「サップ西成を殺してました」 前田日明襲撃事件でどん底も…BreakingDownで「表舞台に出れた」

13日の『BreakingDown16』(大阪・おおきにアリーナ舞洲)で“ドヤ街の番長”サップ西成が“地元凱旋”を果たす。2013年9月の前田日明襲撃事件で逮捕され、どん底を経験。BreakingDown参戦により、再び脚光を浴びた。「最強の半グレ」と呼ばれ恐れられた男には、家庭も含めてさまざまな変化が起こっていた。経営する大阪の飲食店を訪ね、決戦直前の胸中を聞いた。

サップ西成【写真:ENCOUNT編集部】
サップ西成【写真:ENCOUNT編集部】

一度は別れを告げた「サップ西成」、BreakingDownで復活

 13日の『BreakingDown16』(大阪・おおきにアリーナ舞洲)で“ドヤ街の番長”サップ西成が“地元凱旋”を果たす。2013年9月の前田日明襲撃事件で逮捕され、どん底を経験。BreakingDown参戦により、再び脚光を浴びた。「最強の半グレ」と呼ばれ恐れられた男には、家庭も含めてさまざまな変化が起こっていた。経営する大阪の飲食店を訪ね、決戦直前の胸中を聞いた。

 待望のBreakingDown大阪上陸に、サップは興奮を隠さずに言った。

「いや、もうめちゃくちゃうれしいですね。やっぱお祭りなんで。何十万人、何百万人に見られてると思うんすよ。その前でけんかできる、ど突きあいできるからもうワクワクしてます」

 対角線に立つのは、因縁のヒロ三河。2009年から拳を交えてきた宿敵だ。相手にとって不足は何一つない。「僕も駆け引きはできひんので。もう殴りにいくだけ。殴りにいくだけです、ホンマに」。壮絶な打ち合いを覚悟した。

 BreakingDownが大阪で開催されることには、特別な思いがある。

「やっぱ地元なんでね。毎回東京じゃないですか。見に来れない人らが多いんで。仲間、お客さんもそうですし。大阪やったら近いんで、結構みんな来てくれるんで。まあ楽しみです」

 チケットは完売。これ以上、人を呼びたくても呼べない状況だという。それでも「1000人ぐらいは応援してくれるんじゃないですかね」。当日は大阪と茨城による喧嘩自慢対抗戦が行われ、そのトリを飾るサップの試合が注目を集めることは必至だ。

 西成に生まれ、幼少時代は両親の離婚もあって極貧時代を過ごした。学校では「めちゃくちゃいじめられっ子」。その上、泣いて帰宅すると、7つ上の兄から鉄拳が飛んできた。高校時代は柔道家として井上康生と肌を交えたこともある有望選手だった。しかし、その半生は波瀾万丈だった。

 高校を中退すると、街に出てはけんかを繰り返す、荒れくれ者になった。地下格闘技に進出し、運営として団体の責任者を務めていたものの、大会の関係者を語った不良や輩によるトラブルがあちこちで発生。サップは無関係を訴えたものの、一方的に「半グレ」認定されて崩壊。解散に追い込まれる。

 そして不祥事の極めつけが、13年に起きた前田日明襲撃事件だ。大阪で行われた『THE OUTSIDER』第9試合後、仲間とともにリングになだれ込み、前田をつかみにかかった。団体と関係ある選手に試合出場の声がかからず、その悔しさが極限に達していたことが引き金だった。会場は大混乱に陥り、警察が出動。試合は一時中断となった。

 そこからは暗黒の時代を過ごした。

「サップ西成を消してましたね。殺してました」

『つどい 福』には大勢のファンが集まる【写真:ENCOUNT編集部】
『つどい 福』には大勢のファンが集まる【写真:ENCOUNT編集部】

サップが明かすどん底…スタッフが600万円持ち逃げ

 どちらかというと、社会から抹殺されたのかもしれない。空白期間は約10年に上る。

 悪名高い「サップ西成」の名前は、自分でもコントロールできないほど、巨大になっていた。イベントや百貨店の催事に出店して生計を立てたが、ゆく先々で「名前」が邪魔をした。

「商売したらサップ西成やからダメとか、半グレやからあかんとか」

 いくら声を潜めて暮らしても、甘くない現実に、金銭的にも困窮する。年末に出店したB級グルメが大コケ。さらに入金されるはずの売り上げ約600万をスタッフに持ち逃げされた。高利貸しから金を借り、なんとか食いつなぐ日々。浮上の糸口さえ見えず、人生のどん底を経験した。

