参政党による『報道特集』厳重抗議の是非、弁護士が指摘した「そもそも抜け落ちた点」とは

参政党は今月13日、同党の外国人政策などを取り上げた12日のTBS系『報道特集』を「選挙報道として著しく公平性・中立性を欠く」と批判する申入書を提出した。これに対してTBSは14日、「(同番組には)高い公共性、公益性がある」と回答。すると、参政党は「本質的な問題点には一切触れない回答」としてBPO(放送倫理・番組向上機構)への申立の意向を表明した。両者の対立が激化する中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、参政党の抗議について「そもそも抜け落ちた点がある」と指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘

 参政党は今月13日、同党の外国人政策などを取り上げた12日のTBS系『報道特集』を「選挙報道として著しく公平性・中立性を欠く」と批判する申入書を提出した。これに対してTBSは14日、「(同番組には)高い公共性、公益性がある」と回答。すると、参政党は「本質的な問題点には一切触れない回答」としてBPO(放送倫理・番組向上機構)への申立の意向を表明した。両者の対立が激化する中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、参政党の抗議について「そもそも抜け落ちた点がある」と指摘した。

 参政党のTBS系『報道特集』に対する抗議には、厳しい言葉が並んでいる。13日、同党は「『報道特集』が当党の外国人政策を正確に報道せず、誤導した」などと断じ、「報道が意図的に偏向されるような事態が許容されれば、日本の政治、そして民主主義の将来に深刻な影響を及ぼしかねない」と主張。さらに同党・神谷宗幣代表に対して以前から「街頭で刺し殺す」などの脅迫が寄せられていると明かした上で、「一方的に当党を批判的に描写する報道姿勢は、暴力を助長しかねない」「ちょうど3年前、安倍晋三元総理が選挙演説中に銃撃され命を落とすという未曽有の事件が起きたばかりであり、民主主義における政治的言論活動を暴力から守る意識は、社会全体で共有されるべき」とも述べている。

 だが、この参政党の抗議をよく読むと、あることに気付く。同党が『報道特集』の放送内容のどの部分を不正確で誤導と考えているのか、具体的な「事実」の指摘が書かれていないのだ。

『報道特集』は神谷代表の「いい仕事に就けなかった外国人の方は、資格を取って来てもどこか逃げちゃうわけですね。そういう方が集団を作って万引きとかをやって、大きな犯罪が生まれています」「『お金がないから』って来て、『生活保護をすぐください』とかそんなもん、ない。お金がないなら帰ってって話ですよ」という発言を紹介。その上で、在留外国人数は増加しているが外国人犯罪の件数は減少傾向にあり、生活保護を受ける世帯に占める割合もわずかだという「事実」を示した。

 また、参政党のある候補者が博士課程の学生を支援する「次世代研究者挑戦的研究プログラム」について「外国人の留学生には1人1000万円、お金がもらえる。日本の学生さんどうなのかと」と発言したことを紹介。この制度は日本人も外国人も関係なく審査を通った優秀な学生に適用され、「外国人の留学生にはお金がもらえる」という制度ではない「事実」を示した。

 このように『報道特集』の放送は、参政党が主張の土台とする「事実」の認識に誤りがあるのではないかと指摘している。これに対して、参政党が抗議するなら「報道特集の放送のうち、この点とこの点は誤報だ」と具体的な「事実」について指摘することが必要なはず。しかし、TBSに対する申入書には「正確に報道せず、誤導した」という記載の後に書かれるべき「具体的にはどの報道内容が正確でないのか」という事実についての主張が、すっぽりと抜け落ちているのだ。

 その代わりに同党の申入書に書かれていたのは「報道特集」を「偏向報道」と断ずる主張だった。同党は「登場した関係者はすべて当党に批判的な立場であり、擁護・理解を示す視点は一切紹介されませんでした」と主張。14日には「政治的公平性を損なう報道に対して毅然と対応」するとして、放送倫理に関する第三者機関・BPOへの申し立ての意向を表明した。

 だが、「政治的公平性」の本当の意味は何か。実はBPOは「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」と題する意見書で既にその結論を出している。

当たり障りのない選挙報道を批判

 この意見書でBPOは「政党や立候補者の主張にその基礎となる事実についての誤りが無いかどうかをチェックすることは、マスメディアの基本的な任務である」「候補者や政党にとって不都合な争点が意図的にあいまいにされないよう目を光らせることも重要である」として当たり障りのない選挙報道を痛烈に批判。選挙期間中も報道は原則自由とした上で、こう明言した。

「その結果、ある候補者や政党にとって有利または不利な影響が生じうることは、それ自体当然であり、政治的公平を害することにはならない」

 報道機関として問題と考える点を事実に基づいて指摘し、その結果ある政党に不利になっても、何も問題ない。「政治的公平」とは問題点があれば相手が誰であってもきちんと指摘するという「報道のスタンス」の公平であって、「ある政党を批判するときは、擁護の声もあわせて紹介してフォローする」という「放送結果の平等」ではないのだ。

 参政党は『報道特集』の取材対象の人選も批判したが、同番組が取材したのは外国人留学生やヘイトスピーチを受けた男性など外国人政策の当事者や関係者。こうした人の事実に関する証言を報じることは「問題提起」であって「偏向」ではないだろう。そして「問題提起」に対して政党がとるべき姿勢は、「抗議」ではなく「説明」のはずだ。

 SNS選挙を巡る議論が続く中、今回の参院選では、選挙期間中もファクトチェックが積極的に行われるなど報道に変化の兆しが見える。今回の『報道特集』への抗議がこの流れを止めないように、この先の展開を注視しなければならないと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube「西脇亨輔チャンネル」を開設した。

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