として価値を再生産。一般的に、賃貸物件の家賃相場は1年たつごとに約900円ずつ値下がりしていくと言われるが、リズムの物件は平均で年間166円ずつの値上げを維持している。リノベーションを行うのは新耐震基準をクリアした1981年以降のものに限り、現在築40~44年の物件が中心。現在の家賃から一律で22%の引き上げが可能で、古い物件でも安定して不動産収入を得ることができるという。

デメリット解消の取り組みも

 新築マンション価格の高騰を背景に、居住/投資のいずれの目的からも、購入価格の安さで注目を集めているリノベ物件。一方で、挽地氏は「リノベーションで変えられるのは居室の中だけで、マンションの建物全体の改装はできません。管理の面では、漏水や修繕費用の積み立てなど、古さのデメリットはどうしてもあります」とその課題も指摘する。

 そんなリノベ物件のネックを解消しようと、挽地氏が旗振り役となって立ち上げたのが一般社団法人リノベーションバリューデザイン協議会(RVDC)だ。リノベーション企画社のリズムを中心に、不動産会社、施工会社、工務店、金融機関、不動産調査会社などさまざまな事業者の参画によって構成され、リノベ物件の価値を適正に評価していく仕組みとなっている。昨年2月の発足後、同年5月には国土交通省から住宅ストック事業者としての認可を取得。老朽化物件の管理や空き家問題など、さまざまな住宅問題の解決を期待されている。

「通常のリノベーションでは見えない給排水管はそのままなど、表面的な改築にとどまるケースも多くありますが、RVDCの案件ではリノベーション前に専有部分全体をフルスケルトン(骨組みだけの状態にすること)にして解体。外部の一級建築士により、一律の基準でインスペクション(建物状況調査、物件の状態を客観的に把握するための調査)を行い、漏水などの問題がないか確認をしていきます。基準をクリアした物件には協議会が認定証を発行し、金融機関からも一定の価値評価が得られる仕組みとなっています。仮にオーナーが売却するときでも、金融機関の物件評価額に上乗せした付加価値をプラスできるのです」

 近年、日本全国で空き家の問題が深刻化しているが、放置された空き家の半分は賃貸住宅という現実がある。

「オーナーも自分たちが住む物件ではないからと、管理組合に任せきりだったり、放置状態になっているマンションが増えています。マンションは経年すると修繕のための管理費がよりかかるようになりますが、管理費や修繕費を高く設定すると手取りの家賃が減り、物件評価額が低く見積もられることになる。よりよい物件を維持しようと管理費を上げるのに、それによって物件評価が下がるというジレンマがあるのです。そこを見直して正当な価値を担保することは、粗悪な管理組合を減らしていくことにもつながる。賃料や利回りの設定評価基準を見直し、中古物件にも正当な価格が認めていくことは、不動産価格を維持する取り組みにもなると考えています」

 都内のマンション価格は高止まりが続いているが、外資の不動産マネーは今後もどんどん流れ込み、不動産価格はさらに上昇していくことが予想されている。「世界的に見れば、金利や利回りの面からも日本市場はまだまだ圧倒的に魅力のある投資環境。だからこそ、新築マンションだけでなく、今ある中古マンションの価値も正当に評価される世の中にしていきたい」と挽地氏。温故知新、古いものの良さも再評価していくRVDCの取り組みに期待が高まる。

次のページへ (2/2) 【写真】一級建築士によるインスペクション調査の様子【写真:リノベーションバリューデザイン協議会提供】
1 2
あなたの“気になる”を教えてください