 しかし、23年8月、BreakingDownに参戦したことが、転機になった。

「もう全然変わりましたね。人生ちゅうか、ホンマに変わったな。いろんな人が知ってくれる。僕が18年ぐらい前、現役で地下格闘技出てた時の客層とかが、『またBreakingDownでサップ西成出てるぞ』と。『サップまだやってんねや』みたいな感じで、みんな応援してくれたりしますね。『まだこの年でやってんやったら応援するわ』とか『店やってんの行こうわ』とか。僕配信とか苦手で、周りが『絶対やれやれやれ』言うて、YouTubeもTikTokもやり出して。ほんで、『あれ? サップさんってこんなんなんや』って、ちょっと世間の見る目も変わったっちゅうか。全然変わりましたね。『あれ、優しいやん』みたいな。もっと怖い人と思われていた。それが大きいすね」

 大阪・北新地のサップの店『つどい 福』。3年前にオープンした時は、まだBreakingDownに参戦しておらず、本名の金城旭で出店していた。

「隠してたんです。サップの店って分かったら、みんな嫌がるから。やっぱ悪いうわさが多いんで」

 風向きが変わってきたことは、家庭内の変化からも感じている。

「自分娘おるんすけど、娘もやっぱ分かるじゃないですか。スマホ世代なんで。BreakingDown出るまでは、サップ西成ってググったら、事件とか逮捕されたことしか出てこないんすよ。でも今BreakingDown出だして、まあええことも結構載るんで。だからそれで、まあ今娘とかも、『サップ西成の娘やねん』って、堂々と言ってくれてるんでうれしいっすよ。それまで隠してましたから」

BreakingDownは「合法的なけんか」ができる場所

 家族には苦しい時期にも支えてもらった。やましいことはないが、万が一、危険が及ぶことを避けるため、現在でも別居状態という。「BreakingDownみんな見るじゃないですか。パパやんって言うてくれるから。それはむちゃくちゃありがたいですね。表舞台に出れたって、感覚的にそんな感じです」。もう誰一人、逃げも隠れもしなくていい。サップは訪れた幸せの瞬間をかみしめている。

 今、前田日明襲撃事件をどう思っているのだろうか。

「もっと交渉したらよかったかな。襲撃じゃなくて。コンタクト取って、こんだけ選手抱えてるから出さしてやってくれとか、そういうやり方もあった。今やからですよね、分かるのは。その時やっぱ突発的にカッとなってしもうて。なめとんなこいつらみたいな感じでいってしまったんで。この年になったらもっと選択肢があったなと。そこは反省ですね。ほんなら周りも巻き込まずに済んだ。逮捕者も出たんで」

 空白の10年間は埋められない。しかし、サップ西成の名前は捨てずによかったと心から思っている。

「僕『継続は力なり』って言葉好きなんですよ。ずっとサップ西成をやってきて、今ホンマよかったなと思ってます。しんどい時もあったけど、ずっとやっとったらええことあるやろうと。サップ西成じゃなかったら、たぶんBreakingDown出れてないですよ。サップ西成、大阪のやんちゃが出るぞって、向こうもピックアップしてくれたと思うんすよ」

 BreakingDownとはどんな舞台なのか、改めて聞いた。

「もうホンマ、合法的なけんかができる。自分、今まで何千人の前で試合もやってきてるんで。48歳なんですけど、この年でも、自分は殴り合い好きなんで。それをお披露目できる。生きがいっすよね。まだなんか需要もあるし、サップ頑張れっていう声もめちゃくちゃあるんでね。ま、自分のためにやってるんすけどね。自分が好きやから。あっちこっちけがもあるんですけど、好きなんでやってます」

 オヤジ世代の代表としての心意気もある。

「やっぱ、若い奴に負けたくないっていうのはあるんで。俺はこの年で負けへんぞっていうのを見せていきたい。俺を見ろよ、元気出せよ、若い奴に負けんなよみたいな感じっすよね」

 一度地獄を見た男は強い。『BreakingDown16』は待ちに待った“ど突き合い”。心ゆくまで味わい尽くすつもりだ。
 
□サップ西成(さっぷ・にしなり)1977年6月、大阪・西成区出身。中学で柔道を始め、宮崎の高校に特待生で入学も中退。街に繰り出してはけんかをし「ケンカ番長」の異名を誇る。地下格闘技『喧王』で3度優勝。2007年、大阪発の地下格運営団体の立ち上げに協力し、のちに社長に就任。13年、大会が「半グレ」認定されたため解散。同年9月、前田日明襲撃事件を起こす。23年からBreakingDown参戦。住之江区に居酒屋「左福」も経営している。

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